パティシエを目指す場合の留学先といえば、スイーツの本場「フランス」を思い浮かべると思います。
しかしその一方、ここ数年では中国・韓国・台湾などアジア圏の学生が日本へ製菓技術を学びに訪れていること、そしてその留学生の人数が年々増加していることをご存知でしょうか。
フランス研修を経験できたり、本場フランスと並ぶ本格的な製菓技術を学べたりなど、魅力的な日本の専門学校が留学先として選ばれているのです。
このことについて2018年6月、辻調グループが2018年度の留学生データを発表しました。
辻調グループというと1960年に学校を創立した日本でも有数の「料理」の名門校です。
特に辻製菓専門学校はフランス・ドイツ・ウィーンの伝統菓子から和菓子や製パンまで、多彩なジャンルでの学びを深めながら、クオリティの高い製菓技術を習得できることもあり、人気も高い傾向にあります。
前述した留学生増加の数値に比例して、辻製菓専門学校においても2018年に入学した外国人留学生は総勢136名。2016年の84名、2017年の117名と比較すると年々増加していることが分かりますよね。
ではなぜ、日本の製菓学校に留学生が多く集まっているのでしょうか?
なぜ留学生は日本で製菓技術を学ぶのか?
この最大の理由はやはり、『日本の製菓技術の高さ』にあるでしょう。
実際に辻製菓専門学校が学内アンケートで留学生を対象に「なぜ日本で料理や菓子を学ぶことにしたのか」と質問したところ、日本の菓子が好きである、また食文化に興味があるといった日本への強い興味関心といったジャンルの回答を抑え、「日本は調理・製菓のレベルが高い」と選択した留学生が最も多いのです。
この結果から推測すると、今アジア圏を中心に日本の製菓技術、そして日本の洋菓子の注目度が高まっているという傾向にあると考えられます。
日本の洋菓子技術の向上、また日本で技術を習得したのちに帰国したパティシエの活躍ぶりから「日本で製菓を学ぶ」ことへの憧れや関心が非常に高まっているのではないでしょうか。
高い向上心を持つ留学生…卒業後の希望進路は?
製菓を学ぶ留学生は非常に高い独立意識を抱いています。
実際に、辻製菓専門学校が留学生を対象に「将来どんな仕事に就きたいか」とアンケートを実施したところ「自分の店を開きたい」という回答が最も多く集まったそうなんです。 また、その夢に向かって経験を積むために選ぶ就職先の基準としては『シェフが魅力的である』『自身のキャリアアップにつながる』を重視するとのこと。
単に有名店や規模の大きな店舗で就労するのではなく、魅力的なシェフのもとで実際に自分のスキル向上に直結する技術や経験を積み、その後自国で独立して自分の店を持つという夢を叶えるためのステップとして、冷静にそして現実的に就職先を選ぶ留学生が多い傾向にあるのです。この留学生の傾向を考察すると、日本の洋菓子文化がヨーロッパをモデルに発展していったように、アジアの洋菓子文化も今後日本をモデルに発展していくのではないでしょうか。
留学生の進路については大きな課題も
実は、外国人留学生が製菓技術習得のため日本に入国した際に与えられる「留学ビザ」を、パティシエとして日本では働くうえで必要となる「就労ビザ」へ変更することは非常に難しいのです。
その理由として、料理人やパティシエといった「技能」に関わる在留資格での「就労ビザ」は、料理・菓子の内容が「料理の調理または食品の製造にかかる技能で、外国において考案され、我が国において特殊なもの」であること、また「実務経験が10年以上ある」ことが要件とされていて、非常に高いハードルとなってしまっているからです。
最近では司法書士など専門家に依頼して適切な申請をすることで許可がおりるというケースもありますが、まだまだ一般的ではないのが現時点での大きな課題だと言えます。
留学生と共に日本の製菓業界も発展する?日本の製菓の展望とは
就労ビザの許可がおりにくいという実状はありますが、今後「日本の製菓学校で学びそのまま就職したい」と願う留学生が増加することによって法律が変わる可能性は考えられます。
そうなると今後の製菓業界に、国籍関係なく「高いモチベーション」と「しっかり習得した製菓技術や理論」を持つ外国人のパティシエが、「新人」として仲間入りすることも増えていくのではないでしょうか。また、日本人の新人パティシエにとっても、モチベーションの高いライバルと切磋琢磨しながら自身の技術を向上させていく有意義な時間の共有にも繋がることでしょう。
『留学生と共に発展する日本の製菓業界』は、そう遠くないかもしれませんね。
参考:辻調グループ NEWS LETTER vol.23(2018年6月発行)