食品表示のはなし 前編:あなたのお店のラベルは、本当に正しいですか?

食品表示のはなし 前編:あなたのお店のラベルは、本当に正しいですか?

菓子の世界に関わって20年以上が経つ。食品表示コンサルタントとして製菓・製パンの現場に入り込んできた私がいつも感じるのは、「うちは大丈夫」という言葉の怖さだ。


食品の回収事例で最も多い原因をご存知だろうか。実は、食品表示の誤表記が回収理由の大半を占めている。その中でも特に多いのが、賞味期限(または消費期限)の表示ミスと、アレルギー表示のミスだ。産地偽装のような悪意のある行為とは違い、どちらも「知識不足」と「確認不足」が原因であることが多い。つまり、防げたはずのミスが大半なのだ。

食品表示法とは何か

2015年に施行された食品表示法は、それまでJAS法、食品衛生法、健康増進法に分かれていた表示ルールを一元化した法律だ。消費者庁が所管し、衛生管理のルールも、アレルギー表示のルールも、原料原産地のルールも、すべてこの法律の傘の下にある。


施行から5年間の猶予期間が設けられ、2020年4月からの本格施行が定められていた。しかし現実はどうだったか。多くの事業者が「まだ先の話」と先送りにしているところへ、コロナ禍が直撃した。行政の指導も一時的に緩和され、業界全体にブレーキがかかった。そのブレーキは、いまもまだ完全には解除されていない。

「自分のお店は大丈夫」が最も危ない

現場に入るたびに気づくことがある。食品表示がずさんなお店ほど、「うちはまだいいわ」という言葉が返ってくる。


実際に私がある催事場で目にした光景を紹介しよう。人気商品の裏面を確認すると、「小麦」と記載されていた。しかし正確に言えば、その商品は小麦粉を仕入れて使用しているのであれば、表記は「小麦粉」とするのが正しい。小麦そのものを自社で挽いているなら「小麦」でいい。しかしそうでないならば、それは誤表記だ。些細なことのように見えるかもしれないが、食品表示は「この商品が何からどのように作られているか」を消費者に正確に伝えるための根拠書類であり、こうした積み重ねが大きなトラブルへとつながっていく。


食品表示法違反の罰則は、実は非常に重い。悪質な場合は3億円以下の罰金、3年以下の懲役が科される可能性があり、桁違いに重い水準だ。口に入るものを扱う責任の重さが、この数字に表れている。


ただし現実問題として、いまのところ実際にこの罰則が適用されたケースは少ない。高速道路の制限速度と同じで、ルールはあっても取り締まりが甘ければ守られない。それが業界全体の危機感を薄くしている。


しかし、これからもそれが続くとは限らない。行政の監視は年々厳しくなっており、HACCP(ハサップ)の義務化に代表されるように、食品を扱う事業者への要求水準は確実に上がっている。「これまで何も起きなかった」は、「これからも大丈夫」を意味しない。

アレルギー表示は「感覚」で対応できない

製菓の原材料・卵と小麦粉

特に気をつけていただきたいのが、アレルギー表示だ。


食品アレルギーの原因となるアレルゲン(特定原材料および特定原材料に準ずるもの)は、現在29品目が指定されている。最近では、くるみとカシューナッツが義務表示の特定原材料に格上げされ、マカデミアナッツとピスタチオが特定原材料に準ずるものに新たに追加された。この背景にあるのは、アレルギー発症の実態データの変化だ。


「卵・牛乳・小麦が上位3位」というイメージをお持ちの方は多いと思う。しかし最新の統計では、木の実類(ナッツ)が2位に急浮上している。ピスタチオが特定原材料に追加された背景には、日本での消費量増加にともなうアレルギー発症者数の増加がある。口にする機会が増えれば、アレルギーを発症するリスクも高まる。洋菓子業界でピスタチオを使ったスイーツが増えているいま、これは他人事ではない。


アレルギー症状は、じんましんや嘔吐にとどまらない。重篤なケースでは、アナフィラキシーショックと呼ばれる状態を引き起こす。複数の臓器に同時に全身性のアレルギー症状が現れ、血圧低下や意識障害を伴うこともある。死に至る可能性もある、極めて深刻な症状だ。


誤表記によってアレルギー事故を起こしてしまった場合、製造販売者はお客様への謝罪・お見舞い・入院費・慰謝料の対応に追われることになる。製造現場の確認、商品規格書の取り寄せ、場合によっては全商品の回収。一つの誤表記が、どれほどのリソースと信頼を失うことになるか、想像してほしい。

表示シールは「商品の履歴書」

私はよく、食品の表示シールを「商品の履歴書」と表現する。履歴書に嘘を書いた人間を採用したいとは思わないように、表示が正確でない商品を信頼する消費者はいない。


問屋さんや百貨店、ホテルなど外部への卸を始めようとすると、必ず商品規格書の提出を求められる。この商品規格書とは、使用している原材料すべての情報をまとめた書類だ。仕入れ先のメーカーが発行するもので、使用している原料・アレルゲン情報・原料原産地・製造地などが記載されている。これがなければ、そもそも正確な食品表示を作ることができない。


しかし実態として、仕入れ先から商品規格書を入手・管理できていない事業者も少なくない。多くの現場では、商品の裏面ラベルを見ながら感覚で表示を作っている。


次回の後編では、現場で実際に何が起きているのか、そして「食品表示法と向き合う」ということが店の誇りとどう結びついているかをお伝えしたい。


▶ 後編はこちら:食品表示のはなし 後編:食品事故は突然起きない。現場で見えてきたこと

筆者プロフィール
大津勇介 / 株式会社3MIND 代表。製菓・製パン業界に特化した食品表示コンサルティングを手掛ける。食品表示の適正化支援から、レシピ・原材料情報のデジタル管理(レシピ管理システム「RECIBEL」)まで、現場に伴走する支援を行っている。
HP:https://az.ch3mind.jp/
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