【ROUTE271】船井シェフ独占取材!人気絶頂で幕を閉じる前に「語った本音」

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大阪随一の商業エリア、梅田。ここに、行列のできるパン屋があります。定休日はなく365日営業。ほぼ毎日と言ってもいいくらい、パンを買うまで40分ほど待つ列が作られています。

その名は『ROUTE271』。2009年に高槻でOPENし、2015年に梅田へ移転。巷では”ビストロ系”と呼ばれるパンが人気で、使われるフィリングはすべて手作りの本格派として、雑誌・テレビ・専門誌がこぞって特集を組む独自性あふれるパンの数々を販売する店です。

行列ができるパン屋の人気の秘密、人気店になるまでの道のり、そして今後の展望について、オーナーシェフ・船井高志さんに聞いてきました。

船井高志(ふないたかし)さん

1976年、福井県生まれ。
高校卒業後、大阪のガソリンスタンドで約4年勤務した後、飲食業へ転身。『Cafe GARB』で製パン部門を担当する。その後は西宮市の『パティスリーアルザス』『ブーランジェリームッシュアッシュ』で2年ずつ勤務。フレンチレストラン『カランドリエ』で製パンを担当した後、『ル・プチメック』の店長を歴任。その後、高槻市で自店をオープン。梅田に拠点を移す。

行列ができる『ROUTE271』の人気の秘密とは?

こだわりは「火入れのタイミング」
オーブンに入れて完成するパン

──まずは人気店『ROUTE271』のパンについて伺います。船井さんは、何をテーマに作っていますか?

当店の商品はほとんど僕が考えていて、テーマは「よそにない、うまいもの」。他の店にはない新しい組み合わせとか、ちょっと変わってるけど美味しいっていうのが大事ですね。

──特に「ビストロ系」と呼ばれるパンは有名です。フィリングで特にこだわっている部分はなんでしょう?

僕が特に気にするのは、火入れです。例えば「ホタテとマッシュルームのパセリバター焼き」っていうパン。ホタテはあらかじめ下茹でしておいて、マッシュルームは生のままにしておきます。キノコ類は火を入れるとどんどん水分が出すぎてしまうので。そしてパセリバターを盛り付け、オーブンに入れて初めてすべての素材に火がバランスよく入って完成。という感じで、食材ごとに火を入れたあとの食感まで計算しています。

▲ホタテとマッシュルームのパセリバター焼き。

▲人気のビストロ系惣菜パンをメインに、ハード系、ヴィエノワズリーをラインナップ。

──料理をしているみたいですよね。

そうですかね?確かに、元々料理屋を経営したかったんで。ただ料理と違うのは、お客さんが食べるタイミングが出来立てじゃないこと。だから時間が経ってから食べる前提で食材選び、火入れをしています。パンって9割くらいの人が、時間をおいて食べますよね。だから焼きたての状態、しばらく時間が経った状態、さらにもう少し時間が経った状態、と区切って食べてみて、食感と味を確かめながら完成に近づけています。

──パンごとの手順が多いと、スタッフさんへの指導は大変じゃないですか?

確かに普通のパン屋よりも工程は多いかもしれないですね。でも仕込みは姉妹店である程度やっていますし、毎日のことなので慣れますよ。経験がある人だったら「これだけこだわってるんだ!」って思ってくれるみたいで。逆に未経験から入ってきた人だったら「これが普通」とすんなり覚えてくれます。どのみち、美味しいパンをつくる以外にないから。

▲フィリングの仕込みは姉妹店の『セ・シュエット』(天神橋筋六丁目)で済ませている。

梅田×行列=最高の宣伝!
息の長い”繁盛店”を目指す

──今は「美味しいだけでは成功しない」と言われる時代です。『ROUTE271』が成功した理由は何でしょう?

理由は色々あると思うんですけど…まず外観ですね。同じ並びに店は色々ありますが、その中で馴染みすぎないような洋風のデザイン。それと、外に吊り下げてある時計の看板にはこだわりました。人間って無意識に時計を見ると思うんです。実際、写真によく撮ってもらってるから、うちのシンボル的なものになってると思います。

▲イタリアで買い付けたという大きな時計。店の前を通るだけでも目にとまるように設置されている。

──毎日行列ができているのは、計算の内ですか?

そうです。見ての通り、この店は狭いでしょう。敢えて店内で待ってもらえるような造りにはせずに、外で列を作ってもらっています。「梅田で行列ができる店」、それが一番宣伝になるんです。それと並んで買う場合、商品2〜3個とかじゃなく誰かの分もまとめて買ったり、一度にたくさん買ったりしてくれる。また、そういう人を見ながらレジを待っていると「たくさん買ったほうがいい店だ」みたいな心理が作用して、たくさん買ってくれるんですよね。客単価5000〜10000円も珍しくありません。パン屋にしては高いと思います。

