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インタビュー

柔軟にキャリアを積み上げる。ひとつのお店に属さない『フリーランス パティシエ』という働き方


パティシエの働き方というと、街のパティスリーやホテル、カフェ、またはウェディング関連企業などに就職するのが一般的ですよね。ただ、中にはお店に属することなく”フリーランス”として活動するパティシエの方もいます。

今回お話を伺ったのは、製菓学校卒業後、就職せずにフリーランスとして活動を開始した向井聡美さん。 製菓コンクールなどでの受賞歴も多数あり、テレビをはじめ各種メディアにも取り上げられるほど注目度の高いパティシエールです。

いったいどうやって仕事を得ているの?
安定して生活できるだけの収入を得られている?
なぜその働き方を選んだの?

今回こうした疑問を直接お聞きしてきました。

向井聡美さん(むかいさとみ)さん

北海道出身。地元の4年制大学を卒業後上京し製菓学校に入学。 卒業後も研究生として1年在籍し、2011年初めて参加したBUKOクリームチーズコンテストでグランプリを受賞。翌年も連覇を飾り、以後も積極的にコンクールに出展し、2013ジャパン・ケーキショー東京 プティ・ガトー部門連合会会長賞(優勝)、クープ・デュ・モンド2017日本予選チョコレート細工部門 銀賞(第2位)など多数の受賞歴を持つ。現在はフリーランスとして製菓学校講師や企業のレシピ開発・新店舗オープンのコンサルティングなどを担当している。

製菓講師、レシピ開発など、お菓子に関わる仕事を同時進行で進める

▲2013年ジャパン・ケーキショーのプティ・ガトー部門で連合会会長賞を受賞した向井さんの作品。(画像提供:向井聡美)

――フリーランスのパティシエって、とても珍しいですよね。実際にどういったお仕事をされているんですか?

ベースとなるのは製菓学校の外部講師です。4校をそれぞれ週に1~ 2回ずつ担当しています。 そのほか、企業さんからの依頼でのレシピ考案をしたり、イベント等での商品開発を行ったり。イベントでのお菓子レッスンや、講習会講師もアシスタントもします。こちらは単発から定期的なご依頼までさまざまです。

――たくさんありますね!そういったお仕事はどのように得ているのですか?

ありがたいことに、一番多いのは知人からなど、人づてでのご依頼が主です。講師の仕事はまず母校から最初に声をかけていただき、徐々に増えていきました。レシピ開発などの仕事は、知り合いの方が企業に私のことを紹介してくださり、その企業から直接ご連絡が来たりします。メディアの依頼などは、SNSのメッセージ機能でご連絡が来ることも多いですね。

――例えばですが、ご自身から企業に「レシピ開発できます」など、いわゆる”売り込み”をしたことはないのですか?

自分からはしたことがありません。ただ、展示会や講習会などに積極的に参加し、名刺交換をしたりもするので、それが仕事につながることも多く、結果的に営業になっているのかもしれません。

――お仕事の全体の割合としては、どのような感じですか?

そうですね。講師業が6割、その他のレシピ開発などのご依頼が4割くらいです。いただくお仕事によるので毎月流動的ですが…。

――なるほど。一定の収入があり、さらに引き受けたお仕事の数やボリュームなどでも変動があるんですね。

柔軟に動けるのがフリーランスの魅力

▲明治ブルガリアヨーグルト「シェフクリエ」を使い、レシピ開発を行った製品(画像提供:向井聡美)

――先ほど、製菓講師の方は4校を担当されているとお聞きしましたが、そうするとほぼ毎日授業を受け持つことになるんじゃないですか?

そうですね。学校によって違いますが、例えばある学校で朝9~16時半くらいまで授業をした後、別の学校で20時半まで、などですね。企業のレシピ開発などは、「何曜日の午前は空いているからそこで試作しよう」とか、「合間の数時間にレシピ出しをしよう」と対応しています。

講師の仕事の場合、夏休みなどはまとまった休みになるので、そういう時は企業の仕事を多めに入れることもできます。「この期間ならスケジュールが取れます」と提案するとか。さまざまな予定と照らし合わせつつ、ご依頼を受けるようにしていますね。

――講師のスケジュールに合わせて、イレギュラーのお仕事をされているんですね。最近ではどんなお仕事をされましたか?

例えば昨年夏には、ラフォーレ原宿で1ヶ月限定開催された森永乳業のひと口アイス「ピノ」のカフェの立ち上げに関わりました。この時は、”自分だけのピノを作れる『ピノフォンデュ』”がコンセプトでしたので、打ち合わせでまず「コーティングのない白いままのピノに色とりどりのグラサージュをかけて、お客様オリジナル・ピノを作っていただくことに決まりました。そこから私は、数種類のグラサージュのレシピ出しと温度管理などをスタッフさんにレクチャーするまでを担当しています。

▲ピノカフェで提供された「ピノフォンデュ」(画像提供:向井聡美)

――そんな仕事があるんですね!「グラサージュ」は具体的にどう作ったのですか?

