「アリバカカオのおいしさをたくさんの人に広めたい」──ママノチョコレート代表・江沢孝太朗が描く”より良い世界”とは

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東京・赤坂見附駅から徒歩2分の場所にある『ママノチョコレート』は、エクアドル産の「オーガニックアリバカカオ」を専門に扱うショコラトリー。「アリバカカオ」とは、世界で栽培されるカカオ豆約450万トンのうち、およそ2%しか獲れない、エクアドル固有種。このカカオを専門で扱うショコラトリーは世界でも珍しく、日本ではママノだけです。

『ママノチョコレート』を運営する株式会社コータロー・代表の江沢孝太朗さんは、あることをきっかけにアリバカカオと出会い、チョコレート業界への参入を決意します。エクアドルからアリバカカオのクーベルチュールを取り寄せ、試行錯誤しながら商品づくりに取り組み、たったひとりでショコラトリーを立ち上げた江沢さん。その背景には、ずっと想い描いてきた「地球規模でできる社会貢献」がありました。

まだ知られていないカカオで、たくさんの人を幸せにしたい。
本気で世界を良くしようとしている江沢さんに、アリバカカオとの出会いや、お店を立ち上げてからのことを詳しくお聞きしました。

江沢 孝太朗(えざわこうたろう)さん

1986年東京都出身。早稲田大学在学中から社会貢献に関わる起業家を目指し、障害者雇用の促進支援を行うベンチャー企業に就職。その後IT業界へ転職しWebディレクターとして働く。2011年の東日本大震災をきっかけにNPOを立ち上げ、宮城・南三陸町の復興支援を行う。起業のための情報収集でアリバカカオと出会い、その魅力を伝えるため2013年『ママノチョコレート』をオープンする。

アリバカカオの「華やかな香り」を引き出す商品ラインナップ

──今回、アリバカカオのチョコレートを初めて食べましたが、フルーティな香りと、すっきりとした味わいが印象的ですね。お店ではどんな商品を出されているのでしょうか。

そうなんです!おいしいでしょう。「アリバカカオ」の最大の魅力は力強い華やかな香りと長い余韻です。このおいしさをたくさんの方に知ってほしくてお店を立ち上げました。アリバカカオは酸味や渋みが強くなくバランスが良いのでシンプルなチョコレートでも十分おいしいのですが、今はその良さをより引き出せるような商品を作っています。

▲アリバカカオはエクアドル現地でママノチョコレート用にクーベルチュールにして空輸。日本の工房でまたテンパリングし、商品に加工している。

現在店頭に並ぶのは15~20種類程度。シンプルなカードタイプではプレーンの「純アリバ」ほかに、鹿児島・与論島の海水塩や黒糖、韃靼(だったん)そばの実をトッピングしたものなど、組み合わせを考えた5種類を展開しています。

▲カカオレット ドロップス

アリバ種のおいしさをダイレクトにお伝えできるよう、カカオ73%に設定した一粒タイプの「カカオレット ドロップス」や、砂糖やカカオバターを入れていない、純粋なカカオマス100%も用意しています。特有の華やかな香りだけでなく、収穫したその年ごとの力強さや野性味が感じられるので、こちらはチョコレート好きの方にとくに好評ですね。また、くちどけを楽しんでいただける生チョコや、季節のフルーツを使ったボンボンなども揃えています。

──多彩な商品を出されているんですね!

お店のコンセプトが「チョコレートで笑顔あふれる地球をつくる」なんです。だからこそお客様に、色々なシーンで楽しんでいただける商品を作っています。ここ数年は、夏だけの期間限定で「スノーマウンテン」というチョコレートのかき氷も作っているんです。水は一滴も使わず、チョコレートとミルク、生クリーム、グラニュー糖のみ。今年は工房を移転したので提供が難しかったのですが、銀座にある「SONOKO CAFÉ」さんにお声がけいただいたことでコラボかき氷が実現しました。現在はチョコレートアイスを使ったパフェをご提供中です。

▲スノーマウンテン

▲ロゼスパークリングワインジュレ、イチゴ、ラズベリー、ブルーベリーを使った「ベリーベリーロゼ⁠」。アルコールも使った大人仕様

他には、チョコレートを食べるシーンから逆算して考案した商品もあります。「ラムピオーネ」と「ラムシャインマスカット」は自分が読書をしている時、「傍らにチョコレートがあったらいいな」と思いついたチョコレートです。国内果樹園のピオーネやシャインマスカットを20年熟成したラム酒に漬け込み、アリバカカオのダークチョコレートを合わせた品で、シェフショコラティエから試作品が上がってきた時は「これは読書に集中できなくなるかも」と思いましたね。アリバカカオの良さを出しながら、フルーツのみずみずしさもしっかり味わえます。僕の予想より美味しくなりすぎました(笑)。シェフはいつも職人として想像以上のクオリティに引き上げてくれます。

──お店の場所をこの赤坂にしたのはなぜですか?

