エーデルワイス創業秘話

「スイーツ」と言う言葉が広く普及し、様々な洋菓子ブランドが溢れ、激しい競争が繰り広げられている洋菓子業界。 そうした中で、エーデルワイスの比屋根 毅（ひやね つよし）氏と言えば、現在も洋菓子業界を支える人物として有名です。 そこで今回は、「アンテノール」「ヴィタメール」など、百貨店を中心に8つのブランドを80店舗以上展開し、大きな成功を収める比屋根氏と、そのきっかけとなる洋菓子店「エーデルワイス」についてまとめてみました。

ピンチをチャンスに変えた創業期

エーデルワイス創業者の比屋根氏は、1937年沖縄県石垣島のさとうきび農家に生まれました。 その後15歳の時に島を出て17歳で本土に渡り、大阪の菓子メーカーなどで職人として修業を積み、1966年28歳の時に兵庫県尼崎市にエーデルワイスを創業します。 「エーデルワイス」の社名は、比屋根氏のモットーでもある「忍耐と信用」と、エーデルワイスの花言葉である「忍耐」が元になっています。 現在は全国に80店舗以上を展開するエーデルワイスですが、その元をたどると、尼崎市の立花商店街の外れに開店した7坪の店舗に行きつきます。 すでにコンクールなどでの入賞経験も豊富で、「おいしいお菓子」をつくる技術に関しては大きな自信があった比屋根氏。 しかし店を始めた当初は商品が全く売れず、一度は店を畳むことを決意するのです。 店頭には「お世話になりました」と貼紙を出し、最後に残った材料で作ったお菓子を、無料で近所に配り歩いたと言います。 するとその翌朝、閉め切った店のシャッターをたたく人たちが現れました。 配ったお菓子の一つ一つに付けた手書きの住所を見て、お客様が次々にやってきたのです。 中には「昨日と同じお菓子を」と買いに来る方も。 閉店を決意した比屋根氏の店に、無料で配られたお菓子のおいしさに惹かれたお客様が、「もっと食べたい」と一気に押し寄せたのです。 その日は材料がまったく残っていなかったため、やむを得ず休業としましたが、大急ぎで材料を発注し、翌日からは洋菓子を求める多くのお客様が訪れるようになりました。 「あの時、シャッターをたたいてくれた近所のクリーニング屋の奥さんの顔は、今でも忘れない」 後に比屋根氏はそう語っています。 再び「店を続けよう」という気持ちを取り戻した比屋根氏は、店が息を吹き返した後も「沢山の人に幸せを届けたい」という想いを原動力に、「本物の美味しさ」を求め、手作りにこだわった洋菓子づくりを続けました。 その後、1978年に高級洋菓子店のアンテノールを設立、1982年には本格的なブーランジェリーである株式会社ルビアンを設立し、続く1983年には東京に進出を果たします。 続く1990年には、株式会社 ヴィタメール・ジャポンを設立。 ベルギーのブリュッセルに本店を持つヴィタメールの海外出店は、実は日本にしかありません。 その後も順調に店舗数を拡大させていきますが、もちろん好調な時期ばかりではありません。 一時150店舗まで拡大させたエーデルワイスブランドのフランチャイズ店舗をほぼすべて閉店させるなど、いくつもの苦難を乗り越えて今の経営体制を確立させているのです。

積極的な人材育成

また、比屋根氏は人材育成にもとても熱心で、本場ヨーロッパでの技術研修を重視していました。 1977年には海外に初めて技術者を派遣し、その後も競合他社の人材をエーデルワイスの提携先に派遣するなど、会社の枠組みを超えた、業界全体の活性化につながるような取り組みも積極的に行っています。 今や関西を代表する洋菓子の名店であるケーキハウス ツマガリの津曲 現 社長は、エーデルワイスから海外に派遣された第一弾メンバーの一人でした。 津曲氏は30歳の時に株式会社アンテノールの社長兼工場長に就任するなど、エーデルワイスを支えた人物の一人。 津曲氏は、比屋根氏から菓子作りから経営の基礎まで、徹底的に叩き込まれたと言います。

エーデルワイスのこれから

こうして、一代で全国に展開する大企業を築き上げると同時に、後に有名パティシエとなる弟子を数多く育成したエーデルワイス。 阪神間にはエーデルワイス出身のパティシエが特に多く、「ケーキハウス　ツマガリ」「ケーキファクトリー　ムッシュマキノ」「ケーキハウス　ショウタニ」「スイーツ　ファクトリー　ナカタ」と挙げるとキリがない程多くのパティシエがエーデルワイスから巣立っていきました。 競合他社がひしめく中、創業当時から業界を牽引しているエーデルワイス。 その根底にあるのは、創業者 比屋根 氏の「忍耐と信用」「沢山の人に幸せを届けたい」という想いかもしれません。 そんな想いを掲げたエーデルワイスは、今後も多くのパティシエを輩出しながら、業界全体を引っ張っていくのではないでしょうか。