12月はクリスマスでてんやわんや。2月にバレンタインでしっちゃかめっちゃか。3月はひな祭り、5月は端午の節句に母の日…と、年末から上半期にかけては忙しいパティスリーですが、夏の間は驚くほど暇なのだとか。売上が伸びなくて悩みつつ、スタッフを休ませておこう!というお店もあるし、時間がある内にクリスマスケーキの開発をするという話もよく聞きます。
そんな中、今回パティシエント編集部が訪れたのは、お店の中にジェラート専用コーナーを作ったという「パティシエコウタロウ」。各店が悩んでいる夏の対策に違いないと確信し、機材導入までのウラ話や開発秘話、お客さんの反応などなど…根掘り葉掘りと詳しく聞いてきました。
パティシエント編集部

赤座 祥子
パティシエントの記事と求人を書いている人(ライター)
インタビューが大好きでしょっちゅうパティスリーに足を運んでいる。
甘いものとアニメには目がない二児の母。
まずは『パティシエが作る本格派ジェラート』のご紹介
クリーム色ベースの外壁に、ワインレッドの差し色が効いていてオシャレ。
パティシエコウタロウがOPENしたのは2001年。当初はフランス菓子を中心に製造・販売していたそうですが、地域のお客様のニーズを考え、親しみやすい洋菓子に路線変更したとのこと。以来、16年間にわたって大阪府・高槻市のお客様に寄り添ったお菓子を作り続けています。
出迎えてくれたのはオーナー・清水幸太郎さん。関西・関東のパティスリーで修行した後、30歳で独立。取材の日はスタッフの皆さんでBBQをする予定で、取材後は16時でお店を閉めて(オーナー自ら)すぐに食材を買いに行ったそうです。

赤座:
「よろしくお願いします。今日はジェラートコーナーを設置したということで、お話を聞かせていただきたいと思ってお邪魔しました」

コウタロウさん:
「いらっしゃいませ!じゃ、とりあえずジェラートを食べてください」
お会いして1分も経たない内に、
せっせとジェラートをふるまってくださいました。
設置したてのショーケースには8種類のフレーバーが並んでいます。
左上からミルク、抹茶、キウイ、ラズベリー
左下はショコラ、いちごみるく、マンゴー、ミルクティー

赤座:
「ん~~~!すごく美味しいです。マンゴーの味をしっかり感じられますね。味が濃い割には、舌触りが滑らかでさっぱり食べられる。ミルクティーとの相性も抜群!別々でも美味しいけど、一緒に食べるとさらに美味しいです」
赤座:
「ショコラも美味しい~!さすが、チョコレートが得意な清水オーナー…チョコレートは美味しくて当たり前なんですけど、口に入れた瞬間に『チョコ!』ってくらい風味が広がってきます。いちごミルクも、いちごの酸っぱさがちゃんと残っています!」
外の気温は30度超え。
暑さを和らげてくれた、このジェラートについて詳しくお話を聞きました。
なぜジェラートコーナーを設置することに?

赤座:
「ジェラートコーナーを作ったのは今年(2017年)からということでお聞きしました。夏対策、ということで作ったんでしょうか?」

コウタロウさん:
「その通り、夏対策です。パティスリーというのはどこも似たような傾向にあると思いますけど、年末に売上が上がって、夏は下がる。うちの場合は6月からガクッと落ち込みます。9月まではほぼ横ばいで、繁忙期の売上で年間売上を補てんしているような状態。
売上が下がる(=手が空く)この時期をなんとかプラスにできないものかと、ジェラートを作ってみることにしました」
赤座:
「ジェラートの構想はいつから浮上していたんですか?」

コウタロウさん:
「1年くらい前ですかね。とは言え、一番の問題は機械への投資面でした。ジェラートの機械は高価で、安くても300万、ショーケースを含めると400万円を超えてくるようなものです。導入したいと思いながらも、なかなか踏み出せませんでした」

