最高峰トップショコラティエ、ジャン=ポール・エヴァン氏に聞く「クリエイションへの挑戦」

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世界のトップパティシエ・ショコラティエが集う『サロン・デュ・ショコラ』。
今年も1月22日(月)~28日(日)まで、東京・新宿NSビルで開催され盛況を極めました。




本イベントでは新作ショコラや新進気鋭のショコラティエに出会えるだけでなく、参加シェフの素晴らしい知識・経験に触れられる「ショコラセミナー」も開催されているのです。

今回はサロン・デュ・ショコラ第一回から参加し、毎年セミナーのトップバッターをつとめるジャン=ポール・エヴァン氏のトーク回を取材。ショコラティエとして広く知られるエヴァン氏でも、若い頃はクリエイションに対する葛藤があったそうなんです。ここではエヴァン氏の経歴を追いながら、お話の内容をレポートしたいと思います。

ジャン=ポール・エヴァンってどんな人?



ジャン=ポール・エヴァン氏は1957年生まれの60歳。
1975年にインターコンチネンタルホテルでパティシエとしてのキャリアをスタートさせ、その後12年間、ホテル・ニッコー・ド・パリのジョエル・ロブション氏の下で修業を重ねます。
「ペルティエ」東京店のシェフ・パティシエを務めた経験から親日家としても知られるエヴァン氏。国内外のコンクールでの優勝、MOFパティシエの称号など数々の栄誉に輝いたのち、1988年31歳の時に独立。
現在はパリ市内に5店舗、日本国内に12店舗、ほか台北や上海などに出店するなど、世界最高峰のトップショコラパティシエの地位を築いています。




エヴァン氏のショコラの魅力は、何と言っても「芸術品のような美しさ」。素材や味へのこだわりはもちろん、独創的で遊び心のある豊かな感性から生みだされるショコラは、いつの日も人々を惹き付けます。



また今年はエヴァン氏にとって記念すべきメゾン設立30周年を飾る年です。今シーズンのテーマはアネ トラント(30年代)。1930年代のアート作品をモチーフにしたコレクションボックスを展開します。

試食で学ぶ「エヴァン氏のショコラのひみつ」



セミナーでは毎回トークに合わせた試食が楽しめることも魅力のひとつ。
今回は「エヴァン氏のショコラのひみつ」ということで、水で作る「オー ドゥ ショコラ」と、牛乳で作る「ショコラ ショ」の飲み比べを行いました。


△左の無印がオー ドゥ ショコラ、シール付きカップがショコラ ショ。

今回の試食では、どちらも香りを主張しすぎないコロンビアのカカオを使っているそう。実際に飲み比べてみると確かに違いがありました。
・オー ドゥ ショコラ=サラサラとしたテクスチャ(質感)。カカオの苦味、うまみ、強さなどをストレートに感じる。
・ショコラ ショ=まろやかでコクがある。やわらかい味。時間が経つと重くトロッとしたテクスチャに。

そのほかにも、
・タブレットは鮮度が大事なので作り置きはしない。
・トリュフは軽さを出すために空気を多く入れている。
・マカロンはビスキュイとガナッシュの成分がより溶け合うよう、出来たてを24時間冷蔵保存する。

など…。研究熱心で職人肌としても知られるエヴァン氏の、独自の技術論も学べる内容になっていました。

名だたるトップショコラティエでも、クリエイションには批判と葛藤がつきものだった



「エヴァン氏のショコラのひみつ」を探る今回のセミナートーク。
エヴァン氏は独立のきっかけとして「ジョエル・ロブション氏からは本当に色々なことを学び、クリエイティブで発見の多い時間を過ごした。しかし自分の形を作っていかなければいけないと気づいた」と話します。

独立後はさまざまな取り組みを実践。日常で楽しめるようなアペリティフのショコラをと、「スシ ショコラ」やフロマージュを使用した「ショコラ アペリティフ」を発表します。しかし世間の風当たりは冷たく、「おかしなチョコを作りすぎじゃないか」「目立つためにやっているんじゃないか」とも言われたそう。



また2002年、初めて日本で開いたブティックも、出店先である伊勢丹との5年にも渡る試行錯誤が実を結んだ結果でした。

ショコラの世界を紹介したいという想いから、「外部の香りと混ざらないよう、閉じられた空間で静かに過ごして欲しい」というエヴァン氏と、建物のコンセプトや客層を考慮して「スタンド形式がいい」と望む伊勢丹。双方の考えは平行線でしたが、エヴァン氏はある時たまたまシガーバーの前を通り、このイメージならぴったりだとひらめきます。これをきっかけにアンデルセン社の協力のもと、伊勢丹新宿店に「カーヴ ア ショコラ」と、併設の「バー ア ショコラ」をオープンすることになったのです。

クリエイションって難しいし複雑。しかし… エヴァン氏の想いとは?



エヴァン氏はこの頃についてこう話します。
「ショコラと他の食材とのコラボレーションはとても面白く、口の中でのハーモニーが出来上がるのが楽しかった。思い返すと、ここで止めずに新しいものを作り続けたことが、今もショコラへの情熱を持ち続けるいい経験になっているのではと思う」と。
そして、セミナーの最後に設けられた質疑応答では参加者からこんな質問も。



参加者「食品開発の仕事をしていますが、独創的な商品を作るのがとても難しいです。30年間第一線で活躍されているエヴァンさんは、どういった想いを大切にしているのですか?」

エヴァン氏「確かにクリエイションは難しいし複雑です。私の場合は年間のテーマを決めてある程度の枠を作り、そこから色や味といったベースを決めています。またショコラやケーキの歴史に新しいアイデアを絡めることで思わぬ商品ができることも。歴史に基づいた上で新しいアイデアを入れていくのが良いのでは」


△サロン・デュ・ショコラ2018限定、葉巻をモチーフにした「フュメ キューバ」などショコラロブストも人気でした

さらに、「30年の間で一番記憶に残っている商品は?」という参加者からの質問には「ショコラ アペリティフ」と即答したエヴァン氏。批判や悩みを伴ってもクリエイションの原動力となっているのは、いつも根底に「お客様にショコラという世界を楽しんでほしい」という想いがあるからではないでしょうか。

まとめ



いつの時代でも、まだ誰も見たことがない新しいものを生み出すには葛藤がつきもの。
最高峰のトップショコラティエとして今や押しも押されもせぬ地位を確立したエヴァン氏でも、さまざまな苦労や悩みを乗り越えてきたことがうかがえたトークセミナーでした。

ショコラへの愛と情熱、探究心を持ち、批判を恐れず挑戦し続けるエヴァン氏のように、みなさんもたくさんのクリエイションにトライしてみてくださいね。

written by

田窪 綾

今年からPATISSIENTでライターを務めさせていただくことになりました。
甘いものとごはんのおともに目がなく、日々食欲と体重の間で揺れる生活を送っています。(Twitter:aso0035)

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