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インタビュー

「以前の評判」を「今」どうしていくのか。念願のケーキカフェで独立したオーナーパティシエの葛藤と挑戦


名古屋の観光地で有名な東山動植物園。その最寄り駅である東山公園駅からすぐのビル前に、小さな看板が立っています。

外づけの階段を上がると、ビルの2階に存在する隠れ家のようなお店が「metsa(メッツァ)」。扉を開ければ木の温もりがあふれるケーキ屋さんです。

小さなショーケースに並んだケーキ。丸木にのせられたタルトとキッシュ。誕生日ケーキの注文も取り扱うケーキ屋さんでありながら、サラダとスープ、ドリンクをセットにしたお洒落なカフェメニューも提供されています。

metsaはもともと、「キッシュとタルトの専門店」として、インテリアデザイナーのオーナーが本業の傍らに7年半営んでいたお店でした。地元客はあまりいなく、オシャレな人が隠れ家を求めて集まる場として、長らく愛されていました。その後、オーナーの本業が忙しくなったことをきっかけに、現在は伊藤正祥さんに屋号ごと店を引き継ぎ、代替わり。伊藤さん夫妻が2014年から店に立ち始め、今年で6年目を迎えます。

昔も今も地元の人に愛されているmetsaですが、"2代目"ならではの悩みもあるそうです。現オーナーの伊藤さんに、独立までの道のりと、今の課題、やりがいをお聞きしました。

伊藤正祥(いとう まさひろ)さん

愛知県生まれ。愛知産業大学でインテリアデザインを学んだ後、名古屋を離れ三重県四日市のパティスリーでパティシエ修行をスタート。10年以上パティスリーや名東区極楽にあるレストラン「ことことケーキファクトリー」などで修行をし、2014年に名古屋のカフェ「metsa」を屋号ごと譲り受け、独立。オーナーとして、夫婦で店を営んでいる。

夫婦2人、手作りの温もりに満ちた隠れ家カフェ

──どのようなお客さんがお店に来られるのでしょうか?

すぐそばに東山動植物園があるためか、若い子連れのお客さんが多いですね。あとは、付近に大学を持つ星ヶ丘駅と本山駅の間であることから、学生さんもよく来られます。前オーナーは僕と同じく男性なんですが、当時、店に立っていたのはお手伝いの女性で、お客さんも女性ばかりだったそうで。でもいまは僕が店に立つようになったせいか、男性や年配客が増えています。僕がいるから入りやすくなったんですかね(笑)。新規の人はもちろんですが、僕が引き継ぐ前の店の評判を聞いている人や、以前から長い間来てくださってるお客さんもいます。

──お客さんの層が少し変わったんですね。

そうですね。以前のオーナーの時は、地元のお客さんはあまりいなかったようなんです。「タルト専門店のカフェ」というスタイルで、ネットで評判になって隠れ家的なカフェを求めるお客さんがほとんどでした。僕が引き継いでからは、逆にケーキカフェとして地元のお客さんに認知されるようになりました。わかりづらい看板で目立たない店ですが、地元のお客さんに知られることで、口コミで徐々にご近所で広まっていきました。

──お店の内装はオシャレで落ち着いた雰囲気で、とてもくつろげますね。椅子はふかふかだし、インテリアもすごく可愛らしいです。

内装はインテリアデザイナーだった前のオーナーによるものを、ほとんどそのまま引き継いでいます。でもちょっとだけ細かいところは手を加えていて。例えば、入口の棚は僕が作ったものだったり、壁の絵は僕の奥さんが学生時代の卒業制作で作ったものなんですよ。

▲伊藤さんがデザイン・製作した円形の棚。委託作家による雑貨・小物が販売されている。

▲壁にかけられた奥様の作品。

──伊藤さんご夫婦の手作り感がお店のいたるところに感じられて素敵ですね。ケーキやタルト、キッシュも、具材がごろごろ入っていてすごく美味しそう……。種類も豊富で、近場にあったら私も通いつめそうです。

できるだけ旬のものを使おうと、素材にはこだわっています。小さな個人店だから仕入れの量が少なくて、手に入れたくても業者から買うことができなかったり値段が高くなることがあるので、なかなか使えるものは限られてしまいますが……。配達も量が少ないと引き受けてもらえないのでちょっと不便ながらも、フルーツは自分で手に取ってみて選んだり、出来る範囲内で工夫をしています。

インテリアを学ぶ道から、パティシエの世界に出会う

──伊藤さんは名古屋で製菓の勉強や活動をされていたんですか?