グラサージュはホワイトチョコレートをベースに「ショッキングピンク」や「ブルー」などカラフルな8色を作りました。お客さまにはその中から好きな4色を選んでいただき、ピノをつけながらオリジナルのマーブリングを楽しんでもらうんですね。

期間中はこれらのグラサージュを切らさないよう裏で大量に仕込んでいるのですが、ホワイトチョコレートの温度管理や、各色の調整が思ったより大変で…。スタッフのみなさんがとても頑張ってくださいました。

――ほかに変わったご依頼などはありましたか?

「美術館に展示するオブジェとそっくりのチョコレート細工を5体作ってほしい」という依頼もありました。3Dプリンタでオブジェのデータを起こし、シリコンで型を取り、そこにチョコレートを流し込み接着して作る作業なので、打ち合わせを重ねながら進めました。

▲3Dプリンタ会社の方、シリコンの型を作る会社の方、向井さん3者での打ち合わせの様子(画像提供:向井聡美)

▲森美術館『カタストロフと美術のちから展』で展示されたチョコレートオブジェ(画像提供:向井聡美)

▲(画像提供:向井聡美)

――お話を聞いていると、常に何かしらの仕事している印象を受けますが…。お休みはあるのですか?

昨年1年間を考えると、完全な休みは数日間くらいでしょうか。「休みたい」と思うことがあまりないんです。仕事が楽しくて、やりたいことだから時間をフルに使ってどうにかやりくりしようっていう感覚なんですね。1日休みの日ができた時は、” 拘束されない時間”と考えて、まとめていくつかのレシピを試作したり、撮影したりする日に充てています。

「フリーランス」の働き方を選んだ理由とは?

――向井さんは製菓学校を卒業後、そのままフリーランスになったんですよね。「就職しよう」とは考えませんでしたか?

じつは一度、就職を考えて、あるお店に研修に行ったことがあるんです。もともとシュガークラフトやネイルなど、細かくてキラキラしたものが好きだったので、漠然と「就職するならウェディング関連かな」と思っていました。 そこで、上京する前から憧れていたウェディングや記念日スイーツのお店に研修に行かせてもらったのですが…。「あ、違う」と思っちゃったんです。

――ずっと憧れだったのにですか?なぜでしょう。

ケーキもすごくかわいかったし、デザインもやっぱり素敵だなと改めて思いました。ただ、実際に研修に来て分かったのですが、私はデザインが好きだっただけで、ここで働きたいわけではなかった。「毎日朝6時からここでパティシエとして働いてこのケーキを作りたいのか?」と想像してみると、違和感があったんですね。なので、ケーキの作り方やデザインの絞り方を教えてもらったら、そこで満足してしまいました。

でもまだ迷いがあった。その時、お店のパティシエの方に話しかけられたんです。その言葉が、いまでも忘れることなく頭に残っています。

――なんと言われたんですか?

「どうしてうちのお店に来たいの?」って。「おいしいし、ケーキのデザイン好きだし、ずっと憧れなんです」って答えたら、「だったらうちで働かない方がいいよ」って言われたんです。

――ええっ。そんな。

って思うじゃないですか。「うちのケーキが今は好きでも、お店に入ったら朝早くから夜遅くまで作ることになる。嫌になっても続くんだよ。だったら好きなケーキはファンでいた方がいい。自分の働きやすい環境、やりたいと思える場所を見つけた方がいい」と。

――なるほど…。

そんな風に考えたことがありませんでした。学生時代、就職を考えて先生に相談すると、たいてい「好きなお店」「好きなケーキ」を基準に探してみたらとアドバイスされることが多いですよね。当たり前のように、好きなお店だから働くのも楽しいだろうと考えていた。こう言われて初めて気づくことができた。すごくありがたい一言でしたね。

▲クープ・デュ・モンド・ドゥ・ラ・パティスリー2019日本予選決勝大会B部門出場時(画像提供:東名食品株式会社)

――少し話題が変わるかもしれませんが、向井さんはコンクールにたくさん挑戦されていますよね。何か理由はあるんでしょうか。

学生時代に、製菓学校で指導してくれた先生が、日本代表としてクープ・デュ・モンド世界大会に出場されたんです。その時にアシスタントとしてお手伝いさせていただくことになって、コンクールというものに出会い、興味を持ちました。
卒業後、たまたま研究生として一年間学校に在籍することになり、コンクールに挑戦するきっかけができたんです。

その年、初めて挑戦したデンマークのチーズメーカー「BUKO」のコンクールでグランプリを獲ることができました。それをきっかけに色々な方から「仕事をしてみないか」と声をかけていただくことが増えたんです。そこで「就職せず、フリーとしての働き方もあるのかもしれない」と可能性を感じました。

――研究生を卒業した翌年からは、母校の製菓学校の外部講師としてお仕事することになるんですね。

はい。当時の校長から「卒業したらうちの外部講師として働いてみないか」とお誘いをいただきました。製菓学校には、自分のお店を持ちながら講師として働く方や、決まった日に教えに来るフリーの方などが多くいます。

外部講師は社員ではないので別の仕事も受けられます。自分でスケジュールを調整すればこれからもコンクール出場を続けられると考え、ありがたく受けることにしました。

――向井さんのコンクール熱が伝わってくるようですね。でも、それほどまでにのめりこんだ理由は何だったのでしょう?

