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インタビュー

「うちは劇場型のお菓子屋さん」。アシェットデセールの新旗手が語る、お客さんと向き合うお菓子づくり


今回はパティスリーではなく、ショーケースを置かない「アシェットデセール」のスタイルで自分のお店を持った、ひとりのパティシエをご紹介します。

「アシェットデセール」とは、本来はレストランのフルコースで最後に運ばれる「皿盛りデザート」という意味でした。しかし近年は、作り置きをせず、注文が入るたびにデザートのみを提供する「アシェットデセール専門店」も増えてきました。

大阪のベッドタウン、枚方(ひらかた)市にも、いまおおいに注目されるアシェットデセールのお店「Gorille(ゴリール)」があります。

2017年にオープンしたゴリールは、15時~翌1時を営業時間とし、お菓子屋さんとしては「遅めの営業」です。平日はクラフトビールやワインなどのお酒と、デザートを1品ずつ注文するバルスタイル。また全4品のコースメニューもあり、それは日曜日のみ完全予約制で受け付けています。

さらにゴリールには、大きな特徴があります。それが「お客さんの眼の前でお菓子をつくること」。カウンター式のオープンキッチンでは、まるでライブのように、甘美なパフォーマンスが展開されるのです。

なぜ“客前対面式”のスタイルを選んだのか。
そうすることで、もたらされるメリットとは?
オーナーパティシエの石川和良さんにお話をうかがいました。

石川和良(いしかわ かずよし)さん

1984年、京都府八幡市生まれ。34歳。
「「シャトー・ド・レクレール」(辻調グループ フランス校)へ進学するため渡仏。パティスリーやトゥレトゥールにて研修を積んだのち帰国。京都「老松」洋菓子部門に就職。その後、奈良「ラ・テラス」や京都「モトイ」にてシェフパティシエを務めたのち独立。2014年に地元である八幡に「カフェ ゴリール」を開店。2017年11月19日に大阪の枚方市樟葉に移転。「ゴリール」という店名は小学校時代についたあだ名「ゴリ」から。同級生の女子からなぜか「あんた、なんかゴリっぽいよね」と言われ、浸透したのだとか。

お客さんと向き合う「劇場型のお菓子屋さん」

――「ゴリール」は一般的なパティスリーと違い、パティシエがお客さんと対面しながらデザートを提供するスタイルですね。このような形式にしたのは、なぜですか。
「人が好き」だから。そして「デザートを通じて、お客さんとダイレクトに向き合いたい」という気持ちからです。僕はデザートを「瞬間の美学」だと考えています。温かいものは温かいうちに、冷たいものは冷たいうちに、デザートがもっともおいしくなる瞬間にお出ししたかった。そのために、あえてお客さんの眼の前でつくりたかったのです。そして反応を直接知りたかった。カウンター形式にしたのはそのためです。

▲入ってすぐに目に飛び込んでくる、大きなカウンターテーブル。「開業資金は600万円のうちの大きな割合を、このテーブルの設置工事費が占めた」というほどこだわった。

▲店は、かつて「Muse Antiques(ミューズ アンティークス)」というアンティークショップが営業していた場所。店内に置かれるインテリアはすべて売り物だそうで、世界を飛び回りアンティーク家具を輸入するオーナーに代わって委託販売を任されている。その代わりに光熱費を融通してもらうなど、持ちつ持たれつの関係だそう。

――まるでBarのようだと思いました。これほどまでにパティシエとお客さんの位置が近い製菓店は、珍しいですね。
お客さんからは僕の手の動きがすべて見える位置で調理しています。お菓子の温度の変化、香りの変化、断面、そしてパティシエの動き、すべての表現を楽しんでほしい。自分ではこの店を「劇場型のお菓子屋さん」と呼んでいます。

▲コース1品目はサレ(塩気のあるデザート)。クリームチーズのポワレ、安納芋のニョッキなど

――劇場型ということは、この立派なカウンターは石川さんにとってライブステージだとも言えますね。
ライブという気持ちはつねにあります。ここは自分を表現する場だと考えているので、お花など気が散るものは飾りたくないです。いつも日本刀で居合斬りするように感性を研ぎ澄まし、その日の食材がどうすれば最高の輝きを放つかを考えてつくります。ぜひお客さんも、劇場の観客という気持ちで食べてほしいですね。わざわざ足を運んでいただいたからには、全力でやりますよ。すべての行程で決して手を抜きません。