実は、学生時代は製菓と全く関係なく、愛知産業大学でインテリアデザインを勉強していたんです。卒業する前に内定を取っていた会社が、入る前につぶれてしまって。

──インテリアデザイン!パティシエと全然違う業界ですね…。なぜケーキ作りの道へ?

そのころ、テレビの特集などで世の中にパティシエの存在が浸透し始めていた時期だったんですね。自分もその影響を受けて、面白そうだとパティシエに興味を持ったんです。そこでケーキ作りが学べそうな就職先を探して面接を繰り返していたら、ある洋菓子店の方に気に入ってもらえたんです。大学を卒業した後は、その洋菓子店でアルバイトとして雇ってもらえました。

その洋菓子店は女性のスタッフが多く働いていました。この仕事は力仕事も多いので、ちょうど男性スタッフを欲しがっていたんですね。最初は計量やシュークリームのクリーム詰めなどの補助からスタートして、半年後には社員にしてもらえて。割と早い段階で焼き場の補助に入らせてもらえました。さらにその半年後、焼き場の2番手になり、その焼き色が上司の求めるものに合っていたようで、すごく気に入ってもらえて。

修行中、その上司に「君はこの仕事にむいてる、続けたほうがいいよ」と背中を押されたことが、いまも僕がケーキ作りをしている理由のひとつですね。

──自信につながる一言ですね。

勤めている途中で経営が東京に進出・展開していくことになり、勤めていた本店は今はもうなくなっちゃったんですけれど、とても安心して働ける職場でした。その後、名古屋に戻って「ことことや」という、オムライスとハンバーグで有名な洋食屋さんに入って。そこが本格的なケーキ工房を立ち上げるとのことで、チーフパティシエとしてオリジナルのケーキ作りに携われるようになりました。そして次第に、「ケーキ屋というより、自分はカフェをやりたい」と思うようになってきたんです。大学時代のインテリアの勉強の影響もありインテリア、飲み物、ケーキを総合的に表現したいという欲求が湧き出てきました。ケーキだけじゃなくて椅子やテーブルにもこだわれるのは、カフェという形が最適だなと。同時に、コーヒーやパンの勉強も始めたり、独立に向けて準備を進めていきました。

念願の独立。しかし"2代目"ならではの課題も……

──このお店を前オーナーからどういった経緯で受け継がれたのですか?

結婚する前に、今の奥さんが前オーナーの「metsa」で働いていたんです。そして前オーナーが本職のデザイナー業で忙しくなり、店を継ぐ人を探しているというのを彼女から聞いたのがキッカケです。ちょうど僕はケーキの修行も10年以上になっていたし、いつか自分の店をやるぞという思いがあったので、名乗りをあげました。

──インテリアの世界からパティシエ業界に飛び込み、自分で店を持つという目標まで叶えられたのは本当に素敵ですね!

機材もインテリアも丸ごと引き継げたのは、本当に運が良かったと思います。でも、引き継いだことによる課題にもよく直面しますね……。

──というと?

前のオーナーは7年半この店を営業されており、特に地元の方だと、長年通って常連になっているお客さんがたくさんいます。キッシュだけは前オーナーから引き継いだレシピで、変えずに作っているんですが、レシピって働いているうちに作り手によって変わっちゃうものなんですよね。変えないように、と思っていると逆に変わっちゃったり……。でもお客さんにとっては以前のものを求めてくる人もいるから、「味が違う」という感想が、どうしても耳に入ってきてしまいます。「変わったことで良い」と思ってくれる人もいますが、「前のほうが良かった」という人もいます。比べられるのはしょうがないんですけど、なかなか気持ち的には大変です。

