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インタビュー

郊外の洋菓子店「リリエンベルグ」が全国に知られる人気店になった理由


神奈川県川崎市にある「ウィーン菓子工房 リリエンベルグ」は、言わずと知れた有名店。毎日多くの人々が訪れ、土日には入場制限がかかるほどの人気ぶりです。

オープンから31年。静かな住宅街にある洋菓子店は、どのようにしてこれほどのファンを獲得していったのでしょうか。 オーナーの横溝シェフに伺ってきました。

横溝春雄(よこみぞはるお)さん

埼玉県出身。高校卒業後、東京・神田の洋菓子店「エスワイル」での修業を経て23歳で渡欧。ドイツ、スイスほか、オーストリア「デメル」などで約5年間修業し、29歳で帰国。「新宿中村屋グロリエッテ」のシェフを11年務めた後、40歳を機に独立。川崎市・新百合ヶ丘にウィーン菓子工房「リリエンベルグ」をオープン。公益社団法人東京都洋菓子協会副会長。


―――落ち着いた住宅街の中で、「森の中の山小屋」というような雰囲気がとても印象的です。この地域にお店を出したのは、何か理由があったのでしょうか。

「新宿中村屋グロリエッテ」で一緒に働いていた妻と結婚し、しばらくしてからこの近くに引っ越してきたんです。開発がされていない地域で、周りには何にもありませんでしたけれど、緑が多くて静かですごく気に入りました。常々「都心や駅前、繁華街などではなく、子どもをのびのびと育てられるような環境の中で、家族と一緒に仕事をしたい」と考えていたので、ぜひこの地域でお店を持ちたいと思ったんです。

▲右が店舗、左はティールーム。「作りたてお菓子をその場で味わっていただきたい」というシェフの想いから開設した。その奥の敷地には独立した厨房がある

―――お店の外観などは横溝シェフが考えられたのですか?

じつは私はお菓子を作るだけで、それ以外の部分は昔から妻がすべて担っているんです。 北欧の山小屋風のデザインは妻が色々調べて見つけました。実際に横浜市にあるモデルルームに行ってみると、緑が映えるし、花の色も際立つように思いました。
木や土を感じられるから、「洋生ケーキはもちろん、焼菓子にも力を入れていきたい」「焼きたての鮮度の良いお菓子を提供したい」という私たちのイメージに合っていたんです。

―――オープン当初から焼菓子に注力されていたんですね。今はどれくらいの商品数を出されているんでしょうか。

生菓子は季節に合わせて22~24種類程度。焼き菓子も季節感を感じられるものを中心に30種類、年間を通じると50~60種類くらいで、売上の6~7割が焼菓子などのギフトです。

―――先ほど「鮮度の良いお菓子を売りたい」という言葉がありました。リリエンベルグのモットーでもありますよね。

うちがよそに比べて一番勝負できるのは、「1日でも1時間でも作りたてを出す」こと。

大量に作ってすぐに冷凍し、少しずつ解凍して売るお店が多い中で、「作り置きをしない」点は、お店を開くうえで大きく勝負できると思いました。これはオープンしてから30年間いまだに守り続けていることです。

生菓子は当日作ったものを売り、翌日には回さない。フィナンシェなどの焼菓子は作ってから5日間で売り切ります。ジャム、コンフィチュールは2週間に1度くらいの仕込みで、賞味期限は6ヶ月としています。

▲四季折々で変わるコンフィチュールの種類。今はいちごや清見オレンジ、日向夏や杏などが並ぶ

―――「作り置きをしない」とは具体的にどのようにしておられるのでしょう?

例えばスポンジカステラは毎朝作ります。余っても翌日のショートケーキなどには使わず、焼いてから1日~2日経ったものの方が扱いやすい商品…アプフェルシュトゥルーデル(9月のみ、スポンジカステラを下に敷いて、りんごを並べて焼く)のようなお菓子に使うようにしています。

▲練乳が甘く香るいちごのムース「ラフレーズ」。15時頃のショーケースには”このお皿で最後”と書かれたケーキもちらほらとあった

―――毎日いちから作るのはとても大変なように思います。なぜここまで「お菓子の鮮度」にこだわっているのでしょうか?

自分が「売りたいものを売る」のではなく、「買いたいものを売る」ことを大切にしたいのです。

うちの店の販売スタッフには、欠けていたり小さかったりなど「自分がお客様の立場になった時、ちょっと買いたくないな」と思ったものは下げてもらうようにしています。

販売員はリリエンベルグが好きで入ってきた人ばかり。うちのお客様でもあるわけです。 だからどんな商品も自信をもって売ってもらいたい。 パートさんであっても、「これちょっと困りますから直してください」と臆せずに言える雰囲気を大切にしているし、製造の方でも「この程度なら大丈夫」とは極力言わないようにしています。

品質管理の考え方で『後工程はお客様』という言葉があります。 自分の仕事の後工程を引き継いでくれる人はお客様だと思いましょう、という意味ですね。 製造から見れば、販売はお客様と同じこと。スタッフにはその判断を重要視するように伝えていますね。

―――ロスを出さず、ちょうど良く売り切るのはとても難しいのではないでしょうか?

