カカオ豆から作る世界初のホワイトチョコレート専門店がオープン!『パレドオール ブラン』の工房を潜入リポート

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10/1、東京・青山に世界初となるホワイトチョコレートのBean to Barブランド「ショコラティエ パレ ド オール ブラン」がオープンしました。 オーナーは、日本におけるビーントゥバーの第一人者でもあるショコラティエ・三枝俊介シェフです。

▲「ショコラティエ パレ ド オール ブラン」の全景。左側が工房、右側が店舗になっている。

もともとこの場所にあった「アルチザン パレドオール ⻘⼭店」を改装し、ホワイトチョコレートの工房兼店舗へと生まれ変わった「パレ ド オール ブラン」。お店の3分の2を占める工房は、外からでも見える全面ガラス張り!
コンパクトながら、ホワイトチョコレート作りに必要な全行程が可能になっています。

今回はオープン前のレセプションに参加し、特別に工房内を案内していただきました。自家製ホワイトチョコレートに賭ける三枝シェフの熱い想いとともに、ビーントゥバーの製造工程をご紹介したいと思います。

年間10トン以上のチョコレートを扱うからこそ、より深く追求できるはず

「ショコラティエ パレ ド オール」は、三枝シェフの出身である大阪を拠点に、山梨・清里の工房、東京と4店舗を展開。2014年に、カカオ⾖の焙煎からショコラに仕上げるまでを一貫して行うBean to Barをスタートさせました。

三枝シェフは、日々作っているチョコレートがだんだん自家製へと変わっていく中で、ホワイトチョコレートだけが自家製にできないもどかしさを常々感じていたそう。 カカオバターを自社生産することは非常に難しく、大手やBean to Barメーカーもカカオバターを購入してホワイトチョコレートを作っているのが現状です。

そこで三枝シェフは、「チョコレートを年間10トン使ううちの店が本格的に取り組み、経験を積むことで、今後見えてくるものも大きいのでは」と、1年前から開業準備に取り掛かっていました。

ホワイトチョコレートの製造は、大きく5つの工程に分かれます。
1.カカオ豆の焙煎
2.カカオ豆の皮をむく
3.カカオニブをすりつぶしてペースト状にする
4.ペーストを搾りカカオバターにする
4.砂糖、粉乳を混ぜてホワイトチョコレートにする

ここからは、これらすべてが対応できる工房内を詳しくご紹介していきます。

特注機もあり!希少なホワイトチョコレート製造工程

白衣とシューズカバーをつけていざ工房へ。入ってすぐ右側にはカカオの焙煎機がありました。

三枝シェフが持っているプレートは、高温で一度殺菌したカカオ豆。オーブン内の筒状の部分にカカオ豆を入れ、ぐるぐると回転させながら火を入れていくため、均等に焙煎できます。

これまではスコップでカカオ豆をすくって入れていたそうですが、その間オーブンが冷めてしまうのが難点でした。そうした課題を踏まえ、使いやすく、きれいに焼けるようにと特注で作った完全オリジナルのオーブンです。

カカオ豆をセットしたら、あらかじめ豆ごとにプログラムしてあるボタンを押すだけ。焼き上がりまで自動で調整してくれるそうです。

ローストしたてのカカオ豆は苦みのあるアーモンドのような味わい。ここに直接パラパラと砂糖をかけて食べると…途端にチョコレートの味に!驚きです。

カカオ豆の焙煎が終わったら、豆の皮をむく作業に移ります。スタッフさんの左手部分からカカオ豆を入れると、振動をかけて豆がむかれ、下へと落ちていきます。

豆は比重が大きいのでそのまま下に落ち、軽い皮は掃除機のように吸い取られます。これはスパイスを挽くための機械をカカオ豆向けに改良したものなのだとか。

皮が残っていたらもう一度機械にかけ、それでも残ったら肉眼で取り除く作業を行っています。このチップ状になったカカオ豆が「カカオニブ」です。

続いては「メランダー」と呼ばれる機械へ。大きな石臼のようなもので、先ほどのカカオニブをカカオだけのペーストにしていきます。この作業には2~3日かかるのだとか。

メランダーにかけ、ペースト状にしたものが「カカオマス」。ここから圧搾機を使い、カカオバターを取り出します。

カカオマスを搾り、カカオバターを取り出す「プレス機」は重さなんと900キロ! 「パレ ド オール 大阪」にも同様の機械はあるそうですが、こちらよりも小さく、カカオマスは1度に2キロまでしか搾れません。この1度で搾れるバターは600~700グラム程度。しかし、今回新しく導入したこちらはその4倍である8キロ程度のカカオマスを圧搾OK。 一度で大量の仕込みができるようになり、作業がグンとラクになります。