都心で駅チカ、家賃10万円以内の条件で探したら、この場所が見つかったからです。アリバカカオをたくさんの人に知ってもらいたいからこそ、アクセスが良く、誰でも訪れやすい場所に出店したかった。でもなかなか見つからなくて、3ヶ月くらい歩き回っていましたね。見つかったのは2.7坪の小さな店舗。販売はアルバイトを一人採用していましたが、製造しながらお客様が来たら手をとめて販売をするというスタイルで、細々とスタートしたんです。

──現在、スタッフさんは何名くらいいるのですか?

今は販売スタッフが4人、販売と管理部門とを兼任しているスタッフが1人、シェフショコラティエが1人、あとはアルバイトが数人ですね。
また業務委託として、ママノチョコレートの魅力を公式サイトで発信するライターさんや、パッケージなどを考えていただくデザイナーさんがいます。こちらはフリーの方や、チョコ好きの方など、ママノの取り組みに共感してくださる方が協力してくれています。

未経験からのチョコレートづくり。
「他のお店にないもの」を目指す

──江沢さんは製菓未経験でチョコレートづくりを始めたそうですが、テンパリングなどのやり方はどのように学ばれたんでしょうか。

Youtubeや本を見て学びました。

──独学ですか!最初は大変だったんじゃないですか?

そうですね、覚えるまでは大変で、うまく作れるようになるまで半年ほど練習しました。最高の素材だから極力手を加えず、シンプルにお客様に届けたかった。技術は他のお店の並み以下でスタートしたと思います。だから価格は今の半額ほどでした。今に至るまで試行錯誤しながら商品数を増やし、価格もその都度見直してきました。

▲オープン当初は生チョコ、板チョコを各50~60枚程度。現在は1種類を一度に1000~2000枚、多い時は4000~5000枚つくる。

今はシェフショコラティエがいるので、シェフから提案をもらったり、アイデアを伝えて開発してもらったりしながら、他のお店にないもの、面白い発想のものを目指して製造しています。

▲シェフショコラティエと打ち合わせを重ねながら商品を作っている。

▲やわらかな食感を残したセミドライのバレンシアオレンジ・ピールに、アリバカカオチョコレートをディップした人気商品「オレンジの恵み」。ひとつひとつ手作業でディップしている。

▲焦がし葉巻ショコラをつくる時は、吸ったことのないスタッフを集めて体験会を開いたそう。「舌がしびれる感じがするよね」と参考にしながら商品開発を行った。

今年、工房を移転して広くしたので、今後はここでカカオ豆から加工できるラインも動かしていく予定です。今のように現地で加工してもらえば効率が良いし、あちらで雇用も生まれるのですが、アリバカカオの特性をより引き出す研究は私たちでも行った方が良いと思って。現地の農園に滞在する期間も増やしつつ、遺伝子の研究や農法の研究まで含めて取り組んで、色々な可能性を探っていきたいですね。

▲アリバカカオチョコレートにドライフルーツをたっぷり混ぜ込み、天板に広げ固める『パレットショコラ』。フリーズドライストロベリーの酸っぱさと、パールシュガーのカリっとした感触が楽しいと人気の「ダブルベリー」。

▲「ソルティナッツ」もあり。

たくさんの人を幸せにできる仕事を生み出したい

──江沢さんは以前から「起業したい」という想いがあったと伺いました。なぜショコラトリーだったのでしょうか。

大学時代から「世界と関わるような仕事がしたい」と考えていました。自分で仕事を生み出して、回りまわって社会貢献につながれば良いなと。だからとくに「ショコラトリーを開きたい」とは、正直なところ考えていなかったんですよね。

卒業後は起業を視野に色々な経験を積もうと、営業やWebディレクションの仕事を経験しました。転機になったのは東日本大震災です。復興支援ボランティアとして宮城県の南三陸町へ行ったり、被災地の商品を販売する物産展の手伝いをしたり。そこで被災地の方たちにも、購入してくれた方にも両方に「ありがとう」と言われたことが嬉しくて。その時「僕がやりたいことってこういうことかもしれない」と思ったんです。南三陸の魅力あふれる商品を多くの人に知ってもらえたこと。自分が関わったことで喜んでもらえたこと。これからはもっと広い範囲、できたら「地球規模」でやりたいなって。そんな時、知人がアリバカカオの存在を教えてくれたんです。

──アリバカカオをどんなふうに知ったんでしょうか?

教えてくれたのは、世界を飛び回って新しい素材や食材を見つける仕事をしている方です。「エクアドルにしかない固有品種のカカオ豆がある。すごくおいしいんだけど、まだ日本に入ってきていないんだ」って。

その方が持ち帰ったクーベルチュールを食べて、「チョコレートなのにライチの香りがする!」ってびっくりしたんですよ。今なら「華やかでフローラルな香り」って例えるんですけれど、当時はまだチョコレートに詳しくないし、舌も超えていない素人だからもうとにかく驚きました。この美味しさをもっと広めたいと思ったんですよね。

チョコレートは日本でも好きな人が多いからお客様に喜んでもらえる。日本で売れば売るほど現地の人たちのためになる。このアリバカカオを使ったチョコレートの店を立ち上げれば、僕が考えていた「地球規模でできる」「人を直接笑顔にできる」「社会が良くなる仕組みをつくる」の3つが全部叶うじゃないかって。

──なるほど、確かにそうですね!

