パティシエント編集部の赤座です。
新型コロナウイルスによる緊急事態宣言が全国39県で解除され（5月19日時点）、今後はコロナ感染予防を意識しながらの新しい生活様式が推奨されています。コロナとともに生活する「ウィズコロナ」もしくは「アフターコロナ」と呼ばれる時代に突入しますが、その環境でみなさんが就職・転職活動をどのように進めていくべきか、パティシエントは考えてきました。
そんな中、私たちは今回製菓専門学校に通う学生さんや専門学校で働く先生方、また企業に向けて「就職活動・採用活動」について聞き取り調査とアンケートを実施。見えてきたのは、2021年卒業の新卒生の就職活動は想像以上に進んでいないという深刻な現実でした。それは来年、再来年の”若手育成””技術継承”に大きな影響を与える可能性があります。コロナ禍の今、次世代のパティシエをどう守っていくことができるのでしょうか。今回の調査で集まったコメントを抜粋しながら、考えてみたいと思います。
85.1%の学生が「就職活動が不安」と回答。
学校生活、就活、卒業について学生の意見は？
まず見ていただきたいのが、全国188名の専門学生に対し今後の就職活動についてWebアンケートの結果。就職活動については「始めていない」が79.2%であるにも関わらず、全体85.1%もの学生が「今後の就職活動に不安がある」と回答（図1）。実際に就職活動が始まる前から不安を抱えていることが分かりました。
▲図1：全国の製菓専門学校に通う学生へのWebアンケート調査（サンプル数：188人、調査期間：5/3〜5/8）
- 個人店のカフェやパティスリーの食べ歩きができないので調べることができません。（東京・専門2年生）
- 説明会がない。休校のため先生に相談できない。（東京・専門2年生）
- 就職についてこちらから一方的に電話する毎日でサポートを十分にしてくれず、不安な毎日です。（東京・専門2年生）
- 合同説明会が中止になったり、選考が延期になったり不安に思うことはたくさんあります。コロナウイルスがいつ収束するのかも分からないので、もし内定を頂いても研修なども例年通り行えるのかどうか…。自分の将来を決める大切な期間に思うように行動出来ず、とてもやりづらく感じています。（東京・専門2年生）
- 就活の連絡も何も無く課題も何も無く放置されてる状態です。（神奈川・専門2年生）
- 不景気の中雇ってもらえるのか分からなくて就活が不安です。（兵庫・専門1年生）
- 企業説明会にも参加できず、学校に行けないので求人票すら見れない状況に不安しかないです。（兵庫・専門2年生）
- 中々就活が目の前にあるようでないような感じです。動かなければいけないんですが何からすれば良いか悩み中です。（大阪・専門2年生）
- コロナのせいで売り上げが落ちてしまうから今年は社員募集はしない、と言われた。（広島・専門2年生）
調査を行なった段階ではほとんど学校が休校になっており、就職活動はもちろん本来行う予定だった授業・実習も進んでいないとのこと。また「実習など本来学べるはずだった勉強の機会が減りやるせない気持ち」「授業や実習がないのに学費だけ取られてとても親に申し訳ない」「分からないのにオンラインで授業しようとしている。技術面が問われる職なのに、不愉快に思う」など、学校対応についてもコメントが寄せられました。
また、不要不急の外出自粛を呼びかけられる中、就職活動の下調べである「食べ歩き」にも影響が出ています。実際にお店を見て、お店のケーキを食べて、働きたい職場を探す。そんなパティシエ通例の就職活動ができない状況に陥っているようです。
92.2%の学校が「就職指導進まず」。
オンラインの導入は必須？
コロナの影響について全国の専門学校51校に電話での聞き取り調査を行ったところ、調査実施時点では41校が休学措置をとっており、学生対応ができていないと回答。さらに学校に届く求人数について67.3%が「例年と比較して減っている」と感じていることもあり、就職指導は現状92.2％の学校が例年通りできていないと回答しました（図2）。
▲図2：全国の製菓専門学校への電話聞き取り調査（サンプル数：51校、調査期間：5/3〜5/8）
- 例年、求人を確保するためにパティスリーや企業に連絡をしているが今年は断られることが多い。（福島・専門学校）
