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インタビュー

30歳で糖尿病になったパティシエが語る、「それでも僕がお菓子を作る理由」


もしもパティシエが「糖尿病」になったら……。
糖質とともに生きるパティシエにとって、糖尿病は決して他人事ではありません。

今回は、30歳にして糖尿病を患ったパティシエ、松本祥宏(まつもと よしひろ)さんを紹介します。
松本さんは突然糖尿病を発症し、一時はパティシエへの道をあきらめたものの、リハビリのすえに遂に独立開業に至ったのです。

パティシエという職業は果たして不治の病と呼ばれる糖尿病と共存できるのか?
自身の闘病体験をもとに糖尿病医療チームと共同開発した「低糖質スイーツ」とは?

糖尿病という運命に翻弄されながらも自分らしい働き方を模索し、開業へこぎつけた松本さんの想いをおうかがいしました。

松本祥宏(まつもと よしひろ)さん

京都市上京区出身。現在37歳。
名古屋造形芸術大学を卒業後、画家として活動。浜松のレストランでアルバイトをするうちに製菓の魅力を知る。東海調理専門学校カフェ・スイーツ科を卒業後、浜松「マリアツェル」に就職。しかし就業一年で糖尿病を発症。リハビリを経て京都へ帰郷し「オアフ」に就職。2014年に退社し、代官山「イル・プルー・シュル・ラ・セーヌ」製菓教室で基礎を再習。2015年に滋賀県大津市にて菓子工房「メゾンドロースノア」開業。現在も食事療養を続けている。

毎日食べても飽きないやさしい味わい

――商品のラインナップを見させていただいて、ほどよい大きさの素朴なおやつ菓子という印象を受けました。菓子工房「メゾンドロースノア」のお菓子の特徴はなんでしょう。
うちは焼き菓子、とくにクッキーの人気が高いんです。ひとつ食べたら大満足というより、毎日食べても飽きないやさしい味わいと、お茶請けにちょうどよいサイズを大切にしています。

▲クッキーはコンベクションオーブンで少量をまめに焼き、フレッシュなものを売り切っていくスタイル。

▲コンフィチュールはおよそ20種類のなかから季節ごとに提供。フルーツは京都の青果店から新鮮なものを購入している。

画家からパティシエに転身

――松本さんはパティシエになる以前は画家をされていたそうですが、洋菓子づくりにたずさわるきっかけはなんだったのでしょうか。
絵の仕事だけでは食べていけず、浜松にあるレストランの厨房でアルバイトをしたんです。料理長さんがデザートにとてもこる人で、いちからカスタードクリームを手づくりしたり、それを使ってシュークリームをつくったりしていました。そしてデザートの盛り付けを手伝っているうちに『お菓子づくりって、おもしろそうだな』と関心をいだいたのがきっかけですね。自分でお菓子をつくってみたくなり、製菓専門学校の夜間コースへ通いはじめました。

――画家という仕事への未練はなかったのでしょうか。
それはないですね。絵も洋菓子も“ものづくり”という点で共通していますし、店のキャラクターデザインやサンプル撮影なども自分でやっているので、芸術を学んだ経験は現在も活かせていると思います。

▲店名の「ロースノア」とは「黒いくま(ロース=くま、ノア=黒い)」を意味し、松本さんのあだ名だったことから由来している。

「まさか自分が糖尿病になるなんて……」

――製菓の専門学校を卒業され、すぐにパティシエになられたのですか?
いいえ。専門学校の在学中から就職活動を始めてはいたのですが、なかなか仕事が決まりませんでした。もう30歳手前の遅いスタートでしたから、面接を受けても「急にそんな年長の方に来られましても、もといた従業員たちが仕事がやりにくいです」と言われ、何軒も断られました。そしてやっと同じ夜間コースに通っていた友達の紹介で浜松の「マリアツェル」で働けることになったんです。オーナーさんがとても心の広い人で「年齢は問わない。やる気があるなら来てもいいよ」とおっしゃってくださって。期待に応えるべく「ここで頑張ろう!」と思ったんです。

――ああ……「頑張って働こう」と誓った矢先に、「糖尿病」が発症したのですね。
そうなんです。働きだして1年が経った頃です。朝起きたら強い痛みが全身を走り、身体が動かなくなりました。無理をしてなんとか出勤しても身体がつらくてぜんぜん仕事に集中できない。それでお医者さんに診てもらったら「糖尿病です。血糖値が異常です。すぐに入院してください」と告げられました。自分では体調を崩した程度だと思っていたので、「即入院」と命じられ、かなり戸惑いました。まさか自分が糖尿病になるとは思いもよらなかったです。「もっと年輩の人がなる病気だ」と考えていました。

