”ゆとり”を残したスモールスタート。開業3ヶ月目の若手オーナー・今井祐太シェフが描く夢の続きとは?

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※この記事は2020年1月下旬に行った取材を元に制作しております。

今回、取材に向かったのは大阪府堺市。JR「堺市」駅を降りて、歩いて3分もしない内に見えてくる『パティスリー レタンセル』です。このお店は去年、2019年11月にオープンしたばかりで、真っさらな看板とピカピカのショーケースがまだ初々しくも感じます。

ここで一人、ケーキを作るのがオーナーシェフの今井裕太さんです。日・月曜日の週2日を定休日にして夫婦2人+パートスタッフで小さくスタート。次世代らしい「無理しないスタイル」に思えますが、話を聞いてみるとまだまだやりたいことは多く、夢の途中だそう。

「見習い時代から独立するのを目標にやってきた」と語る34歳の若きシェフの、今後の展望について聞いてきました。

今井祐太(いまいゆうた)さん

1985年生まれ、大阪府出身。
辻製菓専門学校卒業後『コンツェルト』(堺市・現在閉店)で5年修行。『Cagi de reves(キャギ・ド・レーブ)』(大阪市)の商品開発に短期間携わる。その後『アートグレイスウェディングコースト』(大阪市)でブライダルパティシエとして約8年働き、シェフも歴任。2019年11月に独立。地元の堺市で『パティスリーレタンセル』を開業する。

オープン3ヶ月間は「順調」
製造1人でできる限界を模索中

──この度は、独立おめでとうございます!すごくオシャレなお店になりましたね。どんなイメージでお店を作りましたか?

ありがとうございます。独立するならフランスちっくな雰囲気がいいなぁと思っていて、イメージに合う店舗の写真をネットでいくつも拾って、デザイナーさんと打ち合わせしました。ここ、堺市はまだまだ昭和な街並みなんですが、お店に入ってきてもらった時だけはフランスの空気を感じてもらえると嬉しいです。

▲店内に流れるBGMも、フランスの道端で演奏しているのを聴いて似た音楽を探してきたのだとか。文字で伝えられないのが残念。

──11月初旬にオープンして、3ヶ月が経ちました。反響はいかがでしょうか?

地域に向けてチラシ等の宣伝をしなかったので「初日ってどれくらいケーキが出るんだろう」と思っていましたが…オープンから昨年末まで、ずっと売り切れが続いて。商店街で、店のすぐ前には幼稚園もありますし、気にしてくださっていたんだと分かって安心しました。クリスマスが過ぎても売り切れる日があり、ケーキがなくなったら閉店にしています。

▲ピカピカのショーケースには生菓子13〜14種、バースデーケーキ2種が並ぶ。焼菓子は12種程度。

▲得意なのはチョコレート。意外と(?)男性客も多いのだとか。

──スタッフは今のところ、今井さんだけですか?

製造は僕だけです。必死にケーキ作ってます(笑)。売り場に妻とパートさん2人に来てもらって、なんとか回してる感じですね。クリスマスは120台、当日にも40台出たんですけど、これくらいなら一人でも大丈夫。1年目は自分一人でどこまでできるか、の基準を探るつもりです。でもプティガトー、アントルメは種類を増やしたいと思っているので、ゆくゆくは製造スタッフをもう一人いれたいですね。

▲製造スタッフ募集中です!(今井シェフより)

省エネで最大値のパフォーマンスを目指す

──自分の店を持つ経営者になったわけですが、営業するにあたって目標のようなものはありますか?

目標は「つぶれないお店」。そのためのテーマが「ミニマムでマキシマム」です。今、製造が僕1人と販売2人の3人体制で、日曜日と月曜日は定休日をとっています。できる限り最小値の時間・労力で、商品点数・売上は最大値を目指したい。狭いスペースで、短い時間で、色んなことをやってるぞっていう状態にしたいんですよね。

▲初期装備としては珍しい、急速冷蔵・冷凍機。生産効率アップだけじゃなく、ジェノワーズや焼菓子の仕上がりにも差がでるとのこと。

──日曜日を定休日にしているのは、もったいないなって気がします。

日曜日は通勤する人が減りますし、この辺りは休むお店が多いんです。一時、試しに営業してみたんですけど、確かに平日よりも売上はとれました。でも、2〜3倍ってわけじゃなかったんですよね。通常の1.2倍程度なら、無理して開ける必要はないかな、と思って日曜を完全に休みにしました。小学生の娘もいますし、学校行事にも参加したい。最初から日曜日・月曜日を省いて考えて、成り立つ方法を考えればいいと思います。どうしてもやばくなったら営業したらいいんです(笑)。

──最初から全力投球じゃなく、余力を残しておくということですね。

そうですね。今売り場で、コンテストの賞状を飾っているテーブルがあるんですけど、ゆくゆく3席分くらいのイートインスペースも作れるな、と思ってます。夏場はパフェとかデセールとか、すぐに食べてもらえる商品も考えていきたいですね。やりたいことがいっぱいあるんです。

▲コンテスト賞状が飾られる一角。ゆくゆくはイートインスペースになる予定…?

