パティシエなら知ってて当然？！バニラビーンズのすべて

甘い香りのバニラビーンズは、パティシエにとってなじみ深い材料のひとつです。 クレームパティシエールやソースアングレーズ、クレームシャンティーなどの香り付けに必ずと言っていいほど使う、ありふれた素材のひとつですが、このバニラビーンズ、元はどんな物なのでしょうか。

バニラビーンズの正体とは？

焦げ茶色の半分乾燥した莢の中には、黒い小さな粒々。 何かの植物の実であること、『マダガスカル産』というぐらいだからマダガスカルやその周辺、暑い地域で採れるのだろう、ということはわかりますが、乾燥する前はどんな姿だったのか、どんな植物で、どのように生息しているか、など、詳しく知っている方はあまりいらっしゃらないのではないでしょうか。 バニラはメキシコから中央アメリカにかけて自生するラン科の植物で、直径1cmほどの細長いつる状の茎を、他の木の幹などに伸ばしながら、ところどころ根を付着させ、まるで寄生植物のようにして生えていますが、この細長い茎は、長いものでは60mを超えることもあるそうです。 焦げ茶色の莢や黒い粒々からは、バニラが華やかな胡蝶蘭やカトレア、シンビジュームなどと同じラン科であるとは想像しにくいのですが、薄い緑色の小さなバニラの花は、確かにランの形をしています。

貴重な天然香料“バニラビーンズ”

バニラの花は、葉腋から出る花茎に、一度に20～30個も付くのですが、開花は早朝から夜までと短く、しかも『ハリナシバチ』という種類の蜂だけが受粉させることができるため、受粉させることも。 実を採ることも、とても難しく、この蜂がいない地域では、たとえバニラを栽培し、開花させることができたとしても、実の収穫は不可能だったため、まさに貴重な天然香料だったのです。 現在では人間の手による人工授粉の技術が発達したため、大量のバニラを安定して手入れることができるようになり、パティスリーだけでなく、一般家庭用の成果材料として、気軽に手に入れることができるようになりました。

『キュアリング』と呼ばれる熟成作業でバニラビーンズへと変身！

受粉した後のバニラですが、出来た実は、半年以上かけて成熟し長さ30cmぐらいの紫がかった茶色細長い莢の姿になり、『バニラビーンズ』であることがわかります。 普段使っているバニラビーンズには独特の甘い香りがありますが、花や葉、完熟する前の実には、あのバニラ独特の芳香はまだありません。 バニラの甘い香りを引き出すには、実を生ったまま完熟させるか、『キュアリング』と呼ばれる熟成作業を経なければなりません。 キュアリングの一般的な方法は、成熟前の未熟な莢を採取した後、熱湯にさっと漬け、昼間は天日干し、夜は缶などに密閉して毛布で保温、翌日また太陽の下で天日干し、夜は密閉保温、という作業を毎日毎日、およそ2～3週間繰り返してゆっくり発酵・熟成させていきます。 キュアリングの工程が進むにつれて、最初は緑色だったバニラの莢はやがて黄色、茶色と徐々に色を変え、最後には焦げ茶色の柔らかい紐のような、いわゆる『バニラビーンズ』へと変身を遂げ、ついにあの甘い芳香を放つようになっていきます。

昔はどうのように利用されていたの？バニラの歴史

パティスリー、といえばバニラの香り、といわれるぐらい、なじみのあるバニラですが、昔はどのように利用されていたのでしょうか。 バニラの歴史は意外と古く、原産地のメキシコでは先住民たちがココアドリンクやタバコの香り付けに使ったり、香水代わりに使われていました。 また、薬効があると信じられていたため、熱病やヒステリー、婦人病の薬、催春薬として用いられたこともあるそうです。 現在も、アイスクリームやお菓子の香り付けのほか、タバコや葉巻、リキュールの香り付けとして、また香水やオーデコロンなどのフレグランス、ボディソープやにも使われるバニラの甘い香りは、世界中で最も広く愛用されている天然香料といるでしょう。 16世紀にスペインがアステカ帝国を征服し、ヨーロッパに持ち帰ったことにより、世界中に広まったバニラ。 苗を植えてから収穫まで3～4年もかかるバニラ。 生の花や実には甘い香りは全然しないバニラ。 パティシエにとって身近な材料なのに、その実態はあまり知らなかったのではないでしょうか。 普段使っている材料が、どのような手順を経て手元に届くのか、どんな植物だったのか。 たまにはその歴史や生育について考えてみませんか。