PATISSIENTも賛助会員として参画している「ヌーベル パティスリー デュ ジャポン」は技術の向上を通じて洋菓子業界の発展・貢献を目指し、毎回専門的なテーマを設定し講習会を開催しています。
ラ・パティスリージョエルのオーナーシェフパティシエでもある木山寛代表は、「技術の向上はもちろんのこと、定期的にこのような業界人が集まる“場”を提供することでパティスリー同士の横の繋がりも作っていってほしい」と、開催に際していつもその想いを若手パティシエへ発信することを心がけているといいます。
講習会の主催である「ヌーベル パティスリー デュ ジャポン」の木山寛代表
情報共有や他店からの刺激などをもらえる貴重な機会ともあって、今回も100名近くのオーナー・パティシエの方々が関西各地から集まりました。 今回は先日開催された講習会の様子についてお届けします。今回のテーマは【フランス伝統菓子を現代的なテイストで】
講師は数々の賞を受賞してきた巨匠、ナセルディーヌ・メンディ氏。(以下メンディ氏)。 メンディ氏はパティシエの誰もが憧れるM.O.F.(国家最優秀職人賞。フランス文化の最も優れた継承者たるにふさわしい高度の技術を持つ職人に授与される称号。)を取得している一流の中の一流。 フランスでは今年(2016年)3月をもって「定年退職」を迎えられましたが、「ヌーベル パティスリー デュ ジャポン」の掲げる理念と講習のテーマに共感し、今回はるばるフランスより来日されました。 パティシエはどうしてもいわゆる現代的な“目に美しいお菓子”を目指しがち。 しかしまずはフランス菓子そのものについての知識を正しく得て、お菓子作りの基礎となる伝統菓子の作り方を知っていなければ、パティシエとしての技術はどうしても伸び悩んでしまう。 そのような理由から伝統的なフランス菓子について正しく理解していくことをテーマとした今回の講習会。 メンディ氏が語り、そして実演する「フランス菓子の正しい基礎」とは? 早速講習開始です。受講者の方々も真剣に聞き入っています。 メンディ氏の講習は受講者参加型スタイル。ときには『元気ですか?!』と日本語を交えたジョークをいれ、楽しませてくれます。
「プラリネとジャンドゥーヤの違いを皆さんは知っていますか?どちらにもアーモンドと砂糖が入っていますが、誰か分かる方いますか?」 「私はゼラチンとペクチンを使い分けています。なぜかわかりますか?」など参加者の方々にたくさんの問いかけをしながら進めていきます。 また素材(メレンゲやヌガー)が出来上がるたびに受講者が実際に見て、触れて、食べられるように全員に試食を配ります。 『現場で【見て】 【聞いて】 【話して】スキルを付けていく』 そんなメンディ氏のパティシエとしての在り方がそのまま講習に反映されています。メレンゲの柔らかさを確かめるメンディ氏。
道具の使用について、メンディ氏は最近の若い人はガジェット(道具)に頼りすぎだといいます。 「手で作れるものは手で作るべき。道具がないと何もできないパティシエになってしまいかねません。」と語ります。 またメンディ氏は道具をとても大切に扱います。例えば使い終わった口金はすぐに洗い場に持って行って、もとにあったところに返します。 「当たり前ですが大切なことです。」とのこと。 そして「道具を洗う“洗い場”も大切な仕事です。」と言います。 「どんなにいいシェフでも道具がキレイじゃないと綺麗なケーキは作れません。 チームで仕事をするわけですから、道具をキレイにする人がいてそれを使ってケーキを作る人がいる。 どのポジションも美味しいケーキを作る上で重要な役割を担っています。」 道具一つでも、メンディ氏が考えるパティシエとしてのあるべき姿が垣間見えます。一番繊細になる生クリームのデコレーション。
美しい模様の完成です。
生ゼラチンについて熱弁。
メンディ氏は各レシピで注意するべき点とその理由を理論と実技で丁寧に示してくれます。 例えば、生ゼラチンに入れる水の量で出来上がりが大きく変わってしまうこと。 チョコレートの混ぜ具合で食感が全く違うということ。 また自分が学んできたレシピ、コツなどを惜しみなく伝えてくれました。ヌガーの様子を参加者と交流しながら説明するメンディ氏。
講師歴が長いだけあり、一貫して受講者にわかりやすい説明をしてくれたメンディ氏。 時には厨房に呼び間近で製造過程を見せてくれました。 しっかりとした技術を提供したいというメンディ氏の熱い思いが伝わってきました。M.O.F.取得パティシエNasserdine MENDI氏から学ぶ“本物”のパティシエとは?
M.O.F.を取得したメンディ氏。 講習の終わりに、メンディ氏はパティシエがコンクールに参加すること、そしてパティシエのキャリアアップについて、次のように語りかけました。 『コンクールに入選するために1~2年本気でやろうと意気込むパティシエが最近とても多いように感じます。 ですがコンクールは受験勉強ではありません。コンクールありきで仕事をしている人は本当のプロになることができません。 私はM.O.F.のために仕事をしてきたのではなく、何年もかけて準備をしてきました。 私がこの業界にはいったのが14歳。 M.O.F.に挑戦したのが34歳。 20年のキャリアを積んで、ただただ参加したのではなく“勝ち”にいったんです。 私は洋菓子作りの技術の全てをパティスリーの「ラボ」で経験してきました。 見て、聞いて、人を見て、オーナーと意見を出し合いながらでしか得られないものがたくさんあります。 積極的に自分からそのようなチャンスや機会を掴んでいかないと技術はついてきません。 与えられる情報に頼るのではなく、自分からコミュニケーションを取っていき考えて行動する人が成長します。 いいパティシエというのは“日々の業務から学んでいる人”です。 現場での経験をどれだけ重ねていくか。毎日お店に立ち、お客様のためにケーキを作り続ける。 当たり前のことですが、パティシエとしてきちんと仕事をしていくということが大切です。 お客様は正直で、お店のケーキが美味しくなかったり、店が汚かったりしていたら二度と来てくれません。 それもまた大切な勉強です。 私は「M.O.F.」の前に皆さんとおなじ1人のパティシエ。 ただ皆さんよりも経験が多いというだけです。 まずはパティシエとしてつけるべき技術を現場でしっかり身につけてください。 昔と違い、今は勉強会などスキルを磨く機会にも恵まれています。そのようなチャンスを活かしながら、 是非パティシエとして大きく成長していってください。』 プロとして毎日丁寧に仕事をしていくことの大切さ、その毎日の積み重ねがあってこそコンクールを目指す価値があるということ。 当たり前のことを誰よりも意識してやってきたからこそ、誰もが認めるパティシエとして世界をまたに活躍することができるのだとメンディ氏は教えてくれました。完成したケーキ ・Plaisie d’ Automne (秋の歓び)
・Tarte ChiboustPoires/Caramel (タルト・シブースト・ポワール・キャラメル) ・Mont-Blanc Exotique (モンブラン・エグゾティック) ・Canisy de Normandie (カニジード・ノルマンディー) ・Nougat Gianduja (ヌガー・ジャンデュージャ)