パティシエとは?
「パティシエ」はフランス語(仏:pâtissier)で「菓子製造人」を意味しており、菓子やデザートを作る職人のことを指します。女性だと「パティシエール(pâtissière)と表すこともありますが、一般的には男女関係なく「パティシエ」と呼ばれることが多いです。
ちなみに、洋菓子を製造して販売するお店のことは「パティスリー(pâtisserie)」と呼ばれています。
パティシエの主な業務は、洋菓子店や結婚式会場、洋菓子工場、レストラン、カフェなど、洋菓子・デザートを提供するあらゆる場所で洋菓子を作ることです。
詳しい仕事内容は業態やお店によって異なりますが、大きな括りでは「洋菓子の製造」として認識されています。洋菓子作りのプロフェッショナルとして、素材の特徴・性質といった知識をもとに、様々な洋菓子を生み出していく仕事です。

また、同じ「パティシエ(菓子製造人)」でも、作る菓子の種類や仕事内容、役割によって別の呼び方をする場合もあります。
菓子の種類別
・ショコラティエ(chocolatier):チョコレート菓子専門のスペシャリスト
・コンフィズール(confiseur):飴細工やキャラメルなど砂糖を主原料とした砂糖菓子専門のスペシャリスト
・グラシエ(glacier):アイスクリームやソルベなど氷菓専門のスペシャリスト
仕事内容
・トゥリエ(trier):生地全般の製造を担当する
・フルニエ(fournier):オーブンを担当する
・アントルメンティエ(entremétier):菓子の最後に盛り付けたりデコレーションをしたりする仕上げを担当する
役割・役職
・シェフパティシエ(chef pâtissier):菓子製造の最高責任者
・スーシェフ(sous chef):シェフの補佐
パティシエの歴史
次に、パティシエの歴史についてご紹介していきます。

パティシエのはじまり
パティシエのはじまりは、中世フランスと言われています。
フランスの修道院では、「菓子は神と人間を繋ぐもの」という意味合いから日常的に洋菓子作りをする習慣があり、ミサの際には信者に甘いお菓子を配っていました。そのお菓子を作る職人のことを「ウブロイエ(oubloyes)」と呼んでいたそうです。当時は一般市民がお菓子やパンを作ることは禁止されており、お菓子作りはウブロイエの特権とされていました。
その後、ウブロイエは器やパイ生地などに肉や魚を詰めるパスティ(パテ料理)も作るようになり、「パスティシエ」に分かれ、やがて「パティシエ」になったと言われています。当時のパティシエは「甘いお菓子」というよりも「小麦粉を使った料理」を作る仕事でした。
1440年にはパティシエの協同組合が設立され、菓子作りはパティシエのみが許されることになりました。しかし、そういった区別がない頃からの風習で、お菓子と惣菜(トレトゥール)が一緒に販売されている風景が、今でもフランスのパティスリーには残っています。
日本のパティシエブーム
日本で「パティシエ」という言葉が使われるようになったのは、2000年前後のこと。当時の人気テレビ番組「料理の鉄人」での活躍をきっかけに、パティシエブームが到来しました。
代表となるトップのパティシエとしては、『モンサンクレール』の辻口博啓氏、『トシ・ヨロイヅカ』の鎧塚俊彦氏、『ル・パティシエ・タカギ』の高木康政氏など。テレビの影響から、子供が将来なりたい職業ランキングの1位に輝くなど、職業としての認知度が急速に高まりました。
日本での洋菓子の発展
もちろん、洋菓子というものが日本に渡ってきたのは、パティシエブームよりもはるかに前です。明治時代にはすでにパウンドケーキが販売されていましたが、洋菓子専門店として日本で初めて開業したのは『村上開新堂』と言われています。初代の村上光保氏は、フランス人パティシエのサミュエル・ペール氏に教えを受け、宮廷でフランス菓子作りを担っていました。そのお菓子は非常に好評で、そのうち広く一般にも洋菓子を普及させるため、村上開新堂が誕生したのです。
1964年の東京オリンピックの前年には、フランス人パティシエのアンドレ・ルコント氏が『ホテルオークラ東京』のシェフに着任。開催後も日本にとどまり『ルコント』をオープンしました。本格的なフランス菓子に衝撃を受けた日本の若いパティシエ等は次々に渡仏。修行を経て帰国したパティシエたちが自らの店を立ち上げ、日本の洋菓子レベルは急速に向上したという背景があります。前述した3名のシェフは、まさにその代表格として、テレビの追い風もありトップシェフに上り詰めたのです。
パティシエになるにはどうしたらいい?
