ジャン・ミエ　フランス菓子界のパイオニア

「ジャン・ミエ」といえば、数々の偉業を成し遂げてきた、フランス菓子界においてなくてはならないパティシエです。 今回は、フランス菓子界の先駆者とも言える、ジャン・ミエ氏についてご紹介します。

海外でも名の知れた日本のパティシエもここで修行

ミエ氏はフランスでの活躍はもちろん、日本への影響力も強く、パリにある自身の店、パティスリージャン・ミエから多くの有能な日本人パティシエを輩出してきました。 HIDEMI SUGINOの杉野英実シェフ、パティシエ・シマの島田進シェフ、イル・プルーの弓田亭シェフ、海外ではパティスリーサダハルアオキの青木貞治シェフなど、みんなこのパティスリージャン・ミエで修業しています。 他にも、ここで修業し巣立っていったパティシエたちは、国内外のパティシエコンテストで入賞を果たしたり、パティシエのワールドカップであるクープ・デュ・モンドで優勝したり、ルレ・デセールのメンバーに選ばれたりと、素晴らしい功績を残しています。

フランスで初の製菓学校を開校

さらに、ミエ氏はフランス国立製菓学校を開校したことでもフランス菓子界に大きな影響を与えました。 学校を開校した1984年当時、フランスには基礎的な学習をするための職業訓練校やプライベートな製菓学校しかありませんでした。 そのため、フランス菓子の本場であるにも関わらず、より高度なレベルでの技術力向上のためにはスイスやドイツの製菓学校に行くしかなかったのです。 そのため、学校の開校はフランスのパティシエにとって待ちに待ったものであり、今まで国外に勉強しに行っていたものが、今度は国外からも多くのパティシエがこの製菓学校に勉強しにくるようになりました。 学校開校の影響は日本にまで及び、最高水準の製菓学校の開校を聞きつけた日本の製菓団体は研修ツアーを組み、わざわざこの学校へと勉強しに行くほどでした。 また、ミエ氏はトップパティシエだけが与えられるMOF(フランス最優秀職人章)の称号も持っており、世界最高レベルのパティシエ達しか加盟できないルレ・デセールのメンバーにもなっています。 さらに、世界洋菓子連盟会長、フランス菓子連合会長も歴任。 フランス菓子連合会長は50歳という若さで任命されました。 代々高齢の政府関係者がその地位に就いており、前任の会長も90歳を超える政府関係者であったことを考えても、50歳の若さで、しかも初の製菓業界出身者で任命されたことは、製菓業界がミエ氏にどれだけ信頼と期待を寄せていたかがわかるでしょう。

日本にも大きく影響を与えた新しい菓子の時代

そして、彼はその期待を裏切ることなく、ヌーベル・パティスリー（新しい菓子）の時代を切り開いていきます。 それまでの時代は、甘さがはっきりとしていて食べ応えのある伝統的なフランス菓子が主流。 かつては貴重品だった砂糖も、すでに簡単に入手でき、おいしいものが溢れる飽食の時代を迎えていました。 そこに、時代の変化に合わせた菓子を打ち出していったのがヌーベル・パティスリーなのです。 これまでとはまるで違い、砂糖は少なく重量も抑え、カロリーも低く、口当たりの良い菓子が多く作られました。 特にムース系のものが中心で、他にもババロアやブランマンジェもヌーベル・パティスリーの流れから生まれたものです。 これらの「新しいフランス菓子」は、豊かになり過ぎたフランスの「食」文化に対応し、一気にフランス菓子の主流となりました。 菓子離れが進んでいたフランスにおいてそれは大きな影響をもたらすこととなり、再び人々は菓子を求めてパティスリーを訪れるようになったのです。 ヌーベル・パティスリーの出現は日本までも巻き込み、ムース系の軽い菓子がブームとなりました。 ミエ氏自身が幾度となく日本に訪れ、技術指導をしていたことも、日本でヌーベル・パティスリーが広まったきっかけになったと言われています。 おかげで、今日本のパティスリーでも当たり前のようにムース系の菓子たちが並んでいるのです。 そして、これらのことは国内外問わず、ミエ氏の名を広めるエピソードとなりました。 今ではすでに引退していますが、ミエ氏の残したパティスリージャン・ミエやフランス国立製菓学校では、これからもたくさんのパティシエ達が育っていくことでしょう。 そして、ミエ氏の思いを引き継いだパティシエ達はこの先も素晴らしいお菓子を生み出し、洋菓子業界に貢献していくのではないでしょうか。