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インタビュー

「やらなくてもいいことをやらない洋菓子店にする」──50歳で独立したパティシエが歩み出した第二の人生


2018年6月、兵庫県の加古川市に密かにオープンしたパティスリー『viva la vida(ヴィヴァ ラ ヴィーダ)』。オーナーシェフ・末廣有康さんが目指したのは、自由気ままなお店です。ケーキのラインナップは超気まぐれ。末廣さんの気分次第で、ショーケースは毎日変化します。

彼が自由にする理由は、30年にも及ぶ修行時代で重ねてきた経験から来ているそう。振り返っていただくと、部下や若手のことで悩んだり、上司と意見が合わずに自分を表現できなかったり。店を持つなら、やりたいことだけをやりたい。そんな想いで「第二の人生」を歩み出した末廣さんのお店に、今回お邪魔してきました。

周辺はマンションや一軒家が立ち並ぶ、いわゆる住宅街。聞けば若い夫婦世帯も多いファミリーの町なのにも関わらず、ショートケーキやシュークリームが置かれることはほとんどありません。

商圏をまったく意識しないパティスリー。オーナーシェフの末廣さんに、お店のことをお聞きしました。

末廣有康(すえひろくにやす)さん

工業高校を卒業後、調理師学校へ進学。フレンチを学んだものの、卒業後は新神戸オリエンタルホテル(現:ANAクラウンプラザホテル神戸)のペストリー部門に配属されたことをきっかけにパティシエとしてのキャリアをスタート。7年間勤めるも、阪神大震災をきっかけに退職。約3年のブランクを経て兵庫県内の洋菓子店で計20年働き、2018年に自身の店『viva la vida』を加古川市にて開業。

新卒でホテルパティシエに。一度は安定職を求めたが…

──末廣さんは50歳になってから独立したと聞きました。タイミングとしては遅いですよね。独立して、この1年間どうでしたか?

しんどい(大笑)。朝4時から全部一人で作って…って、めっちゃしんどい。昔から「年とったらのんびり小さい店でも開こうかな」って軽く考えていたけど、60歳になってからなんて絶対無理でしたね。もっと早く独立していれば良かったなぁ。でも、逆に若すぎても無理があったかもしれません。頭の中だけでレシピができるようになったのも、30年間ケーキで修行を積んできた中で、引き出しが増えたからだと思います。ちょうどいい頃合いだったのかもしれないですね。

──キャリアのスタートは、ホテルパティシエだったんですよね。

そう、当初はフレンチの料理人を目指してたんですけどね。新卒で入った神戸のホテルで、人が足りてなくてペストリー配属になりました。30年前の当時、働き方改革なんて言葉も一切なくて、ブティックに並べる小物ケーキ、オーダーケーキ、デザートブッフェ、アシェットデセール…全部手作りでやっていました。景気の良い時代で、ホテルで派手にパーティーをする企業も多かった時期です。頭の中では「いつ調理に移れるんやろう」と思いながら、忙しい日々を過ごしました。その内コンテストにも出始めて、5回くらい賞をいただきました。それくらいからですね、お菓子に興味を持つようになったのは。結局7年くらい、ホテルでケーキを作っていました。

──その7年目に、神戸の震災があったんですね。

はい、住んでいた家も職場もめちゃくちゃになって。仕方なく実家の寿司屋に戻って、しばらく親父の手伝いをしていました。その間も「これからどうしよう」なんてことを考えていて。フランス料理への気持ちもなくなっていたし、パティシエは稼げない職業なんだってことも気づきはじめていて、飲食業は一度断念しました。それで、未練を断ち切ろうとフランスに行ったんです。

──未練を断ち切るために?普通は「勉強するために」ってフランスに行きますよね。

そうなんです。アホですよね(笑)。きっぱりとパティシエを辞めるために、最後に本場を知って終わらせるつもりでした。フランスの学校でしばらくケーキの勉強をして。それで一旦は気持ちがスッキリして、日本に帰ってきてからは安定した仕事がしたいなと思い、しばらく配管や水道工事の仕事をしていたんです。でもほんの数ヶ月で「これ、なんか違うわ」って気づいてしまって。

──未練は断ち切れてなかったんですね(笑)。パティシエの仕事は乗り気じゃなかったようですが、気がつけばすっかりお菓子の仕事が身体に染み付いていたってことですか。

そういうことになりますね。で、知り合いのパティシエに相談したら、兵庫県内のケーキ屋を紹介してくれて、そこで再びパティシエとして働けることになりました。結局、自分が求めているのは「安定」じゃなかったんですよね。それからの20年間、2軒の洋菓子店で10年ずつケーキを作ってきて、今に至ります。

──独立する時はどんな店にしようと思っていましたか?