次に、パティシエの目指し方や必要な資格についてご紹介していきます。
パティシエを目指すには
パティシエとして働くにあたって、基礎的な知識と技術がベースにあったほうが業務に慣れる速度も早いため、日本では製菓専門学校に進学し、洋菓子製造に関する知識と技術を専門的に学ぶことが一般的です。
ただし、必ずしも製菓専門学校を卒業しなければいけないとされているわけではありません。高校や大学、短大にも、製菓を学ぶ学科やコースを設けている学校があります。気になる場所があれば、積極的にオープンキャンパスに参加してみると良いでしょう。
また、職場によっては学歴も知識も経験も、まったく必要とせず実践ベースで教育していく体制が整っているところもあります。つまり、「専門学校などで何を勉強していたか」よりも「仕事の中で常に学び、技術を身につけようとする姿勢」のほうが重要です。
必要な資格
フランスでは高いステータスの職業とされているパティシエは、フランスの国家資格が必要とされ、資格がないとパティシエとして働くことは認められません。 一方日本ではパティシエとして働くために資格は必須とされていませんが、関連する資格としては「製菓衛生師」「菓子製造技能士」「職業訓練指導員(パン・菓子科)」などがあります。
・製菓衛生師:製菓衛生師法で定められた国家資格。菓子製造の技術と知識が問われ、取得するとパティシエとしての技術・知識を国から認められた証明となる。
・菓子製造技能士:国家資格である技能検定の一種で、取得するとパティシエとしての技術・知識を国から認められた証明となる。和菓子・洋菓子それぞれで1級・2級がある。
・職業訓練指導員(パン・菓子科):職業能力開発施設等で、実技や専門学科を指導するための資格。
これらの資格は、安全に菓子作りができることを証明できるものなので、持っていると就職・転職の際に便利です。また、自分でお店を開業する際には「食品衛生責任者」の資格が必要です。取得には講座の受講が必要ですが、製菓衛生師資格を持っていると講座の受講は免除されます。
パティシエを目指すためにしておきたい勉強
パティシエとして働くにあたって、菓子製造の知識・技術のほか、身につけておきたいのがフランス語です。将来フランス留学を考えている方はもちろんですが、留学の予定がない方もフランス語を勉強しておいて損はありません。なぜなら、パティシエの日常業務には絶えずフランス語がつきまとうからです。
例えば材料名・器具の名前・作業工程をはじめ、レシピやケーキの名前もフランス語で記載されていたり、シェフや先輩からの指示もフランス語で示されたりすることが多いです。
また、フランス語以外であれば、基礎的な計算力や思考力は身につけておきたいところなので、算数・数学を学ぶことが必要。洋菓子作りは科学と言われることもあり、小麦粉・砂糖・卵など…様々な材料を正しい配合で組み合わせないと失敗につながります。
レシピに書いてある分量をもとに、製造量に合わせて掛け算するなどは日常的で、四則計算やパーセンテージの出し方などの計算を間違ってしまうと、配合が狂ってしまいます。このように、パティシエには緻密な計算力が必要なのです。
パティシエの就職先は?
では、パティシエにはどのような働き方があるのでしょうか?就職先についてお伝えします。

洋菓子店・パティスリー
多くのパティシエが活躍している場が「パティスリー・洋菓子店」です。個人経営の小さなお店や、昔からの老舗、流行りのスイーツが並ぶ中型店、そして企業が運営するチェーン店など、形態・規模も様々です。
パティスリー・洋菓子店は、仕込みから仕上げといった製菓業務はもちろん、販売や店舗レイアウト、素材の選定まで、お店の運営に関わる業務のほとんどを自店で行っています。基礎的な製造技術が身につくだけでなく、販売促進の考え方や実際の売上・経費の推移など、意欲次第では「店舗運営」についてもどんどん学べる機会があり、将来の独立やスピード感のある成長を目指している人にとっては非常に魅力的な職場といえます。中には販売業務からスタートするお店も。
お客様と直接やりとりをすることで、年齢や性別ごとの好みや需要の多い商品の動向など、消費者が求めるものを肌で感じ、受け入れられるお菓子を作る感覚やセンスが身につきます。これは、お客様と接することができる洋菓子店ならではの魅力です。
ホテル
ホテルのパティシエはペストリーでの勤務となり、その中でレストラン・カフェ・宴会、またギフトスイーツを提供するブティックでのお菓子作りに携わります。そのため提供数が多く、作業の効率化を図るため分業制が確立されており、焼き場・仕上げ場など細かくポジションに分かれるところもあるようです。このような環境では、スピーディかつ効率的に決められた数を提供するスキルが身につきます。大量調理の方法が学べることに加えてアシェットデセール(皿盛り)ができるのも、ホテルで働く大きな魅力です。
