業界市場の動向をチェック!実際のところ、洋菓子業界って好調なの?

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「まごころをこめてつくった洋菓子を、たくさんの人に食べてもらいたい」
そう考えているパティシエは、きっと多いでしょう。

しかし時代の移り変わりとともに、人々の味覚も変化し、それにともない洋菓子の売れ筋にも影響があらわれます。

「どんな味のものを、どんなデコレーションで販売すると、お客さんの関心をひくことができるのか」
「どういった素材を使い、どんな新商品をつくると喜んでいただけるのか」
「どうすれば売り上げがアップするのか」

それを知るためには、まず世の中の「トレンド」をつかんでおくことが重要ではないかと思います。

なぜなら洋菓子は、おいしさだけではなく、見た目のデザインの美しさゆえに「ファッションとして食べる」ものでもあるからです。ファッションに流行があるように、洋菓子もまた、時が過ぎるともに好まれる傾向が変わっていきます。

とくに近年は「インスタ映え」ということばが流行り、女子向けの最大手総合メディア「マイナビティーンズ」が発表した「10代女子が選ぶ流行語2017」でも「インスタ映え」は栄えある1位に輝きました。いまや洋菓子は味だけではなく「写真うつり」がおおいに評価される風潮にあります。

このように人々の暮らしぶりの変化は、洋菓子の人気を左右しているのです。そういうわけで今回は、「2018年5月の現時点における、洋菓子を取りまく状況」について、さまざまなデータをひもといてみます。

パティシエの皆さんが魂をこめてつくった洋菓子。その熱い想いをもっともっと届けるためのヒントが、数字から垣間見えてくるはず。

「ケーキ」の売り上げは、この10年間で最高額に。その理由は?

「いまどんな味が求められているのか」
それを知るひとつの目安となるのが、「家計調査年報」です。

「家計調査年報」とは総務省統計局が全国およそ9千世帯に対しておこなった国勢調査のこと。このなかには単身者も含まれ、「洋菓子を買うであろうほぼすべての人」が調査対象となっており、もっとも信ぴょう性が高いといえます。「家計調査年報」はインターネットで無料で閲覧できるうえに「都道府県別」「二人以上の世帯」など細かい結果もはじきだしているので、覗いてみて損はありません。

ではさっそく総務省「家計調査年報」2017年度の全国調査から、「ケーキ」の動きを見てみましょう。

「ケーキ」の2017年度一世帯あたりの年間支出平均額は6,916円。10年前の2007年におこなわれた同様の調査結果が6,115円
この数字を見ると「ケーキ」を取り巻く状況は決して悪化してはおらず、それどころか、この10年で最高額を記録しているのがわかります。

ケーキが好調な理由は「百貨店の売り場拡大」

ケーキが好調な理由として、「百貨店の売り場拡大」が考えられます。いま日本の主要都市の多くで百貨店やショッピングモールのリニューアルがはかられ、洋菓子の売り場面積が拡大しているのです。

百貨店の新装拡充による全体の売り上げアップはめざましく、日本百貨店協会の調べによると2019年3月時点で、東京、横浜、大阪、京都、福岡、札幌の名だたる大都市が前年から成績をあげています。特に関東は東京に限らず全体に快調です。

またこういった百貨店の洋菓子売り場の拡充が「お持たせ」という言葉を定着させました。自分が食べるためだけではなく「駅チカで購入できる贈り物」としても、ケーキがさらなる機能を果たしているのではないでしょうか。

「男性客の増加」「外国人旅行者の増加」も追い風に

ほかにケーキが好調な理由として考えられるのが、

●流行語にもなった「インスタ映え」をさせたいというSNSユーザーの欲求にもっとも適合しやすい洋菓子であること。
●「スイーツ男子」「スイーツおやじ」と呼ばれる男性客の増加。
●訪日外国人旅行客による需要の増加。

きれいに飾りつけられる日本製のケーキの技術は、海外の人たちの目には驚異に映っているとのこと。

実際、「観光庁『訪日外国人消費動向調査』を基に農林水産省が推計した資料」によると、インバウンドの買い物に菓子類が占める割合は、2013年には618億円だったのが、2017年には、なんと1,589億円に!2倍以上にまで上昇しています。

和菓子の売り上げが微増であることから、この上昇率に貢献しているのは、ほぼ洋菓子とみなして間違いではないでしょう。矛盾しているようですが、海外の方々にとって「洋菓子」は「日本のお菓子」なのです。

個人営業の洋菓子店を悩ませる「原材料の値上げ」などの諸問題

しかしながら、これらはあくまで「洋菓子メーカー」に対するトレンド。
全日本菓子協会の発表(2018年3月30日)によると、一般洋菓子店の全体として生産数量、生産金額、小売金額は前年からわずかに減っています。

一般洋菓子店にとってもっとも経営に響くのが「原材料の価格変動」です。
リーマンショックの影響で2012年に小麦粉、牛乳、生クリーム、バター、チョコレート、ナッツ、オイルなど洋菓子の原材料全般が一気におよそ3%もあがり、さらにここにきて保冷剤の仕入れ値がおよそ8%上昇。しかし原材料費を販売価格へ上乗せすることは難しいのが現状です。「値上げによって常連さんが離れていってしまうのではないか」と一歩踏み出せず、収益を圧迫しているお店は少なくないのではないでしょうか。

また地方では人口の減少が影響して、個人の消費が伸びないのも頭が痛いところ。コンビニスイーツの台頭も予断を許しません。つまり低価格合戦に巻き込まれてしまうと、先細りはまぬがれないようです。

小売店にある強みは、「こまわりが利く」ことと「地域密着の力」。
「地元生産者との新商品開発」「ケーキに合うブレンドティーをセット販売して売り上げをあげる」「花屋さんとタッグを組んで洋菓子とお花のセット販売」などの方法での成功事例もあり、値下げだけではない方法を臨機応変に考えることが必要な時代といえるでしょう。

もしかして世間は「乳製品離れ」が進んでいる?

では、ほか洋菓子もみてみましょう。

総務省「家計調査年報」によると一世帯当たりの「ゼリー」の年間支出額は1,561円(2007年調査)→2,042円(2017年調査)と大幅にアップ。反対に「プリン」は1,648円(2007年調査)→1,480円(2017年調査)とさがっています。

2007年には「濃厚プリンブーム」が巻き起こりましたが、プリンの購入金額は意外にも低調のようです。ただ「家計調査年報」を見てみると「牛乳」「バター」の支出額は確かに年々さがっています。乳製品に対する世間の好みに、変化が起きているのかもしれませんね。

反面、女性誌などで「フルーツゼリーのセラピー力」が特集されるなど、ゼリーもまた、嗜好の変化が数字に表れているのでしょう。

お客さんの声のなかに、売り上げアップのヒントがあるかも

このように洋菓子の売れ行きは、その地域や社会の変化はもちろんですが、お客さんの味覚・嗜好・ライフスタイルの変化によって選ばれる商品もどんどん変化していくようです。
働いているお店のお客さんの声を聞いたり、生活環境をじっくり観察することが、これからより大事になってきますね。

ふと耳にするお客さん同士の会話のなかに、これからヒットする商品のヒントが隠されているかもしれませんよ。

参考資料

総務省「家計調査年報」
日本百貨店協会「全国百貨店売上高概況」
観光庁「訪日外国人消費動向調査」を基に農林水産省で推計
洋菓子小売業(製造小売)資料(大阪府)

イラスト:NGT(仮)

written by

吉村 智樹

おもに西日本の街・店・会社・行政・人を取材するライター。Web&紙。関西ローカル局で放送作家としても活動しています。@tomokiy

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