そうですね…。この仕事を振り返ると、ずっと人間関係で悩んできたと思います。シェフのポジションをもらったはいいけど、オーナーと意見が対立したり、後輩や若い子からの「あの子が嫌」「もう辞めます」って言葉を何回も聞いてきました。精神的にもすごく辛くて、自分自身もよく体調を崩したり、心身ともにボロボロで。だから誰かのことで悩むのはもういいや、自分一人で完結する店にしよう、と決めたんです。気持ちだけでもラクしたかった。

そういう経緯もあったので、店をやる時には嫁さんと話しながら自分がやりたくないことを一つずつ取り除いていって、最終的に残ったのが今のスタイル。やりたくないことを、やらなくてもいい店にしようって。

▲普段は奥様も店頭に立ち、夫婦仲良くお店を営んでいる。

▲ところどころにミニカーや輸入雑貨が飾られる店内。青い看板は特注で作ったそう。

売上、客層、地域性は考えない
毎日思いつきで作る気まぐれなケーキ

──確かに、末廣さんのSNSを見ていると、出すケーキを毎日変えていてすごく気まぐれだなぁと(笑)。住宅街の中にあるようなお菓子屋さんの定番商品はあまり出していないようですが、どんな風にラインナップを考えているんでしょうか?

ショートケーキもシュークリームも、絶対に置かないわけじゃないですよ。たまに作りたくなる時もあるので。毎日何を作るかは、完全に思いつきですね(笑)。桃が入ってきたから何かに使おうかな、とか。頭の中で素材と素材をかけあわせて、新しく作ったケーキなら一度食べてから問題なければショーケースに入れています。あとは気分が乗ったらクロワッサンも焼いて。「今日はこんなケーキを並べてます」ってSNSでお知らせして開店。1日の過ごし方はこんな感じです。好きなように作りたいから、定番もオススメも決めないようにしています。

▲選びやすい平面のショーケース。写真右からガトーショコラ、焼きチーズケーキ、パインのタルト、コーヒーとミルクのムース、ホワイトチョコとラズベリーのムース、バナナとショコラのタルト、バジルとトマトのケーキ、桃のケーキ、ピスタチオとアメリカンチェリーのケーキ、さつまいものモンブラン、チョコタルト、ココナッツのブランマンジェ、マンゴープリン、キャラメルのプリン(取材当日)

▲ピスタチオのケーキの商品名は「グリーンモンスター」。名前も思いつきで決めることが多いそう。

──本当に気まぐれに作るんですね。とは言え、これは自信作!というケーキのもあるのでは?

強いて言うならオペラかな?最初に勤めたホテル時代から、色々研究しました。オペラは好きなので。でもごめんね、今日は出してない(笑)。

▲食べられるかは末廣さんの気分次第?のオペラ(画像提供:viva la vida)

──自信作なのに出さないんですね(笑)。外観はターコイズブルーが印象的で可愛いなとは思ったのですが、あまりお菓子屋さんぽくないと思いました。外から中が見えませんし…。

本当は入ってすぐにショーケースがあって、外からでもケーキ屋って分かりやすくするべきなんだと思うけど、この店は入り口から入って奥の見えないところにショーケースを置いています。確かに入るまで何屋か分からないでしょうね。チラシも配ったことないですし。先日、近くに住んでいる人が来て「1年も経つの?全然気づかなかった」と言っていました。来てくれるのはこの辺りのお客さんじゃなくて「SNSを見ました」って方ばかりです。

──あえてお客さんに気づかれないようにしてるんですか?

そう、隠れてる(笑)。お客さんを意識しすぎると、自分の作りたいものが作れなくなってしまう気がするんです。この店は本当に自分が作りたいもの、自分がこうしたい、と思ったことを表現する店にしたい。万人にウケなくても、共感されなくてもいい。人気店になろうとか、僕は考えてないんです。

▲「共感は求めていない」を象徴するかのように、レジ横に鎮座するミニサイズのチョコレート細工。なぜ魚…?

──そうなると気になってくるのが、1日の販売個数や売上です。末廣さんの中で、どれくらい…とか経営面はどう考えてるんですか?