――「すぐに入院」とは、驚きますよね。糖尿病で入院して、製菓のお仕事は、どうされたのですか?
辞めざるをえませんでした。低血糖や高血糖などで気を失う危険性があったり、合併症などで命に関わる事態になりやすかったり。自覚はなかったのですが、知らぬ間にそんな状況にまで陥っていたんです。それから一か月の入院後、一年間の食事療法と運動療法で体重を落としました。糖尿病は不治の病と呼ばれ、一生完治することはありません。なので「製菓の仕事を続けるのはもう無理だろう」とあきらめ、目の前が真っ暗になりました。

恩返しのためにつくったお菓子が結んだご縁

――それは無理もないことです。悔しかったでしょうね。では、あきらめていた製菓業界に「復帰しよう」と思われたのは、なぜでしょう。
担当医さんが「糖尿病でもパティシエをやっている人がいる」と、全国の事例を見せてくれたんです。それがとても励みになりました。そして退院後、恩返しをしたいと思い、担当医さんや看護師さんたちに手づくりのお菓子を差し入れしていたんです。するとそれをとても喜んでくださって。「お菓子って、こんなにも人に喜んでもらえるんだ」と改めて感動し、「もう一度、パティシエをやってみたい」と考えるようになりました。

――手作りのお菓子で恩返しですか。それは素敵です。しかし実際にリハビリをしながら復帰となると、たいへんだったでしょう。
そうだったんです。3年ほどのあいだ、さまざまなお店でアルバイトをしたのですが、身体がキツくて続かない。迷惑をかけにいっているだけのような日々で、長く働けず、職場を転々としました。この時期は本当につらかったです。そしてたどり着いたのが「オアフ」というシュークリーム屋さん。部長さんが理解のある人で、ゆるいシフトを組んでくださって、さらに営業や販売の方法も教えてくれました。オアフで学んだことは、独立の際におおいに役立ちました。

▲機材を含めて開業資金は450万円ほど。開業資金をすべて自分の貯金でまかなった。

試行錯誤のすえに完成した「低糖質スイーツ」

――そうして独立開業された「メゾンドロースノア」では、糖尿病患者へ考慮し、糖質とカロリーの値を下げた「低糖質スイーツ」を製造されていますね。きっかけはなんだったのですか?
開業のおよそ1年前、2014年に京都府立医科大学附属病院糖尿病医療チーム「Team FUTABA(チーム・フタバ)」から「糖尿病患者さん用のスイーツを共同開発できないか」と提案されました。僕自身が糖尿病の闘病経験があるので「やってみたい」と思いました。

――「低糖質スイーツ」が完成するまでに、どれくらいの期間がかかりましたか。
患者さんに試作品を実際に食べてもらい、血糖値の上昇率を測りつつブラッシュアップし……。1年はかかりました。糖質とカロリーをともに下げ、それでいてなおおいしいお菓子をつくるのは本当に難しいんです。甘味料を使うとカロリー値が高くなったり、小麦粉を使わないでいると代替素材の苦みが前へ出すぎたり。なので、あえて砂糖も小麦粉もバランスをとりつつ使いました。「毎日の食事療法で糖質を気にされている患者さんがお菓子を食べて罪悪感に陥らないライン」を見計らいながら。

▲味も食感も一般的な洋菓子となんら変わらない「低糖質スイーツ」。

――やはり決して短くない試行錯誤の期間があったのですね。「低糖質スイーツ」をつくりはじめてから印象に残ったことはありますか?
患者さんから「普通のプリンと同じ味やわ~」と言われたときは本当にうれしかったです。僕自身、糖尿病を発症した時「これで一生、甘いものが食べられない生活が始まるのか……」と思うと深い絶望感にさいなまれました。低糖質スイーツを食べても決して糖尿病が治ることはない。けれども絶望感や罪悪感からは解放される。もしかしたら低糖質スイーツをつくることが僕の使命だったのかな。そう思うときもあるんです。

店舗プロフィール

菓子工房「メゾンドロースノア」
住所:滋賀県大津市本宮2-10-16 星州ビル1F
HP:http://maison-de-lours-noir.com/

取材後記

扉を開けると、熊のキャラクターデザインが愛らしい、ファンタジックな店構え。しかしそんなかわいいお店がオープンするまでには数々のドラマがありました。パティシエにとって致命的とも思える糖尿病の発症。パティシエとして、生涯治らない糖尿病とともに生きる道を選んだ松本さんのまっすぐな姿勢に、深い感動をおぼえました。

松本さんの現在の目標は「低糖質のホールケーキ」の新展開。商品化に成功した低糖質ケーキを、どのような形で販売するかを考えているところなのだとか。
遅咲きの星である松本さんのあくなき挑戦は、まだまだ続きます。

(編集部注)本記事は糖尿病の症状や治療法について、見解を示すものではありません。ご了承ください。

この記事の筆者

吉村 智樹

おもに西日本の街・店・会社・行政・人を取材するライター。Web&紙。関西ローカル局で放送作家としても活動しています。@tomokiy

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