――お菓子づくりは、どういったところにこだわっているのですか?
たとえばイチジクやブドウなどは、まるでかたちがあるジャムであるかのように皮ごとじっくり時間をかけてコンフィします。皮の香りとうまみ、食感のよさを知ってほしいから。リンゴは、むいた皮だけではなく切り落とした芯も出汁として一緒に煮込むんです。種からいい出汁が出ることをパティシエでも知らない人が多いので。カヌレなら養蜂家のもとを訊ねてわけてもらった蜜蝋を塗って焼きますし、レモンピールなども仕入れずに自家製します。生産者に会えるなら極力会いに行く。和栗なんて自分で拾いに行きますから。そういう手間を惜しむと、いいものはできないのではないかと僕は思っています。

▲カウンター形式にしたことでお客さんとの会話が弾み、いい食材の情報が入ってくることも少なくはないのだとか

▲蜜蝋を使ったカヌレはテイクアウトもOK。「カヌレは自信あります」と胸をはる

「予約してお菓子を食べに行く文化」を浸透させたい

▲コース2品目のグラニテ。底にゼリーが入っていて2層構造。「ハイボールをイメージしたんです。混ぜて食べてもらえたら」

――それだけ良質な素材を使い、さらに手仕事をほどこしたお菓子が4皿とドリンクがついて2500円なんですね。もっと値段が高いイメージがありました。果たして採算がとれているのかが心配になります。
接客と製造、あげさげも会計もひとりでやっているから人件費がかからないのです。また予約制なので廃棄がないし、ショーケースを置かなくていい。包装も要らない。なので、ぎりぎりこの値段で抑えられています。洋菓子店って意外とランニングコストがかかるでしょう。パッキング資材の在庫を抱えるだけで倉庫が必要だとか。その分の経費が掛からないのが、店内で展開できるアシェットデセールのいいところでしょうか。あと重要なのは「郊外だから」。都心だと家賃が高くて、この料金でお出しするのは無理ですね。

――アシェットデセール専門店ならではのメリットですね。
ただ、現時点では利益はほぼ出ていません(苦笑)。まだ開店したばかりですし、この店の存在を認知してもらうことと、「予約してお菓子を食べに行く文化」が浸透するまでは、辛抱強くやっていくしかないと覚悟しています。予約が順調に入りだし、うまくまわってゆけば「利益に転換できる」という確信はあるんです。

▲コースメニューは、日曜日のみの完全予約制。日曜日以外は「お菓子バル」。「ゆくゆくはコースのみの全日予約制に変えてゆきたい」とのこと

▲20時~25時までナイト営業。お酒のメニューも豊富。石川さんは「お酒と甘いものがマッチすることをこの店で発見してほしい」と語る

小学生時代からプロの製菓職人を目指していた

――石川さんがお菓子づくりに興味をもったのはいつですか。
10歳のときです。当時、辻調理師専門学校が学研の学習雑誌『4年の科学』に「お菓子をつくろう」という広告記事を掲載していたのです。それを読みながら自分で試作してみたのが興味をもったきっかけでした。お菓子が好きというよりも、プラモデルやレゴブロックを組み立てるのに近い遊び気分でしたね。だから調理はとても面白かったです。

――プラモデルと同じような気持ちでお菓子づくりを始めたというのはユニークですね。実際に自分でつくったお菓子のお味はいかがでしたか。
おいしかったと思います。学校へ持っていくと、クラスメイトたちも「おいしい、おいしい」と食べてくれて、好評でした。それがとても嬉しくて、小学生の頃にはもう「将来はお菓子づくりの仕事がしたい」と希望していました。そして15歳の時に滝沢秀明さん主演のドラマ『アンティーク 〜西洋骨董洋菓子店〜』を観て、「自分が将来なりたいのは、“パティシエと呼ばれる職業”なんだ」と自覚したんです。

※『アンティーク〜西洋骨董洋菓子店〜』…2001年の秋にフジテレビ月9枠で放送されていたドラマ。元ボクサーがある洋菓子店のケーキに魅せられ、その場で強引に見習いとして採用してもらうところから物語が始まる。雰囲気のある内観や美麗なケーキの数々、そこで繰り広げられる人間ドラマが人気のハートフルコメディ作品。

――しかし小学生の頃からシュトーレンを焼いていたとは、筋金入りですね。そして高校を卒業されたのち、「シャトー・ド・レクレール」(辻調グループのフランス校)で製菓を学ばれますね。いきなり渡仏することへの不安はありませんでしたか。
なかったです。とにかく本場の国がどのようなところか、自分の目で確かめたかった。ただ、父親は「そんな道ではなく大学へ進学して安定した会社に就職してほしい」と反対でした。幸い、祖父が花火の色をつくりだす技術者で「手に職がつくのはいいことだ」と後押ししてくれ、お金も出してくれたんです。