難しいですね。残った商品でも、本来ならまだ十分売れる商品です。 でも、味を見て「大丈夫だからもう1日売っちゃおう」は一切していません。 すると製造スタッフはすごく驚き、怖がります。無駄な仕事になりますから。

普通のお店の場合、売れるはずのケーキが切れてしまったら、オーナーから「売れるのになぜ切らしているんだ」というゲキが飛びますよね。 となると、焦って作るので商品の仕上がりが雑になり、スタッフはケーキを切らしてしまうことを恐れて、結果的に作り置きをたくさんするようになります。

これではリリエンベルグが開店当時から大切にしてきた「鮮度の良いお菓子を売る」営業方針に沿えなくなる。 そこで、ケーキや焼菓子を追加しようか迷った時は「しない」と決め、その日や翌日のために無理して作るのではなく「切らしてもいい」と伝えています。 その代わり、予約やお取り置きにはきちんと対応します。

こうすると製造スタッフも安心できます。そして「今日はちょっと天気が悪くて客足が少なそうだ」とか「夏、暑くて売り上げが落ちそうだな」と思った時は、いつも100個単位で作っている商品を50個にするという現場判断ができる。

デパートから出店や催事のお話もいただくことはあるけれど、受けたことはありません。 それをやろうと思ったら、製造はおろかこうした方針まで変えなくちゃいけなくなる。

「売り切れてしまうこともあるけれど、少しでも新鮮なお菓子を楽しんでいただきたい」。リリエンベルグがお店を拡大せずに一店舗のみで営業してきたのも、その想いをお客様に届けたいからなんです。

「叱り方の視点を変える」。自身の修業体験で得たもの

―――以前、「横溝シェフはお弟子さんたちを叱らない」と聞いたことがあるんですが、本当ですか?

叱らないわけじゃないですよ。ただ叱り方をちょっと工夫しているんです。 以前独立する前に勤めていたお菓子屋では、結構厳しく当たっていました。そんな時、辞めた先輩がたまたま店に来ていて、その光景を見て言ったんです。 「横溝、叱られた子はその子なりの我慢の限界があるから、限界を超えた叱り方はその子をダメにしてしまう。気をつけろ」と。 その言葉にハッとしましたね。

▲店舗休業日数は、2019年は94日。スタッフの年間休日は105日を確保している。休むときは休み、仕事以外のことも楽しもう、という方針。

その後私はヨーロッパに出ました。修業のやり直しです。 慣れない土地で、指示は早口のドイツ語。とても聞き取れず、失敗ばかりしていました。 このままだとクビになるのではないかっていう恐怖心がありましたね。 その時、私のことを聞いた製造の責任者が「今日は1日、横溝と一緒に仕事する」と言ってくれたんです。当時担当していたデニッシュペストリーの仕事をずっと見てくれた。すると、水分量が極端に少なかったのが失敗の原因だったんです。

失敗するたびに先輩たちが「水の量を減らせ」と言っていたので、生地が余計伸びなかった。 原因がわかってからは、きちんと作れるようになってホッとしましたね。 と同時に、自分がこの店のチーフだったら、めちゃくちゃに叱ってダメにしてしまっただろうなとも怖くなりました。

今、うちにも今新入社員が入ってきたばかりですけれど、お店では「その子がした失敗は教えた人間の失敗、指導の仕方や視点を考えろ」だと教えています。 失敗をただ怒ったところで覚えが良くなるわけではありませんからね。

リリエンベルグでしか楽しめないような魅力づくりを目指してきた

―――横溝シェフが思う、『リリエンベルグが人気になった理由』って何だと思いますか?

「いい材料を使っている」「腕に自信がある」というようなことは、どのお店のシェフもみんな思っていることでしょう。そうでなければ独立しませんよね。 だからといって、みんな人気店になれるわけではない。その違いは「お客様がお店に来てくださったあとの満足度」じゃないかと思うんです。

例えば、うちのお菓子はどれも比較的抑えた価格で提供しています。フルーツなどは農家さんと直接契約して、より鮮度のいいものを入れて使うなど「良いものを安く」とやってきましたから。 看板商品のザッハトルテもひとつ400円。クリームをつけても500円で収まります。自信をもって出せる商品ではありますが、これがもし600円だったらきっと買う人は限定されてしまうでしょう。 「美味しい」は満足のひとつだけれど、「値段が安い」「買いやすい」という点も、充分価値を見出せる要素になります。