仕事に直接関係ない氷彫刻も習得。
勉強し続ける理由とは?

──独立前は、『ベストプランニング』でシェフをされている時も洋菓子コンテストに出品していましたよね。「ブライダル企業の、しかもシェフ」というのが珍しく、よく覚えています。

パティスリー時代から出場しているので、そんなに特別なことでもないんですけどね。きっちり帰らないといけない職場だったので、作品を作るのは大変でした(笑)。ただ休日はいっぱいあったので、その時間で進めていましたね。コンテストに出たり、講習会に行ったり、定期的に新阪急ホテルで氷彫刻を習ったり…色々やってました。

──氷彫刻!…は、当時の仕事には直結しないですよね。なぜ氷彫刻も?

うーん…「できないことがある」っていうのが嫌だったんでしょうね(笑)。僕自身、35歳までに独立しようと思っていました。それまで学べるものは何でも学びたかったんです。独学で試行錯誤するより、上手な方に直接習う方が短い時間で上達すると思って、ツテで色々な方に弟子入りして教えてもらっていました。

▲アメ・氷・マジパンなど、それぞれの細工で師匠がいるそう。クープ・デュ・ド・モンドを目指した時期もあったのだとか。

▲キャギ・ド・レーブ勤務の時は、技術提携していたパスカル・ルガック氏のルセットを徹底的に勉強。「美味しいと思える、ある程度の方程式を掴んだ」と、今ではルセットの調整は大体1回くらいで済むそう。

──なるほど。今井さんが勉強し続ける理由ってなんでしょう?

ケーキって、お客さんにとっては非日常で、毎日食べるものでもないじゃないですか。じゃあ、いざ大事なケーキを買う時、作ってもらう時に「努力してる人」か「そうじゃない人」か、お客さんはどちらに任せたい?を考えると絶対に「努力してる人」を選ぶと思うんです。パティシエとして他の人と比べられた時に、選ばれるようにしたかった。だからプロである以上、勉強はずっと必要です。

洋菓子の時間を進める
”火花”のような存在に。

──安定感のあるブライダル企業からの独立に、不安はなかったですか?

自分の店を持つのは、この仕事を始めた時からの目標で。迷いもなかったです。確かに企業勤めは安定していて、料理人たちと働くことで得られることも多かった。けど、「自分がやりたいこと」と「会社がやりたいこと」が完全に一致するケースはほとんどないと思います。それは色んな人が関わって成り立っているから当然です。これからは自分が考える世界観で、自由にケーキを作りたいなと思って独立することにしました。

▲約2000万円の開業資金を準備。19坪の物件を改装している間はフランスへ行き本場の味をチェック。

──これからどんどん自分のアイデアでケーキ作りができるんですね。最後になりますが、店名の『レタンセル』にはどんな想いが込もっているんでしょう?

レタンセル(L’étincelle)はフランス語の辞書を引くと、”煌めき”とか”才能”って意味があるんです。でも僕がイメージしたのは”火花”です。

──火花、ですか?

例えば、バーナーの火力を上げるには火花がないと始まりません。ちいさな火花が大きなエネルギー(バーナーの火力だったり、エンジンの始動だったり)が生み出すキッカケであるように、僕の作るちいさなお菓子から、食べた人が様々なエネルギーを生み出すキッカケになればと願いを込めてつけました。洋菓子に興味がない人って、時間が止まってるんですよね。

──時間が止まっているとは、どういうことですか?

例えば「ケーキ」と聞いてオーソドックスにショートケーキを思い浮かべる人はまだまだ多いと思います。ここ、堺市でもそうです。先日も、ご年配のお客さんに「パティスリーってどういう意味?」って聞かれました。そんなお客さんたちに今流行りの洋菓子を見せて「今はそんなお菓子があるんだ」とか、伝統的なフランス菓子を知ってもらって「外国にはそんな文化があるんだ」って興味を持ってもらえたら、と思います。

プロとして、自分がキャッチした情報やトレンドをお菓子に乗せて、洋菓子の時間が止まっている人の時間を動かしていきたい。そういうキッカケづくりをしたいです。

店舗プロフィール

パティスリー レタンセル
住所:大阪府堺市北区東雲東町1-6-2
営業時間:11:00~20:00(売切れ次第閉店)
定休日:毎週日曜日・月曜日
公式SNS:https://www.instagram.com/patisserie_letincelle/

written by

あかざしょうこ

1984年生まれ。PATISSIENTの編集ライター。「人生の教科書は人」をモットーに、聞いたり書いたりしています。

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