みなさんは今、パティシエとしてどんな環境で働いていますか?
また、どんな仕事を担当していますか?
個人パティスリー、工場、ホテル、ブライダル、レストラン―…
仕上げ場だったり、焼き場だったり、一概に『パティシエ』といっても、いろんな業務形態や担当ポジションがありますよね。
そんなみなさんが、仕事のやりがいや喜びを感じる瞬間ってどんなときでしょうか?
筆者が過去に働いていたのは、百貨店やショッピングモールに店舗をおく、とあるケーキブランド。
作業行程が工場・店頭で完全に分かれている環境で、約4年間、店頭で仕上げを中心とした仕事を担当していました。
もしかしたら、4年も仕上げばっかりやってたの!?と思われるかもしれませんが、筆者にとって『仕上げ』という作業は飽きることのない、楽しくてたまらない行程だったのです。
というわけで、今回は筆者が実体験をもとに考える、『仕上げの楽しさ』をお伝えしたいと思います!
「このケーキ、気になる!」をつくる
初めて訪れたお店でケーキを買うとき、最初に何を気にするでしょうか。
「この店の○○がおいしいって聞いて!」
「今流行りだから!」
という目的があったとしても、ふと、ショーケースに並ぶ別のケーキに目を奪われることってありませんか?
プライスカードを見ながら、これを買おう!と思う決め手は様々だと思いますが、『気になる』きっかけって、まずは『見た目』じゃないでしょうか?
どれだけ中身にこだわって開発した自信作でも、口に入れて美味しさを感じてもらえなければ意味がないですよね。
シンプルなものから華やかなものまで、商品として決まったデザインを、いかにお客様の目に止められるようなカタチに作りあげられるか。 職人としての腕の見せ所ですね!
スポンジを焼いて、ソースを炊いて、ムースを仕込んで…。
たくさんの工程を踏んで作り上げたケーキにとっての、最後の重要な作業が『仕上げ』なのです!
ナパージュが命!ケーキを輝かせる魔法
「乾燥を防ぐためだから、仕上げのナパージュは適当でいいよ」
と、ヘルプで入った店舗の先輩に言われたことがあります。
それを聞いた私は、「えっ!?いつも適当に塗ってるの!?」と驚いてしまいました。もちろんケーキのフルーツの瑞々しさを損なわないため、という目的もあるのですが、ナパージュの役割ってそれだけじゃないと思うのです。
たとえば、大粒の苺が乗ったタルト。
粉糖など、仕上げのカタチはいろいろありますが、その苺がツヤツヤに輝いていたら、それだけで目が惹かれませんか?ショーケースのライトに照らされてキラキラと光る巨峰やマスカットも、まるで宝石のようで魅力的に見えます。
ナパージュはケーキを輝かせる魔法…
私はそう思っています。
なので、ケーキにのせるフルーツや栗には、特に気を使って塗るようにしていました。
うまくナパージュを塗れたときは、自分の仕上げたケーキを見てうっとり…。
でも、ぼんやりとケーキを見つめていたら怒られてしまうので、数秒で切り上げて次の作業に移ります(笑)。
見本通りに仕上げることの難しさとその目的
私が4年間お世話になった当時のチーフパティシエは、仕上げにとても厳しい方でした。
各店舗には会社が用意した仕上げの見本写真がルセットと一緒に置いてあり、 チーフがいつも言っていたのは、とにかく「その写真通りに仕上げろ」の一点張り。
フルーツの角度や粉糖の量、絞りの大きさ、形など…小物ケーキからホールケーキまで、毎日細かくチェックされていました。
時には頑張って仕上げたつもりのケーキの飾りを全部削ぎ取られ、目の前でやり直される…なんてことも。 そんなことがある度に、自分の仕事を否定されたような気持ちになり、毎回ものすごく落ち込みました。
しかし、新鮮な食物を扱うこの仕事は、すべての行程が『本番』。
特に私が働いていたところは、営業時間外に絞りなどの練習をすることもできない環境でした。
自分にとって初めての作業でも、お客様にとってはたったひとつのケーキです。同じ値段の同じケーキを、人によって違うクオリティで提供することはお客様に失礼になることでしょう。
だから私たちプロは、いつも安定したクオリティの商品を生産するという『緊張感』をもって仕事に取り組む必要がある。ということを、チーフは教えたかったのだと思います。
その中でいかに精度をあげていくか。いつも以上に美しくケーキを仕上げられたとき、その喜びはとても充実したものでした。
幸せの瞬間!誰かのための、『世界でたった一台のケーキ』
華やかなパティシエの仕事に魅かれてこの業界に飛び込んだ方にとって、ウエディングや特注のケーキを作ることは憧れ、あるいは目標の一つではないでしょうか。
私は残念ながら『ウエディングケーキ』というカタチでの担当はしたことがないのですが、特注のデコレーションケーキは何度か経験してきました。 お客様のためのたったひとつの特別なケーキを、自分で考えて自分で仕上げる…なんと光栄な仕事なのでしょうか。
使うフルーツや色のバランス、絞りの形、チョコレートオーナメントの種類。
考えることはたくさんありますが、 普段の仕上げ作業より少し時間をかけて、自社の規定をもとに、お客様の要望にそってより魅力的に飾る。
ケーキの完成形を思い描きながら、爛々と仕事ができる、とても楽しい時間です。
よし!というカタチで仕上げられた時には、これまたケーキを前にうっとり…。
そして何より嬉しいものはケーキを受け取ったお客様の笑顔と「ありがとう」という言葉。
パティシエとして、幸せをお届けするお手伝いができたことを実感できる、自分にとっても、とても幸せな瞬間です。
時折、「近くに用があったから」という理由で、わざわざケーキのお礼を伝えに来てくださるお客様もいました。
「このあいだのケーキがとても好評だった」
「このお店に頼んでよかった、また来ます」
そんなお客様の喜びの声を聞くたびに、「ああ、やっぱりこの仕事をしていてよかった…」と実感し、その温かい言葉は、大変な仕事も「また頑張ろう」と思わせてくれました。
これは『仕上げ』という仕事に限らず、パティスリーで働く全ての人が感じられる幸せのひとつではないでしょうか。
さいごに…
長い時間身を置いて働く職場で、人それぞれ目指しているものは違うかもしれません。 その中で、パティシエとして仕事をしているあなたが喜びや幸せを感じる瞬間は、いつでしょうか。 もしもそれが見えなくなっていたら、もう一度探してみて、思い出してみてください。
その幸せな瞬間を、日々のモチベーションのひとつとして、自分のパティシエの仕事を全力で楽しんでほしいと思います!