この記事は2015年6月下旬に行った取材を基に制作しております。
パティスリーBeni オーナーシェフパティシエ
内山 能博さん
神戸の有名パティスリーの工房で工場長を務め、その後京都の素材にこだわった洋菓子が人気のパティスリーでのスーシェフを経て独立。現在は京都の閑静な住宅街で「パティスリー Beni」を経営しながら人材の育成にも力を入れている内山さんは、実は専門学校に行かずに洋菓子業界に飛び込んだ経歴の持ち主。
今回はそんな内山さんの独立までの「仕事人」エピソードをお聞きしてきました!
いつから独立を考えていましたか?そのために意識していたことはありますか?
高校卒業後、専門学校に行かずに神戸のパティスリーの工場に知り合いの紹介で入社したんですが、独立は高校のときから考えていました。
はじめは業界についてなにも知らない状態でしたが、パティシエになるからには自分のお店を持ちたい!と強い気持ちを持って洋菓子業界に飛び込んだのを覚えています。
その後本当にいろいろなことがあったけれど、パティシエになると決めたときから「独立する!」「やりきる!」と心に決めていたので独立まで心が折れなかったのかな、と今振り返ると思いますね。
独立資金はどのくらいですか?また、いくらお金を貯めましたか?

実は自己資金はほとんどなくて、親が一緒に商売をする予定で貯めていたお金と、あとは借入ですね。1か所だけじゃ足りないから、いろんなところから借りて、家を担保にしたりして。
お店を建てるのにさら地から新築で建てているので、実は7,000万円ぐらいかかっているんですよ。こんなにかかるなんて、まったくの想定外で。はじめの頃は本当につらかったけど、でも今振り返ると、借金があるからいろんなことを投げ出さずに頑張れたのかもしれないですね。
独立に際して、上司や先輩から何かサポートはありましたか?
パティシエになった当初から店を持つのが目標だと言っていたこともあって、周りの人から反対されることはありませんでした。ただ同年代ですでに独立していた友人からは、大きな企業で2番手として働く方が収入も多くて安定するからそのままでもいいんじゃないか、と言われましたね。
確かに単純に収入面だけ計算すると大きな企業の2番手のほうがいいんですけど、ただどうしても自分の店が持ちたかったので、そこでやめるつもりもなかったんですけどね(笑)
独立前に考えていたお店のコンセプトは?オープン後にそれは変わりましたか?
高校生のときに考えていたのは、山小屋風の内装の、オルゴールの音色が似合うような、あったかい雰囲気のお店をやりたいと思っていました。夫婦二人で誰からも親しまれるような地域の洋菓子屋さんをやりたかったんです。
でも前職の洋菓子店がすごく素材にこだわった、フランス菓子まではいかないけれど、おやつ菓子プラスアルファの付加価値を持たせたキレイめのケーキをつくっていたんですね。価格もそこそこの値段をつけていたんですが、そこである程度の価格を設定したほうが素材にこだわったり新鮮なフルーツをたくさん使えたり、「おいしいケーキ」をつくるためのいろいろなことができると教えてもらったんです。
もちろんお客さんに愛されるお店にはしたいですが、やっぱりおいしいケーキを提供したいので、お店をオープンする段階では「山小屋風」ではなく「ちょっとキレイめ」のケーキを目指しました。
独立してから苦労したこと、嬉しかったことなど、記憶に残っていることを教えてください。

苦労したことは、もう、借金ですね(笑)でもそのおかげでがむしゃらにがんばることができたんだと思います。
嬉しかったことは、お客さんの声が直に聞けることですね。「おいしい」「ありがとう」という言葉をもらえるのはもちろん、「去年の今頃に出ていたケーキがおいしくて、今年は出さないんですか?」というような、1年前のことを覚えていて気にかけてくれているんだ、というのをお客様から直接聞くことができたというのはものすごくうれしかったですね。
今だから思う、「独立前にこれをやっておけばよかった」ということはありますか?
パティスリーをやる以上、お客様には「おいしいケーキ」を食べてもらいたくて、そのために必要なのは「おいしいケーキを組み立てることができる力」だと思っています。
私ははじめに就職したのが個人店のパティスリーではなく工場でした。20年勤めて最終的に工場長までなりましたが、役職が上がってくると製造よりマネジメントが主な業務になってきます。1つの会社に長くいるとその会社のやり方しか知らないことにもなるし、どうしても視野が狭くなってしまいますよね。
途中から「これはまずい」と思って外部から講師のパティシエを呼んで講習会をしてもらったり、新しい技術、知らない知識を吸収できるような取り組みをたくさんしましたが、「おいしいケーキを自分で組み立てられる力」である製造の技術をもっと磨いておけばよかったな、というのは感じています。
今のお店の運営方針や大切にしていることを教えてください。
とにかく「人」ですね。お店を盛り上げるのも、新しいことをするにも、絶対に「人」が必要です。うちの店に入ってくれた人には、できるだけ長く続けてもらいたいと思っているので、時間をかけて育てていくためにオーナーとしてシェフとして、店としても何ができるのかいつも考えています。
労働環境を整えることもそうだし、もちろん良い商品をつくりつづけることも大切ですね。
今後の展開を教えてください!
さっきも言ったように、何事も「人」がなければ動かせません。それはうちの店でもそうだけど、洋菓子業界全体を見てもやっぱり「人」がいるからこそできることがたくさんあると思うんです。
だから、まずはうちの店に入ってくれたスタッフをしっかり育てて、洋菓子業界で長く活躍していけるような人材になって、業界に貢献していってもらえたらと思います。
パティスリー Beni

有名店での修業を経たオーナーが2011年にオープンしたパティスリーは、京都精華町で地元の方から「いつ来ても何か新しいものがある」と人気のパティスリー。太陽の光がたっぷり入る明るい開放的な店内では季節のフルーツをふんだんに使った洋菓子をはじめ、バウムクーヘンや焼き菓子など様々な商品を展開しています。