▲売り場は3坪、レジは1台。お客さんが3〜4人入ると一杯になってしまう狭いスペース。

──並んでもらうことに対するプレッシャーみたいなものってないんでしょうか?お客さんは並んだ時間も加味して、店を評価すると思うんです。

もちろんご指摘いただくこともあります。でも次、同じことを言われないように対策できるチャンスだと思います。寒い日はカイロを配ったり、暑い日は日傘を貸し出したり。できる限り気持ちよく買い物してもらえるように、接客の仕方とか笑顔とかにも気を配っています。僕は一時限りの人気店ではなく、息の長い繁盛店を目指してるので、細かい改善は絶やさないですね。

修行、独立、移転…船井シェフとROUTE271の歩み

前世はケーキ職人だった?
飲食業に飛び込んだ意外すぎる理由とは…

──船井さんの飲食デビューは、パン屋ではなくカフェレストランだったんですよね。

そうですね。パンにも飲食にもまったく興味がなかったんですけど、ふと「自分の前世はケーキ職人だ」と思った瞬間があって。心斎橋の『Cafe GARB(株式会社バルニバービ)』に入りました。

──前世!?独特な転職理由ですね(笑)。はじめはパティシエを目指していたということですね。

共感できないよね(笑)。ペストリーを希望したんだけど、その時パン担当が足りていなかったのでパンを焼くことに。ケーキに触れないフラストレーションみたいなものはあったけど、めちゃくちゃ楽しかったですね。(バルニバービの)佐藤社長は時代を先取りした店を作っていて本当に頭がいいし、先輩や同僚も勢いがあって、自由な社風で。トレンドを作ってるような感覚で、ワクワクしていました。

──でも1年経たずで辞めたんですよね。それだけ楽しかったのに、なぜでしょうか。

船に例えるとしたら、バルニバービは大きな船で、カリスマ船長と元気な船員たちで大航海をしている感じ。でも僕はいずれ自分の店を持つつもりで飲食にきました。このままでは自分1人で船を作って、自分で漕いで航海できない気がしたんです。GARBは料理・パン・ケーキ・サービスのトータルバランスは良いけど、色んな種類のケーキを扱ってる店に移った方がいいなと思いました。

──それで、次はパティスリーに就職されたんですね。希望していたケーキ修行ができたんでしょうか。

いや、実は違って(笑)。そのお店が自家製パンも結構力入れていたんです。入社してすぐに焼きのポジションに配属になってしまって、焼菓子とパンを焼いてました。普通、新人は仕上げかららしいんですけど、僕より若い子が仕上げに入っていて。僕はパンの経験があるので、結局2年間ずっと釜の前にいました。生菓子はほとんど触ってないですね。

──そうなんですね。でも、それ以降はブーランジェリーで働いてます。パンをやっていこうと決断したんですか?

という感じでもないんですけど…。将来持ちたい自分の店の理想をずっと考えていて「美味しい自家製パンを出せる料理屋」って答えに行き着いた。まずはパンを学ぼうとブーランジェリーへ行き、それから次は料理を学ぶために大阪の有名なフレンチレストランに移りました。そこでも結局調理はできなくて、パンを焼いてましたけどね。

──パンを焼くことから逃れられない運命なんですね…。

補助くらいはさせてもらえたけど、ポジション与えられるほどの経験もない。ケーキ屋もパン屋も経験してる僕が得意ジャンルで仕事を与えられるのは当然です。その時に諦めました。「神様がパンをやれって言ってるんだ」みたいな。人生って思い通りにいかないんやなぁって思いました。それからは京都の『ル・プチメック』に入って、店長をしました。

──『ル・プチメック』の西山シェフは関西きっての有名人です。シェフから何を学べましたか?

感覚的なもの…ですかね。西山さんは大人の悪ふざけというか、真剣にふざけてる。カレーパン1号2号って名前つけて、プライスカードには「辛すぎてもはや味がわからない」とか書いちゃったりするんです(笑)。他とは違う、独特の感性を持ってて。でも誰のためにやってるわけじゃなくて、自分が楽しくてやりたいからやってるんですよ。それが周りをクスっとさせる。西山さんの遊びココロには、めちゃくちゃ影響を受けた気がします。

順風満帆とは言えない独立開業…
”仕切り直し”の移転リニューアル

──独立されたのはその後、32歳の時ですね。『ROUTE271』は高槻市でオープンされたそうですが、反響はいかがでしたか?

お客さんが全っ然来なくて、めっちゃ苦労しました。当時はSNSも流行ってなくて、自分から発信できるツールが少なかったですしね。半年間くらいは給料なかったんですよ(苦笑)。アルバイトを数人雇ってたけど、すぐに辞めてもらいました。やばいな、と思ったけど、怖がって自分のやりたいことを曲げたくない気持ちもありました。どうせならズバッと自分のスタイルを貫いて、前のめりで散っていこうと(笑)。

──そんな時代もあったんですね…。そこからV字回復するわけですが、人気店になったきっかけは覚えていますか?