売上、利益、原価なんかも細かく考えないようにしています。気にすると自分のやりたいことができなくなると思うから。最終的に赤字にならなければ、自分と嫁さんとの2人の生活が最低限守れればOKです。販売数は、1日の開店時にショーケースを埋めるくらいが目安。10種類前後で綺麗に埋めて、午後になったら減ってる分を追加する程度です。土日は売り切れることもありますね。

やりたいことだけをやれば
ケーキも思考もシンプルになった

──毎日ショーケースの中身が変わるということでしたが、仕込みはどのように進めているんでしょうか?

ストックスペースもあまり無いので、何種類もの仕込みを少量ずつ進めてストックしています。少量ずつなので、飽き性の僕にはちょうど良い頃合いに無くなりますね。無くなったらまた次違うものを仕込んでいます。仕上げは、チョコレート系ならチョコレート系を一気に仕上げて、フルーツ系ならフルーツもの、という具合に無駄な動きがないように、できる限り同じ流れでリズムよく進めるようにしています。ホテルのレストランでデセールを組み立てていた経験、洋菓子コンテストで計画的に仕上げる経験が役に立っているように思います。

──ひとりですべて、このクオリティで作るには経験も工夫も必要なんですね…。ケーキのアイデアはいつ出しているんですか?

プライベートで遊んでる時とか、家でボーとしてる時とかに浮かんできます。仕事から離れて頭をスッキリさせると浮かんでくることが多いです。クオリティを維持するのは確かに大変で…朝から必死です(笑)。

──素材のこだわりってありますか?

素材にこだわりはないです。本当に美味しくて新鮮なフルーツを仕入れたとして…その場合、そのままで食べた方がいいと自分は思っていて。ケーキにする意味があまり感じられないんです。普通…といったら変だけど、なんてことない素材を組み合わせや工夫で美味しくするとか、そう感じてもらうようにする。それをどう考えるか、の方が大事じゃないかと。

──では、末廣さんがケーキを作る時にこだわっていることって?

ケーキがどうしたら綺麗に見えるか。例えば、ナパージュはフルーツにはベタベタと塗らずにフルーツの間にだけ塗ったり。フルーツ自体の瑞々しさがあって、ナパージュしなくても果汁の艶で美味しそうに見える。少なくとも自分はそう思うんですよ。あとはきちっと美しくカットするのは基本で、フィルムはケーキの高さに合うように、サイズの違うものを3種類くらい準備しています。巻く前に折り目をつけてから巻いたり…とにかく綺麗に見せたい。

──確かに、ショーケースをずっと眺めていたいくらい綺麗ですもんね…。

ただ、あくまでシンプルでいたいです。食べられないものを飾るのはあまり好きじゃなくて。流行ってるからとか、彩りのためにとか、この飾りの方が売れるから…よりも「こう飾った方がかっこいいんちゃうかな」と、自分の感覚を大事にしています。完全に自己満足です。

──自分の世界観で、これからどんなファンがついてくれるか楽しみですね。

そうですね。スペシャリテはないし、オススメもありません。自分がいいと思うお菓子を毎日作って、毎日売ってみる。お客さんが店に来て、ショーケースをのぞいて、ピンとくるものを選んでもらえればいいと思います。口に合わなければもう来ないだろうし、美味しいと思ったらまた来てくれる。そう考えられるようになりました。身体はしんどいけどね(笑)。

やりたいことができないと、独立した意味がまったくないと思います。自分がやりたくないことをやってしまう…それは自分の意志じゃないから、またしんどくなる。お客さんがどんなケーキを食べたいんやろう?とか、売れ残ったなぁ…どうすれば売上が上がるんやろう、みたいな余計なことで頭を悩ますのも、もうやめました。ただシンプルにケーキを作るだけです。

店舗プロフィール

viva la vida(ヴィヴァ ラ ヴィーダ)
住所:兵庫県加古川市野口町坂井14-1アメニティ中田III 106
営業時間:10:00~18:00(売り切れ次第終了)
定休日:毎週火曜日
公式Instagram:https://www.instagram.com/

この記事の筆者

あかざしょうこ

1984年生まれ。PATISSIENTの編集ライター。「人生の教科書は人」をモットーに、聞いたり書いたりしています。
1年前から行きたかったお店です。何を食べるか本当に悩みました…。全制覇したいくらい、綺麗なショーケースです。末廣さんは「パティシエが来たらすぐに分かる。話しかけてほしいなぁ」と言っていたので、お店に行ったらぜひ声をかけてみてください!

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