- いただいている求人含め、本当に募集するのか。インターンシップ含め活動開始時期を検討中。（東京・専門学校）
- 事業の形態によっては、人員削減しているところもあり、不安定である。（愛媛・専門学校）
- 学校が再開したら単位取得で忙しくなると予想される。（静岡・専門学校）
- 求人票は4月までは例年通り来ていたけど4月半ばからは減っていて、例年よりだいぶ少ないと感じる。（福岡・専門学校）
学校が再開しても、実習・授業は密集を避ける方法で進めていかなければいけません。1年制もしくは2年制で在学期間が限られる中で、学校としては国が定めた単位を取得させ、卒業および製菓衛生師の資格取得の指導を行うことが優先となります。
同時進行で就職ガイダンス・個別の面接指導などを進めるのは至難の業。「キャリタスを導入し、求人をオンラインで確認できるようにした」「オンラインやwebでの説明会を積極的に取り入れたい」「時間と費用が削減できるのでオンライン説明会を企業にお願いしている」といった”オンライン導入”の重要性を再認識し、前向きに検討しているとのことでした。
50%近くの企業が「新卒採用は検討中」と回答。
先が見えない中での採用活動に不安の声続出。
そして、企業の現状。当サイトに掲載している店舗を中心とした洋菓子事業を行う企業381社に対し、電話での聞き取り調査を行ったところ、新型コロナウイルスの影響によって多くの企業が「業績が悪化した」「先の見通しが立たない」と不安の声を漏らしました。その影響から、新規採用の停止や企業説明会中止、選考の見直しが相次いでいます。実際に50.4%が新卒の採用については検討段階であると回答し、今後の採用には慎重な姿勢を見せました（図3）。
「採用しない」と回答したのは影響が特に大きかったホテル・ブライダル、「例年通り採用を行う」と回答したのは郊外型パティスリーが多く、採用枠は1〜2人程度に限られるとのことでした。
▲図3：全国の洋菓子事業を行う企業への電話聞き取り調査（サンプル数：381社、調査期間：5/3〜5/8）
- コロナによる業績が悪化した。生産数がかなり落ち込み、新卒採用については検討段階。（京都・洋菓子企業）
- 営業時間短縮によって売り上げが減少した。今後の先行きも不透明なため、今年は新卒募集はしないかもしれない。（大阪・パティスリー）
- 百貨店の店舗がメインのため、業績が大幅に下落した。新卒募集は例年通り行うが、採用枠は減らすことになった。（兵庫・洋菓子企業）
- 業績悪化で採用活動自体が困難な状況。料理人の募集は始めるが、パティシエについては採用を検討している。（兵庫・ホテル）
- 2月後半から5月まで、婚礼がほぼキャンセルになった。今まででこんなに売り上げが落ち込むのは初めてで戸惑っている。プランナーや料理人は募集予定だが、パティシエは採用できない。説明会等も中止にしている。（埼玉・ブライダル）
- 休業となり、先行きが見えない。採用活動は検討中だが、募集しない可能性がかなり高い。（東京・ホテル）
「採用予定はない」としている企業は24.4%。しかしながら、検討段階の企業を入れて75%近くの企業に「新卒募集の可能性がある」と考えると、21年新卒パティシエが卒業までに就職先を決められない、という最悪の事態は避けられるように思います。
そのためにも、私たちパティシエントは今だからこそ「募集情報の共有」がもっと進むべきではないかと考えました。地元にだけでなく、専門学校にだけでなく、全国の専門学生がいつどこにいても募集情報を閲覧できる状態にすれば、21年新卒パティシエは就職活動に大きな1歩を踏み出すことができるのではないでしょうか。
まとめ
近年、日本の洋菓子技術は世界に通用するレベルであり、数々の世界規模の技術コンクールで高い評価を受けているのはみなさんもご存知の通りです。しかし今、新型コロナウイルスの影響で2021年新卒パティシエの進む道が危ぶまれており、それは長年培われた技術や知識、食文化そのものの衰退に繋がると思います。
次世代の技術者のキャリアと日本の洋菓子文化を守るため、私たちは「パティシエの未来を守ろうプロジェクト」を開始し、全国の「採用予定がある」店舗の求人情報を無料で弊社サイトに掲載しています。21年卒パティシエのキャリアを救うため、ご協力いただけるお店は掲載いただけますと嬉しいです。