紹介してくれたその方にお願いしてさっそくエクアドルに行き、農園を見学させてもらうことにしました。

──実際に現地を見て、どう思いましたか?

とても良いところだと思いました。でも僕が考えていたほど、現地の人たちはとくに「助けてほしい」とは思ってないんだなとも感じましたね。エクアドルでは児童労働などもありませんし。アリバカカオは農家の人たちと直接取引するダイレクトトレードを用いていて、(ママノは)市場価格の3倍程度の価格で購入しているんです。アマゾンは温暖な気候で、フルーツもたくさん獲れるし、基本的にはすごい幸せで。

▲店舗にはエクアドルのアマゾンの写真も飾られている。

ただ、貧困状態にはなくとも、豊かであるとは言えないんです。子どもはたくさんいるのに大学に行ける人はまだまだ少ない。これは現金がないからなんです。せっかく良質のカカオを丁寧に育ててくれているので、もっと豊かになったら良いな、とは思いました。

──根本から、安定的に豊かにしたい、と。

そうですね。豊かにしたいというよりはフェアでありたいです。良質なカカオを育ててくれれば、その分を仲買人に売るのではなく直接僕らに売ることで高い収益を得られるようになってほしい。60以上の農家を取りまとめる組合の幹部の方たちや、現在は僕らの専属パートナーとして尽力してくれているドイツ人の方とも連携して、品質の良いアリバカカオの栽培が維持されるように、そして日本の衛生基準に合わせて輸出するまでの道筋を確保してくれています。

▲1袋約60kgのカカオ豆を運ぶ現地の方たち。

▲乾燥後のカカオ豆をカットして品質をチェック。良質な豆だけを日本に送ってもらう。

楽しく幸せに働いてもらいたいから
そのための制度を充実させる

──今年で創業7年目ですよね。お店は好調ですか?

そうですね。だんだん認知度が高まってきて、全国からお客様が来てくださるようになりました。赤坂という場所柄、外国人観光客の方も多く、おかげさまで売り上げは毎年右肩上がりです。

──「ママノチョコレート」では社員さんの副業がOKだったり、キャリアカウンセリング制度を取り入れたりされているそうですね。小さなお店としてはかなり革新的な取り組みではないかと思うのですが。

これも、ママノのコンセプトである「チョコレートで笑顔あふれる地球をつくる」に沿って考えた取り組みです。というのも、働く社員が幸せなら、結果的にお店のためにもお客様のためにもなるのではと思うんですね。
副業で好きなことができればハッピーだし、悩みがあるなら早めに相談して欲しい。その人の人生全体を考えてどう豊かにできるか、そこにママノがどう位置付けられるか。結果的にママノを辞めた方が幸せになれるなら無理に引き留めない方がいいでしょうし。今、ママノで働いて、どういうことをやっていれば幸せなのかを考えて欲しいなと思うんです。

僕が心底惚れ込んだ「アリバカカオ」を使って美味しいチョコレートを作り、お客様に喜んでもらう。そして、原産国であるエクアドルの方たちにも幸せになってもらいたい。そのために今後はもっと、アリバカカオの魅力を引き出す商品をスタッフと一緒につくっていきたいですね。

▲MAMANOは江沢さん考案の造語。MAMAはエクアドルの農園には女性が多いこと、MANOはエクアドルの公用語で「手」という意味をつなげた。

MAMANO CHOCOLATE赤坂見附店

住所:東京都港区赤坂3-8-8 赤坂フローラルプラザビル1階
営業時間:[月~木]11:00-21:00
[金]11:00-22:00
[土・日・祝]11:00-19:00
定休日:基本定休は年末年始のみ
公式HP:https://mamano-chocolate.com/

取材後記

創業当時、ママノの開業資金は100万円だったそうです。最近若い人に「お金がないから起業できない」と言われて少し思うところがあったとか。

現在テンパリングマシンの追加を検討していますが、通常なら700万円前後するところ、江沢さんは自力で50万円のマシンを見つけました。製造している中国へ行き、実際に試作して購入を決めたそうで、もうすぐ新しいマシンがやってきます。「どんなことでも、お金がないのを理由に諦めるのはもったいない。やりたいことはどんどん挑戦して欲しい」と仰っていたことが印象的でした。

written by

田窪 綾

調理師免許持ち、レストラン勤務経験ありのライターです。東京都内近郊を中心に、食と食に関わる方の取材執筆をしています。(Twitter:aso0035)

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