「お仕事は何ですか?」と聞かれて「パティシエです。」と答えると必ず返ってくるのが、「クリスマス大変そうですねえ。」という言葉。今回はクリスマスの実態を、筆者がパティスリーで勤務した経験を元にお伝えします。
これからパティシエとして働きたいと考えている方は、誰もが必ず通る道!ぜひ参考にしてみてください。
過酷な12月!サンタより大忙し!?
世間の皆さんもご承知のように、パティシエのもっとも忙しい時期は12月。LEDライトが輝き街行く人もなんとなく楽しそうで、実に華やかなシーズンです。
が、その頃のパティシエはクリスマス用のジェノワーズの焼き貯めを始め、作業場も頭も身体もフル回転です。スタッフは12月頭から早くも皆、疲労ぎみ。でも、クリスマスのパティシエに倒れている暇なんてありません。もちろんいつも通りに店出しのケーキも作ります。そんな感じなので、朝5時半に家族の誰よりも早く起き、夜遅くの帰宅なんてこともしばしば。実家暮らしにも関わらず、偶然廊下であった家族に「久しぶり。」なんて言われる始末です。(笑)
眠い!寒い!ツライ!忙しい中にも喜びがあります
特にクリスマス直前になると真夜中3時過ぎに作業台に何十台と並べられたケーキの上にサンタクロースのシュガー細工を何十個と小脇に抱えて次々と乗せたり、朝方いちごをスライスしながら立ったまま寝てしまったりして。
しかもケーキの状態が第一!なため、暖房はつけられず、コックコートの下に着込んでいても工場内はとにかく寒いです。冷凍庫を開けたら冷凍庫の中の方が温かかったほど。またこの時期はケーキなどすべての商品を大量に製造するので、普段の製造工程とは異なり作業を完全分業に切り替えたりもします。
ただ、どれだけしんどくても、クリスマスケーキを買って帰られるお客様の楽しそうな笑顔を見ると、もう少しだ!がんばれ!と勇気づけられます。ガラス越しにお父さんに担ぎ上げられたお子さんが並べられたケーキを見て、「僕、お菓子屋さんになる!」とキラキラした目でこちらを見ているのを目にしたりすると、忙しい中なのですが、心がほっこり温かくなります。
主役はクリスマスケーキ!パティシエとしての誇り
12月25日、一台のケーキを大切そうに抱えて帰っていく最後のお客様の後姿を見送って、全員ほっとしてお店を閉めました。そしてチーフが開けてくれたお疲れ様ドンペリニョンの美味しかったこと。クリスマスまでの数カ月間は本当に大変ですが、これだけの修羅場を経験すると、後から何があっても動じなくなります。これは素晴らしい職業訓練の成果と言えるのではないでしょうか。
たとえ目の下にクマができても、立ちっぱなしの足や何百台とナッペした腕が痛んでも、その日食卓で一番輝く主役は私達が作った一台のクリスマスケーキです。すごいね、可愛いね、綺麗だね、美味しいね。そういって食べて頂けることがパティシエにとってどれだけ誇りになり、パティシエをやっていてよかった…と思えることでしょうか。
そういえば筆者がパティシエを志したのもクリスマスケーキがきっかけでした。
『いつか、人を楽しませるお菓子屋さんになりたい。』
クリスマスケーキに立てられたキャンドルの炎を消しながら誓った事を思い出したものです。
ちょっと苦しい時もあるけれど、やりがいは無限大。パティシエの一番の勲章、それは「美味しい」と微笑んで頂けるお客様の幸せそうな笑顔なのです。クリスマスはもちろん、なにかと年中忙しい仕事ですが、パティシエはいつも夢の仕掛け人なのですから。