▲コース3品目はチコリコーヒーのパルフェグラッセ。

レストランで培った一期一会のお菓子づくり

――実際にフランスで学ばれて、どのように感じましたか。
いやあ、学校は厳しかった。研修先はパティスリーやトゥレトゥールだったのですが、職場よりも学校のほうが厳しかったくらい。授業もフランス語で、必死で翻訳しながら学びました。同じフランス校でも製菓より調理を勉強する学生たちと意気投合するようになり、「自分はレストランのほうが向いているんじゃないか」と考えるようになりました。

――実際、京都の「老松」のあとはレストランのお仕事にも就かれていますね。キッチンの様子はいかがでしたか。
お菓子だけではなく「まかない料理」を担当できたことが、いい経験になりました。いまある食材で、その場で考えてつくる。そんなふうに瞬時に判断する力が身についたと思います。だから、僕のお菓子にはレシピがないんです。日によってできるものが違うし、もっと言うと同じ日でも時間によって違います。「素材にこの香りを入れたら、この酸味を入れたら、おいしそうやな」って、ひらめきを大事にしながら臨機応変に調理します。なので、同じものが2度とつくれない。僕のお菓子は一期一会なんです。

▲コース4品目、「メイン」はババ(サヴァラン)。ラム酒ではなく黒ビールに漬け込んだ変わり種。添え物の紅茶アイスは卵白のみ使っているそう

――一期一会のお菓子ですか。それは何度でも通いたくなりますね。そういった時と場合に応じたお菓子づくりに至ったのは、レストランで働いた経験が大きいのでしょうか。
そうですね。レストランで働いた経験がかなりアイデアとして活きていると思います。レストランではメイン料理のほうにばかり食材費が割り当てられていて、デザートに原価をかけられないことが多かったんです。そのため悔しい想いもしたし、安い食材を使っていかに工夫するか、美味しく仕立てるかに情熱を注ぎました。手間暇をかける細かな仕込みやアイデアは、そういった悔しさをバネにしつつ身につけた部分もあります。

▲最後にコーヒーor紅茶orハーブティーを選び、それに合った手作りのお茶菓子を用意。これで2500円は、確かに安い。

「アシェットデセール」を郊外にも根づかせたい

――なるほど。そして帰国後、数々の名店でシェフパティシエを務められたのち、30歳で独立されましたね。昨年は移転し、遂にアシェットデセールに特化したお店へと事業転換されました。これからの目標はありますか。
「いま、アシェットデセールがブーム」とよく耳にします。でも、まだまだ都心部に限った話だと思うんです。郊外では、いまだに「なにそれ?」です。なので自分が頑張って、郊外にもアシェットデセールの文化を根づかせたい。そして「パティシエには、こういう生き方がある」と若いパティシエ志望者にも知ってもらいたいし、自分自身が憧れられる目標にならなければ。「郊外の店でもアシェットデセールで成功できる」っていう事例を次世代に示していかなければならない。そう思うんです。

店舗プロフィール

Gorille(ゴリール)
住所:大阪府枚方市楠葉朝日2丁目12-5
営業時間:15:00~19:00、20:00~25:00
営業日:火曜~土曜、日曜日は要予約
SNS: https://www.facebook.com/Gorille.official/
https://www.instagram.com/gorille_official_site/

取材後記

今回は石川さんが手がけるアシェットデセールのコースをいただきながらの取材となりました。「お酒にも合うように」と甘じょっぱいお菓子で幕を開け、冷たさ、熱さ、サクサク、しっとり、フレッシュさ、香りの豊かさ、どれもピークの状態でいただけて、至福のひととき。

旬の素材や果物を「主役」に、チコリコーヒーやハーブ、黒ビールなど「名脇役」も登場し、まるで一本のお芝居を観ているような充実感をおぼえました。

そして、それぞれのお菓子に対する石川さんの解説が、さらにおいしさに拍車をかけます。幼い頃に憧れたというドラマのように、アンティーク家具に囲まれてお菓子を作る石川さんは終始生き生きしており、今後の活躍がますます楽しみになる取材でした。

この記事の筆者

吉村 智樹

おもに西日本の街・店・会社・行政・人を取材するライター。Web&紙。関西ローカル局で放送作家としても活動しています。@tomokiy

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