開業支援制度を活用しよう!街と共に生きる、パティスリー&ベーカリー経営の在り方

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自分のお店を持ち開業する。それはパティシエやパン職人にとって、一つの大きな目標ですよね。 自分の店を持つために、ホテルやパティスリー、ベーカリーで修行に励んでいるという人も多いのではないでしょうか。

しかし、開業するためには内装・施工費などに加え、業務用オーブンや冷蔵庫、器具の設備を整えるために膨大な初期費用がかかります。 数百万〜数千万円必要となるパティスリーやベーカリーの開業資金を全額自己負担で用意するのはなかなか難しいもの。申請さえ通れば金融機関から融資を受けられるといえども、資金集めにハードルを感じている人もいらっしゃるでしょう。

そんな方に、ぜひ知っておいてほしいのが「開業支援制度」です。
開業支援制度とは、設備準備にかかる費用やお店の経営に必要な「運転資金」の一部を、「補助金」として都道府県や市町村が負担してくれる制度のこと。 融資とは違い、返済の必要がない補助金を受給できる開業支援制度は、実は全国の街や市区町村で独自に整えられているんです。

今回は、兵庫県川西市の街中で新しく開業するお店のサポートしながら、自身もパティスリー&ベーカリーを営む柳 歩さんに、開業支援制度の活用法や情報収拾の方法、実体験などをお聞きしてきました。

柳 歩(やなぎ あゆむ)さん

株式会社シュゼットで約10年勤めた後、2008年5月に兵庫県川西市で「Cake and Bread Poo」をオープン。現在は川西市内の商店街の会長や川西市商工会理事(商業部会幹事)を担っている。

街でお店をしたい人は、補助金の制度を「絶対に知っておいた方が良い」!

—開業支援制度は、都道府県や市町村ごとに整えられているものがあるそうですね。「Cake and Bread Poo」さんは、実際どんな開業支援制度を使われたのですか?

実は、私自身は使ったことがないんですよ。ですが、今は兵庫県川西市の商工会(商工会議所)理事や商店街の役員として、新しく開業するお店に開業支援制度のことをおしえたり、開業をサポートしたりといったことをしています。 カフェや保育園など業種はさまざまですが…「開業する」にあたってのことは、共通することも多いので、幅広くお手伝いしています。

—そうだったのですね。ご自身が独立されるときは、開業支援制度の存在は知っていたのですか?

なんとな〜くは知っていたのですが、正直なところ「書類がめんどくさい」という一心で、あまり詳しく知ろうとか、使ってみようと思わなかったんですよね。 なので当時は詳しく知ろうともしなかったんですが、商工会に加入して経営のこと、支援制度や補助金のことを勉強して初めて、想像以上の支援金が開業の際におりることを知ったんです。

—例えばどんな制度があるんでしょうか?

例えば、川西市でいう「商店街空き店舗再生支援事業」…商店街の空いている店舗を埋めるために設けられた開業支援制度だと、35万円から200万円が最大3年間補助してもらえるんですよ。(※)

※参考:兵庫県川西市HP(http://www.city.kawanishi.hyogo.jp/

—そんなに補助金が出るんですか!?

確かに書類作成は大変な部分もありますけど、「ちゃんと勉強しておけばよかった」と強く思いました。 そういった自分の後悔があったということもあって、今私が新規開業するお店のお手伝いを引き受ける際は、あまり知られていない制度のことも伝えるようにしています。補助金制度を使う・使わないは自由ですが、知っているのと知らないのは全然違うので。

—申請が通れば日本政策金融公庫や銀行から融資を受けられるといえども、返済に何年、何十年も必要となるわけですし、返さなくていい補助金がもらえると思うと、最初に頑張っておいた方がいいということですね。

端的にいえば補助金制度を使って「お金をもらう」という行為に抵抗を感じる人もやっぱりいるんですよ。だけど、赤字になると、経営するなかで発生する法人税などをきちんと納められなくなります。

私はお店を繁栄させて、税金もちゃんと納めることが自分がお店をしている街への貢献だと思っています。
なので、資金繰りが厳しくて税金が払えなくなるくらいなら使える補助金制度は活用して、よりはやくお店を軌道に乗せる。それでちゃんと税金を払えるなら、「お金をもらう」だけはない、筋が通っているものだと考えています。 街にとっても、繁栄しているお店があることは財産にもなりますから。

—なるほど…たしかに。長い目で見ると、「補助金を借りることでより早く街に貢献できる」と考えることもできますね。

考え方次第だと思います。 そもそも私は独立をするために必要なお金のこと自体あまり理解していなかったので、それも後悔の一因ではあるんですが…開店準備や設備投資に予想以上の金額が必要となることを、独立の準備を進めだしてから初めて実感しました。

このお店はもともと母が営んでいた文具店が閉店する際に譲ってもらったので、家賃が掛からないという恵まれた環境だったんですが、それでも融資を返済するために何年も赤字が続きました。

融資には利息がかかりますし、お店が軌道に乗るのが早ければ早いほど、気持ち的にもゆとりを持って経営や、自分がお店でやりたいことが実現しやすくなるんじゃないでしょうか。

大切なのは、自分が活用できる情報にアンテナをはっておくこと

—さきほど柳さんは「商工会(商工会議所)」で支援制度や補助金のことを勉強したとおっしゃっていましたが、商工会は誰でも入れるんですか?