実務以外に関して言えば、洋食や和食の料理人、サービススタッフなどパティシエとは異なる職種の人と働くことも特徴的。様々な人と連携して業務をうまく進める、コミュニケーションスキルが身につく環境です。
ブライダル・ゲストハウス
ブライダルは、披露宴の予定が分単位で進んでいきます。スケジュールに沿って数十〜百数十人分の料理を正確に提供することが、パティシエ含めキッチンスタッフ全員の共通目標です。
披露宴の進行を把握する広い視野と、周囲の動きを見ながら自分のやるべきことを察知する臨機応変な行動力、とっさの判断力が備わります。さらにデザートよりもはるかに料理の割合が多いコース料理は、パティシエが料理人の補助に回ることも。料理の食材や調理方法などを直に学ぶことができるので、お菓子に限らず幅広く食に興味がある人にとっては魅力的です。
レストラン
レストランでは、皿盛りのデセールやコースの最後のデザートなど、見た目の華やかなケーキづくりが行えます。料理がメインの飲食店では、パティシエを何人も雇うことはできません。そのためほぼすべての工程を1〜2人程度で行う必要があり、技術、レシピ考案などの商品開発はもちろん、原価計算などの知識も必要になってきます。
設備の充実度はパティスリーなどに比べて低く、限られたスペース、設備、器具の中でパフォーマンスを発揮しなければいけません。また温かい料理をすぐ近くで調理するため、温度管理の難しさもあります。
カフェ
カフェで働くパティシエはデザート作りだけでなく、接客や調理をすることも多いです。ランチの時間帯での簡単な盛り付けや仕込み以外にも、お客様からオーダーをとったり、料理をテーブルまで運んだり。
デザートの準備だけを担当するというのは少なく、+αで仕事を兼ねることがほとんどです。慣れるまでは戸惑うかもしれませんが、お客様と直接コミュニケーションをとったり料理のスキルを磨いたりできる環境です。
工房・工場
工場など大規模な製造専門の施設の中で、大量の商品の製造を行います。自社商品の製造はもちろん、「OEM」として企業からの依頼を受けて商品の製造を請け負うこともあります。
大量の商品を大人数で製造することになるため、仕事量の予想がつきやすく、仕事内容や勤務時間を調整しやすいという特徴があります。また、パティスリーと比べると勤務時間は短く、休日は多い傾向があります。
ただ、生菓子や焼き菓子などの工程ごとに担当が分かれているため、同じセクションをずっと担当し続けることもあり、他の業態に比べて様々な技術を短期間で身につけることができません。1つのことをコツコツやり続けることが得意な方に向いている環境です。
パティシエのやりがいと厳しさ
次に、パティシエのやりがいと厳しさについてお伝えしていきます。
パティシエの仕事のやりがい
パティシエの仕事の最大の魅力は、自分の作ったお菓子で人に喜んでもらえたり、幸せにできたりすることです。
食べてくれる人の笑顔を見れば、作り手である自分も笑顔になります。仕事の疲れや苦労も吹き飛んで、頑張っていてよかったと思える。そして、また頑張ろうと思える。パティシエにとって、お菓子のみならず、人々の笑顔を作り出せることは自身の喜びでもあり、大きなやりがいにつながります。
また、パティシエは、より美味しいお菓子を自分で考案していくことができます。はじめはすでにあるレシピのアレンジからのスタートでも、経験を積み、感性を磨いていくことで、次第に自分の作りたいお菓子が見えてくるでしょう。
形のない素材から、センスやアイディアを生かしたお菓子を作り出すことのできるパティシエは、お菓子を通して自分の世界を表現できる、とてもクリエイティブな仕事なのです。

パティシエの仕事の厳しさ
小さいお店でも、1日に100個近くのケーキを作ります。数個をきれいに作るのではなく、作るすべてを同じクオリティで仕上げる必要があります。そのため、苦労を感じることもあるでしょう。
また、ケーキ作りは手順や知識だけでなく、材料の混ぜ方や泡立て具合、生地のしまり具合など、体で覚えないといけないことも多くあります。お菓子作りは「何分混ぜれば必ずこの状態になる」という作業ではなく、温度や材料の鮮度にも影響されますので、実際に体験して練習を積み重ねていかないと習得できません。
また、パティシエの勤務時間は朝早くから夜遅くまでと長く、休みも少ない職場が多いです。見習いで月給十数万円ほど、30代でも20万円〜25万円ほどの水準で、サラリーマンの初任給並みと言われることも。
特に個人経営のお店は売り上げを一定水準以上に保つのは非常に難しく、店舗によってはボーナスだけでなく、昇給や社会保険もままならない場合もあります。ケーキは時間をかけて手作りする工程が多いうえ、原価率が高いため利益が出にくいことが主な要因です。特に修行時代は「将来のために働きながら学んでいる」と割り切って、将来のために精一杯成長していこうと思うことが大切です。