▲リリエンベルグの看板商品のひとつ『ザッハトルテ』。ウィーンの「デメル」で学んだ伝統菓子の良さを大切に、口当たり軽く仕上げられている

そして、販売やサービスも、製造以上に大事にすべき部分があると思います。うちの店のティールームは14席で、1日10回転するほどお客様がいらっしゃるけれど、トイレはいつもきれいに。たばこも分煙じゃなくて禁煙です。スタッフにも喫煙者はいません。吸わない人にとって、たばこの匂いは気になるもの。誰もが気持ちよく食べて楽しんでもらえるように徹底しています。

今、お菓子はコンビニでも美味しく味わえる時代です。 だからこそ、作りたてや鮮度にこだわったお菓子を、上質なサービスで楽しんでいただきたいと思うのです。

▲柔らかな日差しが入るティールーム。定休日以外の平日のみ営業で、繁忙期の11~12月はお休みにしている

―――リリエンベルグでしか楽しめないような魅力づくりをしてきた結果が、多くの人を惹きつけているように思います。ここまで来るのにご苦労なさったことなどもあったのではないでしょうか?

色々ありましたよ(笑)ケーキの種類が少ないと言われることはしょっちゅうでしたし。 バブルがはじけた後は売上が落ちるんじゃないかと心配したけれど、逆に上がったんです。

―――えっ、なぜでしょうか?

以前、お中元やお歳暮としてお菓子を高級デパートで購入していたお客様が、「もうちょっと値段を下げよう」と、リーズナブルに購入できるリリエンベルグに来られるようになったんですね。 ただ、売上が上がって嬉しい反面、そうした方とのトラブルが結構ありました。

―――どんなトラブルがあったのですか?

うちではケーキでも焼菓子でも、小さい箱にスキマなくギュッと並べてお渡ししています。 以前「3000円のケーキを作って」と注文が入った時、いつものようにお出ししたら「客先に持っていくのにこれでは見栄えが悪い。ひとまわり大きな箱にクッション材を詰めて、豪華に見えるようにしてほしい」と言われてしまったんです。

▲焼菓子で一番人気の『ミックスクッキー』。仕切りや緩衝材などは使わず、小さなパッケージにスキマなく入っている

でもオープン時からずっと、こういう依頼はすべてお断りさせていただいています。 ギフトの場合、最終的に召し上がるのは買った方ではなく贈られた方です。買った人は上げ底にすることで、すごく良いものを差し上げた気になれるかもしれない。しかしそれだと、ギフトを贈られた方に本当の満足はお届けできません。逆に上げ底であることにガッカリされてしまう可能性もあります。

大きさのない箱を開けたときに、意外とお菓子がしっかりつまっていて、実際食べてもおいしい……すると、ギフトを贈られた方も満足感を得られます。 このように、私たちのお菓子を召し上がっていただく方に満足していただけるつくりにしているんです。 今ではギフトを買われるお客様も、その信念を理解してくださるようになりましたね。

▲リリエンベルグには10年以上勤めるスタッフも多数。シェフと奥様は「ここで働けて良かった」と思ってもらいたいと日頃から心を配っている

―――リリエンベルグには40名以上のスタッフさんがいるそうですね。また横溝シェフは外部講師として様々な専門学校への指導も行っているとか。たくさんの若いスタッフさんを見てきて、「こうした方がいいのでは」と思うことはありますか?

「お店のためにではなく、自分のために働く」という想いを持っている人は、若くても成長が早いなと思います。

うちの店には社員だけでなくアルバイトの方も多くいます。以前、製菓の専門学校に入学したばかりの子が「研修させてほしい」と言ってきました。2年間しっかりアルバイトで勤め、卒業の段階で改めて「就職させてください」と。断る理由はありませんよね。製造だけじゃありません。販売でもヴァンドゥーズ(お菓子専門販売員)になりたいとフランス語を勉強し、1年うちを休職して現地で修業をしてから復職したスタッフもいます。

やる人とやらない人の差はこうした意識や努力の差から生まれてくると思うんです。 実働8H、残業なしの職場はいいけれど、それで満足していたら自分の実力は頭打ちになります。

例えば、お休みが週2日あるなら1日は別の店で修業させてもらう。それを3年続けたら、辞める頃には2つの店の技術が身についていることになりますよね。決してブラック企業をよしとしているわけではありませんが、職人として大きく伸びていきたいなら、やはり定時以上の努力は必要です。

「自分はどんなパティシエになりたいか」を考えながら、目指す道を進んでいってほしいと思いますね。

◆ウィーン菓子工房 リリエンベルグ

住所:神奈川県川崎市麻生区上麻生4-18-17
営業時間:10:00〜18:00
定休日:毎週火曜日、第1・3・5月曜日
公式HP:http://www.lilienberg.jp/

この記事の筆者

田窪 綾

調理師免許持ち、レストラン勤務経験ありのライターです。東京都内近郊を中心に、食と食に関わる方の取材執筆をしています。(Twitter:aso0035)

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