商工会というのは「これから加入する」ことを条件に、開業や経営改善・発展のためのサポートします、という組織です。 規定や会費は市区町村でそれぞれ違いますが、中小企業ならだいたい1ヶ月あたり1,000~2,000円程度。

商工会に入ると、開業支援セミナーを無償で受けられたり、そのセミナーを受けたという証明書を発行してもらって金融機関に持っていくと申請が通りやすくなったり利息がやすくなったりするんですよ。

あまり知られていないのですが、他にも商工会承認のセミナーに無償で参加できたり、セミナーを受けることで事業継承を受けたお店が対象となる「事業継続支援事業」の補助を受けられたりします。 事業継続支援事業の補助は、例えば市が家賃を最大半額出してくれたりとか。

※参考:兵庫県中小企業支援(事業継続支援事業)
https://web.pref.hyogo.lg.jp/

—賃料が仮に月20万円だとしたら、最大月10万円補助してもらえるということですよね。そんなに補助を受けられるとは驚きです。商工会に入れば、そういった案内をしてもらえるんでしょうか。

残念ながら、商工会では勝手に親切丁寧に支援や取り組みを勧めてくれるわけではないんです。なので、商工会の会合などで、「補助金などの制度があれば教えてもらえますか」といったふうに、自分から聞きにいく必要があります。

一番大切なのは、常に情報に対するアンテナを張っておくことです。自分で情報を探して取りに行けば今まで知らなかった支援や取り組みを知ることができるので、すごく自分のためにもなるんですよ。

川西市に限らず、都道府県や各市には独立・開業を目指す人を応援してくれる支援策が、実はたくさんあるんです。 私たち、街のパティスリーやベーカリーなどの中小企業向けの支援ガイドブックもいろいろもらえるので、中小企業庁やネットで請求してみるのもいいと思いますよ。

—開業支援制度や補助金制度の利用を考えたときに、チェックしておくべきポイントはありますか?

そうですね。注意しないといけないのが、「店舗決定前」「開業前」「開業後」どの段階で使える制度なのか、しっかり確認しておくことです。

例えば先ほど説明した、川西市の「商店街空き店舗再生支援事業」。 これは商店街内でお店が退去してからに空いてしまったままになってしまっている店舗を埋めることを目的とした補助金です。ですので、先に自発的に物件を決めて賃貸契約を終えた後から「補助金制度を適用したい」と思っても、申請することはできません。

—なるほど…その制度を使いたい場合、申請はどんな流れになるのでしょうか?

商店街空き店舗再生支援事業の制度では、事業計画書など書類を用意して市にプレゼンテーションし、補助に実現性や事業に対する熱意承認をもらった上で、市と相談しながら店舗の契約を進めていきます。

このように、補助金を申請するための条件を知っていないとせっかくの支援を受けることができなくなります。ですので、補助金を申請するためのきちんとした順序・条件・手続きの方法を知っておくと良いでしょう。

地域密着のお店をやるということ

—開業や経営に関する馴染みのない言葉を聞いていると、やっぱり「大変そうだなあ」と思ってしまいますが、制度をうまく活用すれば、資金に関する悩みは和らぎそうですね。

もちろん、お店を経営することは決して簡単なことではありません。 でも、見えている数字やお金のこと、目の前の売上が…といった事ばかり考えると何も判断できなくなってしまって、自分の首を締めるだけなんですよね。事業計画は必要ですが、地域密着のお店をやるなら、目の前の利益を追求しないことも大切です。

—…というと?

いわば、街のお店は街の一部ですから、自分の店に篭って「売ること」だけを考えていると、街と共存することはできません。 私自身、ボランティアで街のイベントを企画開催したり、手伝ったりすることもありますが、そこから人との繋がりが広がり、保育園や老人ホームからのオーダーに繋がったことも何度もありました。確かにすぐの「売上」にはならないかもしれないんですが、地域の付き合いから後々にお客さんが増えていくというのは、地域密着のお店にとってはとても重要で、ありがたいことなんです。

—今直接的に入ってくるお金が全てではないということですね。行動の目的が売上になってしまうと、なんのためにお店をやっているのかわからなくなってしまいますもんね。

そうですね。
私は正直いってあまり他人と関わるのが得意じゃなかったのでご近所付き合いにためらいを感じていたこともあったんです。 だけど、街でお店をやっていくなかで人に関わっていると、廻り回って自分のところに返ってきます。

今日はお金に関するお話をたくさんさせていただきましたが、補助金を得ることが目的ということではありません。 自分のお店をより良くしていくことが地域の活性化に繋がります。 そして、美味しいお菓子やパンをお客様にお届けすることで、街と一緒に生きていきたいという想いを強く持つことが大切だと思っています。

まとめ

開業に至るまでの資金的ハードルを下げてくれる開業支援制度。

さまざまな支援制度が都道府県や市区町村ごとに整えられているにも関わらず、そういった情報や制度を実際に活用しているという人は決して多くありません。 自ら情報集取を行って今まで知らなかった制度への知識を増やしていくことで、独立・開業の夢にも近づくことができるはずです。

自分のお店を持つということは、経営者としての側面も必要となってくるということ。 技術のみならず、未来の経営者としての知識と情報を集め、熱い気持ちをもってお店作りを志すことで、あなたの夢や目標はもっと現実的なものになっていくはずですよ。

◆Cake and Bread Poo

住所:兵庫県川西市萩原台西1-73萩原台タウンショップ内
営業時間:火~金 8:00~19:30、土祝 9:00~19:00
定休日:毎週日・月曜日
公式HP:https://poosbread.jp

written by

パティシエント編集部

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