それに、このお店は前のオーナーの時からの「タルトとキッシュが美味しいお店」っていう評判がネットで広まっているんですよ。だからネットで調べて来てくださる方も多くて、例えば女性に連れられてこの店に訪れたカップルがいて、男性のほうがショートケーキが美味しそう、と言っても女性は事前に調べているから、「この店ではタルトとキッシュを食べたほうがいいよ!」と言う。それで結局、男性もタルトかキッシュを選ぶんですね。新しいお客さんが「ショートケーキ、チーズケーキが美味しい」と言ってくださる一方で、「metsaといえばタルトとキッシュでしょ」みたいな、2つの需要に挟まれているような状況です。

──確かに、インターネットで調べると、「metsaといえば、キッシュとタルトが美味しいお店」という口コミが浸透していますね。私も事前情報に頼って、キッシュとタルトを頼もうと思っていました……。

いま僕が悩んでいるのは、"自分が作るべきケーキ"と"お客さんが求めているケーキ"をどのように近づけていくべきだろうか?という課題です。本当に自分が作りたいケーキを作れるお店、っていうのは世の中にちゃんとあるんです。でもそういうお店ばかりじゃなくて、お客さんが求めるものを出さざるを得ない場合も多い。最終的に、お客さんが求めてくれなければ意味はないんですから。

だけど面白いものや自分らしい世界観のあるケーキを作りたいし、タルトとキッシュ以外を手に取ってほしかったりします。でも、いつもと違う変わったケーキを作っても、うまくいかないことも多くて。

──そうなんですか?インスタグラムで見かけたのですが、夏には珍しいスイカのタルトを販売されており、挑戦するお店だなあ!と思っていましたが……。

スイカのタルトは、常連さんが好きなんですよ。その方くらいしか買われないので、続けるのは大変なんですけど。(笑)それに、名古屋の人って、あんまり冒険しないんです。同じ飲食やってる仲間も「名古屋のお客さんって、保守的だけど、噂には弱いよね」って。面白いものを出そうにも、味の想像がつかないものは避けられちゃうので、"安定志向の地元の人に受け入れられつつ、自分が挑戦したい世界観があるケーキ"。そのバランスを探りながらやってます。

──自分のお店なのに以前のイメージから抜け出せないことや、その地域住民の特性……すごく葛藤されていると思います……。

いま一番の課題なので、まだ解決していません。でも、ちょっとずつちょっとずつ、イメージを払拭するために、方向性を変えていこうと思っているんですよ。子連れのお客さんが多いので、お子様向けにランチでマフィンセットを出したり、いわゆる常温の焼き菓子をメインにシフトしていこうかなと。焼き菓子は食べやすいし、名古屋の気候は暑いので生洋菓子は傷みやすいんですが、焼き菓子なら大丈夫、というのもありますね。お客さんが求めるものを出しながらも、自分らしいmetsaを作っていきたいです。

過去も今も、必要される味を大切に

──新旧問わずお客さんに寄り添い、地元の個人店ならではのリアルな課題に葛藤しながらも、新たな変化に挑戦をしていく伊藤さん。最後に、その仕事を続けられる原動力を教えてください。

必要とされている、という感覚ですね。自分の親くらいの年齢の方が、去年ぐらいから通ってきてくださっているんですよ。その方いわく、「初めてこの店に来たときに食べたケーキが、すごく美味しかった。その記憶が忘れられない」んだそうです。いまの僕の店が、その方に必要とされているなあという気がしました。作り手が変わっても、味が変わっても、美味しいと来てくれる人がいる。小さいお店だと正直儲からなくてギリギリでやっているけれど、それでも、求めてくれる人のために失くしちゃだめだなって。だから僕は、今日も作り続けています。

店舗プロフィール

metsa (メッツァ)
住所:名古屋市千種区東山通り5-19カメダビル中2階
営業時間:11:30~18:00 (Last order 17:00)
定休日:毎週火曜日、水曜日は不定休(*祝日の場合営業)
公式サイト:http://www.metsanote.com/

この記事の筆者

荻野詩絵(おぎのしえ)

1995年生まれ。愛知県在住のフリーライター兼イラストレーター。 ヒトモノコトの魅力を伝えるため、好奇心旺盛に様々なことに取り組んでいます。 (@c_gotta2

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