赤座:
「決して安くはないですよね。それだけの出費をペイできるかどうかも分かりませんし、黒字にするまでに結構な時間がかかってしまいそう」

コウタロウさん:
「そうなんです。で、どうしようかと悩んでいたところ、知り合いのお店が新しく機械を導入するからと、使っていたものを安く譲ってもらうことができました。倉庫で眠っていたものを譲ってもらったので、不具合も少しあったりして。使えるようにメンテナンスして、ショーケースは新しいものを買って、結局想定していた金額で済みませんでしたが、それでも半額くらいで導入できました」

赤座:
「ジェラート作りにはどれくらいの期間がかかりましたか?美味しいことはもちろんなのですが、舌触りがすごく滑らかで食べやすかったです」

コウタロウさん:
「そう言ってもらえて嬉しいです。開発期間は大体半年くらい。若い頃、東京で働いていた時にジェラートを触っていたことがあって。その経験をベースにして、講習会に参加しながらアレンジしていく、という感じ。でもほとんどイチから勉強したようなものでした。
滑らかな食感とさっぱり感を出すために、糖度と乳脂肪分の配合も色々と試してみました。半年間、毎日工房にこもってジェラート作り。どうすれば美味しいジェラートができるのかって、頭の中はそればっかり(笑)。その間、店をしっかり守ってくれたスタッフたちには本当に感謝しています」
出来たてのPOP。ショーケースの上で、パティシエが考案したジェラートであることアピールしています。

コウタロウさん:
「果肉(ピューレ)の割合は他のお店よりもかなり多いはずです。
ケーキ屋なので、素材の味をしっかり活かしたいと思って、そこはこだわりました。素材の味を出すには、ピューレを多くすればいいのですが、うまく固まらない。
『うまく固まった!』と思っても、欲が出て『まだ味を出せるんじゃないか』と果肉の割合を増やしてみたりして、冒険しちゃうんですよ。ちゃんと固まって、かつ素材の味が出る、ギリギリの配合を導き出すのに苦労しました。すべてのフレーバーで一通り失敗しましたけど、一番大変だったのはミルクティー。紅茶の香りを引き出そうとすると固まらず、固めようとすると味が薄くなる…何度も何度も失敗を繰り返して、ようやく納得できるものができました。
それでもまだ、改良の余地はある。もっと美味しくできると思っています」
赤座:
「次に作りたいものはありますか?」

コウタロウさん:
「次に挑戦しているのは、キャラメルです。今研究しているのですが、これがまた、固めるのが難しい!最近は工房の一角が僕の研究室と化していて、ずっとジェラートの研究に没頭しています。
難しいものほど楽しくて仕方ないんですよね。この試練を絶対に乗り越えるぞ!と思いながら試作しています」
お客さんの反応はいかに?
赤座:
「7月から販売開始されたということですが、お客さんの反応はいかがですか?」
コウタロウさん:
「正直言って、もっと売れるかと思っていました!(笑)」
赤座:
「思ったよりも売れていない、と…?」
コウタロウさん:
「ただ、決して悲観しているわけじゃないんですよ。単純に、皆さんがジェラートを始めたことを知らないだけだと思います。実際に、食べてくれた方は満足してくださるので。一度知ってもらえれば、絶対に『美味しい』って言ってもらえるはずです。それだけ自信のあるジェラートができました」
お店に入ってすぐ、正面に置かれているジェラートのショーケース。
お客様の視界に入りやすい位置に設置したのだとか。
赤座:
「確かに、少し遠くても買いに来たくなる味でした。私は完全にリピーターになります!」

