改革のカギは「チームマネジメント」。体制とマインドの立て直しで勤務時間の短縮と休日数アップに成功!

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古都・奈良で創業120年ほど続く老舗迎賓館「菊水楼」。月にたった2日しか休日がなく、残業は当たり前という環境を2年間で「年間休日数106日」「残業時間ゼロ」にまで改善し、驚くほど笑顔の絶えない職場になったという。成功のカギは、チームマネジメント。今回はその劇的な改革を成し遂げた小泉孟史シェフに、話を伺った。

会社概要

社名:株式会社菊水楼
「奈良で国内外からの賓客をお迎えできる場所」として明治24年に創業。元々は料亭旅館としてスタートし、高級会席料理から比較的カジュアルに利用できる和食レストラン、洋食レストランなどを展開している。

改革者

エグゼクティブシェフ:小泉 孟史さん
1983年生まれ。建設会社で勤務した後、「自分の店を持ちたい」と考え25歳の時にSODOH東山京都(株式会社Plan Do See)へ入社。約5年間の修業を積んだ後、オリエンタルホテル神戸へ。32歳の時、株式会社菊水楼入社。

何が問題だったのか?

奈良公園のほぼど真ん中にあり、周辺には歴史的建造物も多く常に観光客で賑わっている絶好のロケーション。華々しく映る菊水楼であっても働くとなったら話は別で、小泉シェフは、2年前に入社した当時の様子をこう話してくれました。

「同じキッチンにいても、メンバー同士『会話がまったくない』ことに驚きました。お互いまったく干渉せず、ただ黙々と自分の仕事をするだけなんです。だから笑うことも一切ない。それが社風というか、文化として根付いてしまっているような感じ。仕事を分け合わないから、結果的に休みは月に2~3日で、長時間労働も当たり前でした」



長きにわたって続けてきた伝統と歴史は強みでもあり、弱みにもなると小泉シェフは言います。外の空気に触れることの少ない閉鎖的な環境は、人への興味を次第にすり減らしていたのでしょう。

「人に食べ物を提供するのに、人に興味がなくていい仕事ができるわけない!と僕は思っています。まずはスタッフの意識改革を最優先事項に挙げて、会話のあるチームを作ることから始めようと決意しました」

人が変われば、仕事の質も変わる。それはいずれ少ない休日数を増やすこと、勤務時間の短縮化を進める動きにもつながると、小泉シェフは話してくれました。

「あと、自分の時間を大事にしてもらいたいんですよね。働く時は働く、遊ぶ時は遊ぶ!ってメリハリあるほうがいいですし、人が人らしい生活を送れるようにしたいなって思って」

『人らしい生活』というのは、まず人と会話をすること。そしてきちんと決められた休みがあること。その時間で食べ歩きをして勉強したり、自分の趣味や好きなことに熱中したり、何も考えずにのんびりして疲れを癒す時間があること。家族も安心する生活のことだと、小泉シェフは考えているそうです。

チームの体制を改革。会話が増えると意識が変化する。

「個人プレーが多いから会話がないんです。だからポジションにつきひとりではなく、3~4人のチーム単位で担当してもらうように体制を変えました。チームにはリーダーを置いて、その小さな組織をマネジメントさせる。すると嫌でも、話す場面が多くなります」

個々でポジションを担当するのは、裁量が大きく責任感も芽生えるメリットがある反面、業務を共有できずマンパワーに頼ることになるデメリットも。人の仕事に手を出さない(出せない)ことが日常化すると、干渉し合わない職場になってしまうのかもしれません。

「もちろん当初は反感を買い、中には辞めていく人もいましたけど、それは覚悟の上でした。でも環境を変えたかったら、人を変えるしかない。それだけで残業が減って休みも増えるんです。実際チーム制になったことで作業を分担できるようになり、みんなで仕事を終わらせるようになりました。するとメンバーに自信がみなぎってくる。もっと効率よくできるんじゃないかって、自分たちで考えるようになってきました」

頭で分かっていても、なかなか実践できることではありません。人の意識を変えることほど、難しいことはないからです。それでも小泉シェフは、根気よく「自分たちならできる!」とひたすらポジティブな言葉だけをかけ続けたそう。次第にその考えは一人ひとりに伝播して、メンバーの目の色は徐々に変わっていったと振り返ってくれました。

結果的にこの2年で残業はなくなって、休みも月8日に増えましたね。月100~200万円近く発生していた残業代を削減できたので、それを研修費として使えるようにしました。たとえば市場調査を兼ねて高級レストランへ行く、食材のストーリーを学びに農家へ行くなど、外の空気に触れる機会を増やしています。もちろん研修なので、後々レポートを作ってもらって」

勉強の機会をどんどん与えてレベルの底上げを図ること、またメンバー同士で体験を共有して、チームワークに磨きをかけることも目的としているそうです。



また、同時に年功序列だった評価制度も一新。

「ひとり1時間くらいの個別面談をして、個々の目標とそれに対するアプローチの仕方を決めています。半期後に振り返って、目標達成度だけでなくプロセスを確認し、それと自己評価をしてもらって総合的に判断しています」

働く動機や目標は内発的なものでなければ長続きしないので、自己評価に重点を置くそう。中には自己PRが苦手な職人もいると思います。だからこそ小泉シェフは普段からの会話を大事にし、個々の性格を把握した上で評価を行うと話してくれました。

「パティシエに対しては、僕の専門外の分野なのでより長い時間をかけて面談しています。技術的な部分はシェフパティシエと話し合って、それを踏まえて行動やプロセスの部分を見て判断します。僕から見れば『キレイやな~』と思っても、まだまだです!と、休憩中にもナッペの練習している姿を見れば、応援したくなりますよ。人間ですから」


見違えるほど笑顔が増えた菊水楼。

ここまではチームマネジメントでの改革についてお聞きしましたが、パティシエに絞った話も伺いました。パティシエが働きやすい環境作り、具体的には?

「パティシエに対してリスペクトする気持ちを、常に忘れないようにしています。パティシエに調理を手伝ってもらうことはできても、料理人はパティシエの代わりになれません。またコース料理の最後を飾るのはデザート。絶対不可欠な存在なんです」

時間が許す限り、ペストリーで過ごして積極的にパティシエと話すという小泉シェフ。とくに女性が多い職種なので、笑顔でいてもらうことを何より大事にしているそうです。パティシエの仕事も存在も大切にされていることが、言葉の端々から、そして写真撮影のために集まってくれた皆さんの笑顔からも伝わってきました。



最後に小泉シェフに、「何が一番変わったか」を伺いました。

「最初は会話も笑顔もなかった職場でしたけど、見違えるほど笑顔が増えました。キッチンで作業する時もみんなの好きな音楽を流したりして。昭和の歌謡曲からEXILEまで…世代によって音楽の趣味がバラバラですけどね(笑)。『めちゃくちゃ~!』って笑いながら、楽しめるようになったかな」

取材後記

長時間労働、休日数を改善するために人員を増やしたいという企業や個人店は少なくありません。しかし菊水楼は、人数が減っても労働時間を短くし、休みを増やすことができています。改革のカギは、人の動きを変えること、意識を変えること、そして笑顔を増やすこと。苦しい時期もあったでしょうが、それを乗り越えた菊水楼メンバーの表情は晴れやかなものでした。

また、職種や立場に関係なくお互いの存在を大事にし、尊敬する気持ちはどんな職場であっても必要なことだと思います。チームマネジメントの重要性を、改めて教えてもらった取材となりました。

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