ローカル番組で門上武司(※)さんに「パテ・ド・カンパーニュ」っていう商品を紹介してもらったことです。すごく反響があって、一気に忙しくなりました。でもその矢先に自分が股関節を悪くして入院することになったんです。店は1ヶ月半休業しました。

※著者注)門上武司氏…関西を代表するフードコラムニスト。『魔法のレストラン』(毎日放送)のコメンテーターや『あまから手帖』の編集顧問など、食分野におけるブレーン的存在として影響力がある人物。

──軌道に乗ったところで休業とは…タイミングが悪すぎますね。

その間はスタッフの給料も出すし、店の支払いもある。でも収入はない。金銭的な不安もあったし、せっかく来てくれるようになったお客さんが離れていっちゃうんじゃないかって焦りもありました。でも、いざ復帰したらたくさんのお客さんが来てくれて、「待ってたよ」って言ってくれて。その時の感動は忘れられないです。今でこそ『ROUTE271』は行列ができる店だと自負しているけど、待ってくれているお客さんがいるんだって気持ちは絶対に忘れないようにしています。

▲復帰後は食べログで常に2〜3位をキープ。モチベーションに繋がったという。

──2015年の梅田移転も、大きな起点になったんじゃないでしょうか。

メディアでは「いよいよ進出」という風に書かれていましたよね。でも、実は違うんですよ。挑戦で梅田に進出したというより、命からがら逃げ延びた感じで移転しました(笑)。

──どういうことでしょうか?

当時、大阪ではパンブームが本格化して、パン屋が乱立していました。わざわざ高槻市に引っ越ししてまでうちの店で働きたいと思う人は減っていったんです。スタッフが集まらなくなってきて、パンの種類を減らしていました。少しずつ、うまく回らなくなっていって。さらに、契約していた駐車場に家が建って客足が遠のいたり、近くに大きなベーカリーカフェがオープンする噂も聞いていました。いろんな条件が重なって、高槻ではとてもやっていけないと判断しました。

──食べログ上位の人気店でも、勝てないと思ったんですか?

元々、僕のパンは都会の方が流行るだろうな、という予感みたいなものはあったんです。でも移転にはなかなか踏み切れませんでした。梅田で店をやるには、絶対に人を雇わないといけないでしょう。実は人と関わってパンを焼くのに嫌気がさしていたこともあって、1人でやりたかったんです。

──なるほど。それでも移転を決めた理由はなんだったんでしょう?

心の奥に「もう一花咲かせたい」みたいな野望があったと思う。そんな僕を見て、妻が「やりたいんでしょ」って背中を押してくれました。物件も運良く見つけられて、タイミングもありましたけど、最後は妻の一言ですね。オープンしてすぐにテレビで特集されて、2時間待ちの列ができたこともありました。高槻から出る時は結構ボロボロの状態だったんですよ。そこからほぼイチから仕切り直すつもりだったので、自分でも「スゲー、俺!」って思いました(笑)。

▲人気店の移転とは言え、スタッフはほとんど新人だったという。プレオープン期間を1ヶ月作り、実践でオペレーションを構築したそう。

船井シェフのエネルギー源「誰もやってないことに挑戦する」

──パン職人としても『ROUTE271』としても確固たる地位が築けたと思います。経営者としてお店の今後をどう考えていますか?

スタッフの休みを、今年中に月10日にする。2019年はその種まき期間で、1.5倍の人員にしました。準備はもうできています。

──パン屋としては多いですよね。なぜ月10日休みを目指しているんですか?

人が辞めない仕組みを自分がまず作ろうと思って。休めない業界だとか言われてるけど、今の時代、若い人に選ばれるために休みの数はすごく重要で。いろんな趣味を持っていて、ライフスタイルも多様化しています。もはや仕事だけで生きてるわけじゃないんですよ。お店がたくさんあるのに人手が足りてない今の時代、生き残るにはお客さんにも働き手にも選ばれる店じゃないとダメだと思います。まずは休みの数から増やそうと。

──月10日休みにできた先、考えていることはありますか?

「人が辞めない組織」にできたら、新しいスタッフを募集・採用するコストはなくなります。そのお金を別のところに回したい。具体的には、賞与制度の見直しです。ベースの待遇が良くなったら、その先は「夢」を持てるようになると思うので。

──夢が持てる仕事にしていこう、と。

そうです。本当は食の世界に興味がある人ってもっと多いと思うけど、夢が見れない、希望がないからって理由でどんどん離れていく。それってすごくもったいないなって思うんです。この先、スタッフに夢を与えられるような店でありたい。「夢を見れる業界なんだ」って実体験で感じてほしいです。「ほかにないこと」「誰もやってないこと」に挑戦している限り、僕はずっとワクワクしていると思います。

店舗プロフィール

ROUTE271
住所:大阪市北区芝田2-3-2 1F
営業時間:11:00~20:00 or 売切れまで
公式HP:http://route271.jp/

written by

あかざしょうこ

1984年生まれ。PATISSIENTの編集ライター。「人生の教科書は人」をモットーに、聞いたり書いたりしています。 実はROUTE271はご近所さん。何を食べても美味しいです。ちょっと並びますが、並ぶ価値アリ!のお店です。

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