コウタロウさん:
「ありがとうございます(笑)。店舗だけでなくスーパーへの卸販売も始めて、まずは認知度を上げていこうかと。あとは高槻市内にある大きな温泉施設でも取り扱ってもらう予定です。土日で1000名、平日で500名ほど来られるそうなので、そこでコウタロウのジェラートを知ってもらえれば、と考えています」
赤座:
「店外販売で、積極的に販路を広げていこうということですね」
コウタロウさん:
「でも、最終目標は『パティシエコウタロウ』に来てもらうこと。アイスクリームショップならまだしも、パティスリーがジェラートのショーケースを設置して対面販売するというスタイルは珍しいんですよ。そのアイスクリームショップも、高槻市では31(サーティーワン)が1店舗ある程度。市内だからと言って気軽に行けるわけでもないですし、近くに住んでいるお客様が『遠くに行かなくても美味しいジェラートが食べられる』と思っていただければ嬉しいですね。イートインスペースも18席用意しているので、寛げる場として活用してほしい」
広々としたイートインスペース。ジェラートを食べながらケーキにも興味を持ってもらいたいと、
ケーキのショーケースが見られる配置にしている。
ジェラート販売におけるメリットとは?
赤座:
「気になっていたのですが、ジェラートって利益率はいいんでしょうか?」

コウタロウさん:
「いいですよ!生菓子や焼き菓子の原価率は通常3割程度が目安で、それより少し低いくらい。ヒットすればすぐに黒字になると思います。世の中にはジェラートだけを売って『ジェラート御殿』を建てた人もいるくらいですから」
赤座:
「夢があるなぁ~」

コウタロウさん:
「ただ、ジェラートはテイクアウトもあって、あっという間に溶けてしまうので持ち帰り用に保冷剤を準備しておかなくてはいけません。暑い日は普通の保冷剤では効き目がないので、スーパー保冷剤というものがあって、実はそれが高いんですよ。梱包資材なんかも含めると、原価率は2割5分くらいかな。利益率もそうですが、ジェラートは冷凍保存なので廃棄ロスがありません。材料が無駄になる、ということもないので効率的です。
本格的に黒字になるのは来年以降かな、とは思っています」
赤座:
「ジェラートの機材って、冬の間はどうするんですか?」

コウタロウさん:
「
お客様の目の前で盛り付けるスタイルの対面販売はせずに、テイクアウト用のカップに詰めておいて、年中通してジェラートを販売できるように、と考えています。ご自宅に持って帰っていただいたり、そのままイートインスペースで食べていただいたりしてもらいたいですね」
今後のパティシエコウタロウの展開は?

赤座:
「ジェラートとは少し別の話題になるのですが、コウタロウとして次の構想はあるんでしょうか?」

コウタロウさん:
「
2階が住居スペースになっているのですが、今は誰も住んでいないので全面改装してカフェにしたいです!」
赤座:
「おぉ~!」

コウタロウさん:
「でも、税理士さんに相談したら『今は絶対にできないよ』と(笑)。設計図はもう出来ているのですが、費用が足りなさすぎます。実は、そのためのジェラート販売でもあったんです」

赤座:
「なるほど、次にやってみたいことを実現するために、利益率の良いジェラートをまずは安定させていくと」

コウタロウさん:
「そうですね。カフェというより、コミュニティスペースにしたいです。そこで親子で参加できるお菓子教室を開いたり、イベント開催に貸出したり、地域のお客様に開放して使ってもらいたい」

赤座:
「やっぱり地域と積極的につながっていくことは、パティスリーにとって大事なことなんでしょうか」

コウタロウさん:
「
もちろん大事。それに僕自身が、お菓子作りが大好きなので、その気持ちを皆さんと分かち合いたいです。お菓子を親子でわいわいと楽しみながら作ってもらって、絆を深めるきっかけにしてもらえたら、最高に幸せです」
赤座:
「かっこいい…」

コウタロウさん:
「いやいやいやいや(照)。かっこつけてしまいました」
取材を終えて
取材中、終始ニコニコと温かく対応してくださった清水オーナー。ジェラート作りは何度も失敗したと話しつつ、その苦労さえも楽しんでいる様子が伺えました。30歳で独立し、パティシエコウタロウをオープンされたとのことなので、40代後半に差し掛かるご年齢。しかし、まだまだ新しいことにチャレンジしたい、という向上心と探究心は若手に負けないくらい強く、純粋そのものです。
得た収益はお客様のために使いたい。経営者としてメリットを考えることはもちろん、お店をどのように変えればお客様のためになるのかも考え、常にベストを尽くす。
コウタロウのジェラートには、そんな清水オーナーの夢と情熱が詰まっていました。
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