「パティシエ」といってもいろんな方がいらっしゃいます。コンクールに出るかどうかも人それぞれ。私の場合、グランプリを取ったことで『私は腕を競うのが好きなんだ、没頭するようなことをこれからもやっていきたいんだ』とハッキリわかりました。それを実現するため、コンクールに軸足を置くことができる働き方をしようと思ったんです。

最後の挑戦と決めた「クープ・デュ・モンド」。日本代表への道は険しかった

――その後、精力的にコンクールに出場されるんですね。

パティシエとしてトップの技術を身に付けたい気持ちもあり、色々なコンクールに挑戦してきました。 でも実は、パティシエを目指し始めた頃から実現したい夢があるんです。その途中にコンクールの魅力にハマったので、まずはその道を究めてみようと。

どこかで区切りをつけて夢に進もう、その集大成にしようと最後に目指したのが「クープ・デュ・モンド2017」日本代表の予選です。結果は銀賞(2位)でした。嬉しかったのですが、金賞(1位)を取らないと日本代表にはなれません。最後と決めて臨んだ大会でしたが、銀賞をいただくことができ、金賞も目指したいと思うようになったので、次の大会も出場しました。だけど、その大会では入賞できませんでした。

▲銀賞を獲得した向井さんの作品。アンティークな雰囲気のあるピエスと、フランス・パリのキャバレー「ムーラン・ルージュ」をモチーフにしたアシェットデセール(画像提供:東名食品株式会社)

――では、さらに次の大会も参加されるんですか?

正直迷っています。というのも、クープ・デュ・モンドのような大きなコンクールに挑戦するには、場所や時間、材料の調達など、すべてを満たせる環境を作らなくちゃいけません。私はコンクールのためにフリーランスになりましたが、お店に所属していないので練習する場所がないんです。

場所の確保や材料・調理器具の持ち運び、当日の搬入・搬出などスケジュールを組んで押さえたりするのがすごく大変で…。クープ・デュ・モンドでは工程途中もチェックされ、「作業点」として評価されるので、本番同様7時間程度の通し練習も必要です。でももしその予行演習をしようと思うなら、前日の計量や準備だけでも1日かかってしまいます。今お受けしている仕事と並行してこれらをやり続けるのはかなり大変でした。自分で選んだ道とは言え、なかなかうまくいかないなあと思っていましたね。

▲(画像提供:東名食品株式会社)

――向井さんも、どこかのお店に所属してコンクールに臨もうとは思いませんでしたか?

考えましたが、そうすると今まで築いてきた学校や企業とのお付き合いをすべて白紙にすることになります。 コンクールに出ることが目的にはなっているけれど「優勝して有名になりたい」「お店を持ちたい」と思っているわけではありません。迷う気持ちはありましたが、何とか都合をつけてフリーのまま出場したんです。

先日行われた2019年の大会には私もフランスに行き、応援してきました。現地で挑戦している光景を見て、「うらやましい!私もこの場で戦ってみたい」という思いが芽生えてきて、正直諦めきれない気持ちもありますが…。自分が元からやりたかった夢に挑戦する良い時期なのかも、とも思っています。

コンクールに夢中になる前から考えていた「夢」

――先ほど、「実現したい夢がある」とおっしゃっていましたが…どんな夢ですか?

昔からケーキづくりも好きでしたが、美容にも興味がありました。だから、美容に特化したお菓子で起業したいと考えています。

――「野菜スイーツ」や「ギルトフリースイーツ(罪悪感のないお菓子)」などですか?

そういったお菓子ではなく、「食べることで美を得られるようなスイーツ」ですね。例えば、ヒアルロン酸やコラーゲンが配合されているお菓子などです。さらに、見た目が宝石のように美しければ、ギフトなどにも喜ばれるんじゃないかとずっとコンセプトを温めているんです。

まだまだ知識がないので勉強中ではありますが、美容に着目しているので、エステやネイルサロンとコラボもできるかもしれません。パティシエだからこそできる細かい技術を用いて、誰にでも喜ばれるようなお菓子のお店を作っていきたいですね。いつか実現できるよう、少しずつ準備していこうと思っています。


この記事の筆者

田窪 綾

調理師免許持ち、レストラン勤務経験ありのライターです。東京都内近郊を中心に、食と食に関わる方の取材執筆をしています。(Twitter:aso0035)

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