みなさんがパティシエを目指したきっかけは何ですか?お母さんの手作りのお菓子の思い出や、ケーキ屋さんの甘い香りに魅了された経験など、この世界を志すきっかけがみなさんにもあったはず。今回ご紹介するのは、製菓学校に通うことなく洋菓子業界に飛び込んだ、ある女性のエピソードです。
一生に一度の晴やかな舞台を彩る“ウエディングケーキ”。パティシエなら誰もが一度は憧れたことがあるのではないでしょうか。
そんな“ウエディングケーキ”という大役を任されるまでに成長した彼女の原動力は、幼少期に体験したある出来事がきっかけでした。
まるで魔法のよう!初めてのお菓子作りがパティシエを目指すきっかけに
共働きの家庭で育ち、母親の手作りのおやつを食べることも、お菓子がどのようにできるかも知らなかった私が、初めてお菓子作りを経験したのは小学校の調理実習でした。
透明な卵白がある瞬間を境に真っ白なメレンゲに変化する様子、部屋中に漂う香ばしい香り、焼きたての柔らかく甘いケーキの味…そのとき私が目にしたものは、明らかにわたしが知っている「お菓子」とは別物。幼い私には、お菓子が出来上がる工程がまるで魔法のように感じられ、「こんな美味しいお菓子を作れる人になりたい!」という強い想いを持ったことが、私のパティシエ人生の第一歩となったのです。
“レードル”すら知らない素人がいきなりパティシエの世界に!
パティシエになるためには、製菓学校に進むのが一般的。しかし当時は、自宅から通える学校はなく、学費も高額だったことから、思い切って現場に飛び込むことを決意。未経験ながらも、運良く小さな洋菓子店に就職が決まりました。
念願のパティシエとして働き始めたのも束の間。パティシエであれば知っていて当然の材料や道具の名前もろくに分からず、「レードル準備して!」と言われ道具置き場の前を何分もウロウロしたり、銅鍋を洗うためのレモンの使い方が分からずに立ち尽したり…。毎日のように上司から大声で怒鳴られ、その度に涙をこらえて作業を行いました。
そんなとき、決まって頭に思い浮かんだのは、幼い頃の調理実習の思い出。あのとき経験した感動や驚きを思い出せば、何度でも頑張ろうという気持ちが湧いてきました。誰もが一度は経験するほんのささいな出来事が、私にとっては何よりも大きな原動力となっていたのです。
「原点に帰ること」がパティシエとして働く秘訣
最初のお店で3年間修行を積み、その後いくつかのお店を経て、やがてパティシエとしての目標でもあったウエディングケーキの担当に抜擢されました。高い技術や経験、そしてセンスを要するウエディングケーキを任されたことは、パティシエ人生の中の大きな壁を飛び越えた瞬間でもありました。
結婚を機に一度は洋菓子の現場から離れたものの、再びパティシエとして現場に復帰。技術職であるパティシエにとって数年のブランクは致命的ですが、迷わず復帰を決めることができたのは、やはり幼い頃のあの経験でした。
私が今もパティシエとして働けていられるは、あの経験を忘れずにいるからこそ。お菓子が出来上がるときの魔法のような光景と、お菓子を食べたときの幸せな気持ちを思い出せば、不思議と不安や迷いはなくなり、いつも前向きな気持ちになれるのです。
全くの未経験からパティシエの世界に飛び込んだ彼女。人一倍壁にぶつかりながらも、彼女の原点とも言える幼少期の経験を思い出すことで、彼女は今もパティシエとして第一線に立ち続けているのです。