”鮮度第一”でケーキを作る、「ナチュール・シロモト」のお菓子の美学。

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「早朝に作ったケーキが、夕方も翌日も同じように美味しいはずがないでしょう?お客様には、限りなくベストに近い状態で食べてもらう。美味しくないものは絶対に売らない。これは菓子屋のプライドなんですよ」

京都府松井山手にある『ナチュール・シロモト』のショーケースには、オーナーシェフ・城本智和さんの美学が詰まっています。
城本シェフの美学とは、「鮮度」のこと。
お菓子が最も美味しいタイミングで食べてもらいたいという願いから、徹底した鮮度管理のもと生産を行い、生菓子に関しては常に出来たてを販売しているそうです。

修行時代から数えて約18年間、「アンリシャルパンティエ」に勤めてきた城本シェフは、ブランドの急激な成長を最前線で支えたのち独立。それから18年が経った今も揺るぎないお菓子への情熱と、次世代の育成についてお聞きしました。

美味しいと思ってもらうため、ベストを尽くす

――ナチュール・シロモトのお菓子は、鮮度第一で作られているんですよね。

城本シェフ
「鮮度というか、一番美味しいタイミングで食べてもらえるようにしています。フィナンシェのような焼き菓子なら、風味と食感が保てるのは1週間から10日間までだと思うので、その期間で消費期限のシールを貼ります。生菓子なら、出来たてで。美味しくないケーキって、罪でしょう?」

――そうかもしれません。消費者は『美味しくて当然』みたいに思っているところありますし、たまに美味しくなかったら本当にガッカリしてしまいます。

城本シェフ
「でしょう?いわゆる『ハズレ』の美味しくない生菓子っていうのは、ほとんど劣化しているからだと思ってます。早朝に作ったケーキが、夕方や翌日にも同じ味のはずがない。味が落ちたケーキを同じ値段で売るなんて、僕にはできないんですよ。だからうちのケーキは、1日の始まりにすべて仕上げるんじゃなくて、何度かに区切って、仕込み、焼き、仕上げをして、お客さんが夕方に買いに来ても出来たてで提供できるようにしているんです」

――具体的にはどうやって生産数やスケジュールを管理しているんでしょうか?

城本シェフ
「まず週単位、曜日と時間帯ごとに客足と売り上げのパーセンテージを計測しておく。それを元に、次週の生産数を予測します。たとえば朝、開店したて(10~12時台)で売れるのが全体の1割程度だったら、朝イチで数を揃えておく必要なんてない、ということが分かってくる。一番販売数の多い時間帯から逆算して、3時間前からまた仕込み始めるんですよ」

――1週間と1日のバロメーターを、ある程度掴んでおくことが大事なんですね。でも、他の店から移ってきた方は戸惑うんじゃないでしょうか。

城本シェフ
「そうですね。作業の内容としては他の店と大きく変わりませんが、動き方が違うみたいだから確かに大変かもしれない。でも、何を目的に菓子屋をやっているか考えれば、僕の答えは決まってる。美味しいお菓子を、限りなくベストに近い状態で食べてもらう。これは菓子屋としての一種のプライドだし、自分の心を満たすモチベーションでもあるんです

――城本さんのその生産体制は、アンリシャルパンティエで学んだんですよね。

城本シェフ
「ちょうど業績がうなぎ上りの時に働いていて、毎月のように出店があって。だから製造現場では、生産性向上をめちゃくちゃ求められたんです。1日の内に何度も配送があるから、それに間に合わせるようにオペレーションを見直して。工場で朝5時半に絞り始めたモンブランが、9時半には百貨店の売り場に並ぶって、当時はそんな常識はずれの菓子作りができるなんて夢にも思ってなかった」

――その間、もちろん配送準備も配送もあって、店頭まで約4時間……秒単位で動かないと間に合わないですね。

城本シェフ
「『早く辞めてやる』と思いながら(笑)食らいついて働いて、そのおかげでどうすれば効率よく生産できるかが頭の中で組み立てられるようになったので、じゃあ自分の店でもやろうと」

“言葉”で“心”を育てる人間教育

――ナチュール・シロモトの生産体制を実現するには、スタッフさんたちの働きがあってこそですね。今、城本さんがスタッフさんに思うことって何でしょう?

城本シェフ
「僕、50歳を超えていて。同世代の人は分かると思うけど、若手をちゃんと育てたいんですよ。でもこんな業界だから、入社してもらう時はご両親とも顔を合わせて、労働時間のことも、体力がいる仕事だということも説明しています」

――大事なお子さんを預かっている、と。

城本シェフ
「“心”を育てるつもりでいるんです。誰かに助けてもらったら、ちゃんとお礼を伝えるんやで、というような人間教育ですね。信頼される人って、技術だけじゃなくて人望もあるでしょう。仕事は信頼関係で成り立つものだから、感謝と素直な気持ちはいつも忘れないように。ここは親のように口うるさく言ってるかも」

――精神面での成長という部分で、とくに取り組んでいることはありますか?

城本シェフ
「毎月1回、必ず時間をとって1対1で話をします。面談ノートを作って、前月の振り返りと毎月の目標を話し合って。本人の目標が高かろうが低かろうが、常に自分をアップデートしていくことが大事なんです。本人が頑張る内容をきちんと“言葉”にしてもらって、具体化していく。下手したら1日話さなくても成り立つ職業だから、だんだん気持ちがすれ違っていっちゃうんですよ。やっぱり人と人だから、気持ちを通わせるには、相手の表情を見ながらの会話しかない」

――今後、お店として目指していることはありますか?

城本シェフ
「活力のある職場を作りたい。そのためにスタッフに対して、“心”で接していこうかと。でも自分は人間的にまだまだ未熟な部分もあるし、勉強しないといけないことは痛感しています」

城本シェフ
「最近よく考えるんですよ。『今日、本当に幸せだったか?』『相手を本当に幸せにできたか?』って。自分に問いかけたら、色々やり残したことばかり。じゃあ明日は同じことを繰り返さないように、ベストを尽くしたい」

パティスリー・ナチュール・シロモト

住所:(欽明台店)京都府八幡市欽明台北4番地
電話番号:075-971-3300
営業時間:10:00~19:00
http://www.n-shiromoto.com/

→→パティスリー・ナチュール・シロモトの求人はコチラ

取材後記

お菓子に、お客さんに、スタッフに、ベストを尽くす。そして、本当に幸せだったか?幸せにできたのか?と自分自身に問いながら創るショーケースは、城本シェフの人生観そのもので、取材中にいただいたケーキも、帰りに買ったマカロンも、より一層美味しく感じました。
美味しさには確かな理由がある。そう思った取材でした。

written by

あかざしょうこ

1984年生まれ。PATISSIENTの編集ライター。「人生の教科書は人」をモットーに、聞いたり書いたりしています。
パティスリーを訪問するたびにお菓子を買うんですが、確実に太りました。シロモトさんのマカロンは、紅茶とフランボワーズがオススメです。

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