機械の中央部分にカカオマスを流し込み、セットするとピストンが下がり圧搾が始まります。

初めは茶色く濁ったカカオバターが出てきますが、だんだん黄金色に。

こちらが、希少な自家製カカオバター。ここから透明になるまで、何度か圧搾を繰り返します。三枝シェフは、今後さらに透明度の高いカカオバターにすることを目標にしているとか。

また、カカオニブにはもともと6割近くバターが含まれていますが、そのうち搾れるのは4割程度だそう。

乾燥したカカオバター。液状は黄金色でしたが、冷えて固まると白くなります。カカオ豆の産地により、色も香りも少しずつ異なるのが特徴です。

こちらは、搾り終わったあとのカカオマス。これを粉砕すると「カカオパウダー」になります。

自家製のカカオバターに砂糖と全脂粉乳を加え、メランダーで混ぜるとホワイトチョコレートになります。材料がすべて馴染むまでに3日ほど要すとか。かなり手間のかかる作業です。

「乳成分がまだ混ざり切っていないけれど…」と、製造途中のホワイトチョコレートを試食させていただきました。クセがなくサラッとしていて、とてもなめらかな食感。ミルキーな甘さが舌にそっと残るような味わいが印象的でした。

ここにしかない!カカオ豆の産地別に作るホワイトチョコレート

長い時間と労力をかけてできたホワイトチョコレートは、白を基調とした店頭へ並びます。

カカオ豆の産地別に作る、ホワイトチョコレートのシングルビーンズタブレット。現在はベトナム、ハイチ、トリニダードを取り扱っています。

「ビターやミルクチョコレートと異なり、ホワイトチョコレートはそれほど極端な差は出ない」という三枝シェフ。しかし、トリニダードだけはすごく特徴的。中でもICSという品種は、防虫効果のある『樟脳(しょうのう)』などと近いような匂いがするそう。実際に食べてみると、ホワイトチョコレートなのにスモークのような香りが鼻に抜けます。「クセがあって面白い」という三枝シェフの言葉が良くわかる味わいでした。

▲上段:タブレット ブラン メランジュ、下段:Bean to Cocoa(ドリンク用自家製カカオパウダー)

ほかにも、自家製ホワイトチョコレートを作る過程で、コーヒーや抹茶などの素材を混ぜ合わせたタブレットショコラもあり。三枝シェフは「ホワイトチョコレートは素材の味わいをダイレクトに出すには最適。ビターチョコは色々なものにマッチングできるが、チョコレートが勝ってしまう場合が多い。抹茶の繊細な色や、ベリー系の酸味を活かすにはホワイトがすごく良いパートナーになる」とコメントされていました。

こちらはカカオバターを搾った後のカカオマス。黒はパウダーにしたもの、青の瓶は砂糖を加え溶かして飲む、いわゆるココアパウダーです。通常のカカオは、搾ると酸味が強いのが特徴です。そのため、市販に出回っているカカオパウダーは、酸味を抑えるためにさまざまな加工がされているそう。一方、「パレ ド オール ブラン」で扱うカカオは、そのままチョコレートにしておいしいものだけを扱っているため、クオリティが異なります。上記のパウダーは酸味だけ抜く加工をしてあるため、安心して美味しく飲めるようになっているそう。

左のケーキのようなものはカカオマスを固めた「カカオケーキ」。非常に硬く、ハンマーで割ったり削ったりして料理やお菓子に使います。市販ではまず出回らない品物ですが、「マニア向けに販売したら面白いのでは?」と考えたそう。

パレ ド オールのスペシャリテは『ボンボンショコラ』。三枝シェフは、「美味しいボンボンショコラが作れなければ、いくらおいしいチョコレートができても私たちの中では完成ではない」というように、ガナッシュからコーテイングまでを自家製ホワイトチョコレート100%で作れるように試行錯誤を重ねてきました。

店名を冠したボンボンショコラ「パレドオール ブラン」をはじめ、フルーツとチョコレートのペアリングを楽しむ「コフレ ブラン」や、5種類のウィスキーの味を活かした「シングルディスティラリーショコラ ブラン」など、多彩なラインナップが揃っています。

奥が深いホワイトチョコレートの世界。今後の動向に注目です

「私たちはチョコレートについて、まだまだ分かってないことがたくさんある。ホワイトチョコレートをやることでそれを実感した」という三枝シェフ。組成や乳化条件の違い、安定した品質を保つ方法を探し求めてきました。

ルビーチョコレートの台頭など、今もっとも熱いチョコレートの世界。ホワイトチョコレートもさらなる研究の成果で、その謎がほどけていくかもしれません。今後の動向に注目していきましょう!

written by

田窪 綾

調理師免許持ち、レストラン勤務経験ありのライターです。東京都内近郊を中心に、食と食に関わる方の取材執筆をしています。(Twitter:aso0035)

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