食のプロだからこそできる応援を。被災地農家応援#CookForJapan社団法人化を発表

  • 潜入レポート

2020年2月3日、神奈川県横浜市内にて、被災地農家の応援を目的に活動する#CookForJapanを社団法人化する発表会見が行われました。2019年秋に日本を襲った台風18、19号。被災した農家を応援しようと、ひとりのシェフが声掛けをしたことに始まります。

▲甚大な被害を受けた長野県内(長野「フルプロ農園」提供)

南仏カーニュでフレンチレストラン『Table de KAMIYA』を営むオーナーシェフ・神谷隆幸さんは、とくに被害の大きい長野のりんご農家の惨状をTwitterのネットニュースで見て、こうツイートしました。「被災農家さんから購入したりんごでタルトタタンを作りませんか。ダイレクトメッセージで購入明細を送ってくれたら、レシピをお渡しします」

自分の大切なレシピを投稿することで、被災地食材の購買につなげたい。そのレシピで作ることで、一般の人たちにも美味しく食べてほしい。その想いに賛同した料理人やパティシエ、料理研究家ら食のプロたちが自身のレシピを次々に投稿。

石川県金沢市で焼菓子専門店『BAKE SHOP bien Bake』を営む坂下寛志シェフは、「タルトポム クランブル」のレシピをいち早く投稿しました。

さらに、お店で出しているタルトポム クランブルも、長野のりんご農家「フルプロ農園」から取り寄せて製作しています。

また、兵庫県尼崎市の『洋菓子店リビエール』西 剛紀シェフも、「リンゴのクラフティ」レシピを発信。

さらに、りんごを購入した方たちのためにタルトタタンのワークショップを開催しました。その様子は神戸新聞にも掲載されています。

このように、#被災地農家応援レシピと名付けられたハッシュタグは拡散され、たくさんの人たちがそのレシピで料理を作って投稿するサイクルが出来上がっていきました。

▲長野「フルプロ農園」提供

収穫目前のりんご8割が浸水被害に遭ってしまった長野県「フルプロ農園」は、残った2割のりんご1000㎏を売り切らねばならない状況でしたが、この動きで瞬く間に完売。りんごだけでなく、かぶやさつまいも、なし、しいたけのレシピも食のプロたちから続々投稿があり、栃木県「君嶋きのこ園」の原木しいたけや茨城県「しんしん農園」のサツマイモも完売となりました。

▲左から、丸橋企画株式会社丸橋さん、神谷シェフ、「食べチョク」代表秋元さん

生産者と消費者をオンライン通販で直接つなぐ『食べチョク』を展開するビビッドガーデン代表・秋元里奈さんは、この日の会見で「私たちは被災した農家さんたちへ商品販売の手助けはできるが、一般のお客さんへの調理のアドバイスはできません。たくさん買って応援したいと思ってくださる方のために、『どう料理したらおいしく食べられるか』を知っているシェフの皆さんと組ませていただく。これはお客さんと生産者さん、双方のメリットになります。これから先もできることがあれば協力していきたい」とコメントしました。

今後も応援し続ける公式窓口を作りたい。
#CookForJapan社団法人化へ

今後、被災した農家の方たちは復興も考えていかなくてはなりません。また、これからも同じような災害被害が起こる可能性もあります。

飲食店や洋菓子店は、農家さんがつぶれてしまっては営業が立ち行かなくなります。今後も料理人の立場から長期的に農家を応援したい。そう考えて作られたのが、#被災地農家応援レシピから誕生した#CookForJapanです。

▲メンバーは料理人やパティシエ、編集者ら15名。東京都内だけでなく、新潟や石川、兵庫、徳島などで活躍しているシェフも(会場はメンバーのひとりである関口シェフのレストラン『CASTELLINA yokohama』)

#CookForJapanメンバー(※五十音順、敬称略)

●神谷隆幸@Taka09KMY(南仏カーニュ/La Table de KAMIYA)
●いがらしろみ@romiunie(神奈川県鎌倉市/Romi-Unie)
●石川雄一郎@u1_i(東京都港区/土佐しらす食堂二万匹)
●江六前一郎@icro_erkme(編集者)
●小野田裕也@yuyacake0301(愛知県豊田市/車街酒場 WAO!)
●表 原平@tairantooo(徳島県上勝町/ペルトナーレ)
●坂下寛志@Sakashita_h(石川県金沢市/BAKE SHOP bien Bake)
●サガワショーコ@parfait0amour(新潟県佐渡島/レストラン&バーこさど)
●スラス・ステファン@steeeephaaaan(東京都立川市/立川カフェStephan and Joe)
●関口幸秀@yukihide_lion(カステリーナグループ)
●違 克美@TabisuruConf(神奈川県横浜市/旅するコンフィチュール)
●西 剛紀@nishitake0525(兵庫県尼崎市/リビエール)
●野田一寿@NodaKazutoshi(神奈川県横浜市/Hitotsu)
●丸橋裕史(丸橋企画株式会社/プロデューサー)
●渡邉泰史@15portebonheur(埼玉県北浦和/パティスリーポルトボヌール)

(※会見後、フリーランスパティシエとして活躍する石渡未来さん(@miku0809i)も加わり16名となりました)

社団法人化したのは、公的窓口を作ることで今後も継続して農家を応援するため。「食べチョク」や地元企業などと連携し、より多角的な活動を続けていくそう。

発起人であり、南仏から来日した神谷シェフは会見で「このメンバーは全員がTwitterつながり。活動場所もやっていることも違うけれど、同じ想いを持ち、同じ方向を見ている。だからこそ幅広い方法での応援ができるのではと考えています」とコメントしました。

商品化に海外進出、レシピブック制作。
さらに広がる応援の輪

これまでも、被災地食材を使った料理教室を開催したり、一般の方たちと集まって投稿レシピを作って食べる「#被災地農家応援レシピを作る会」を開催したりと、メンバーそれぞれで活動を続けてきた#CookForJapan。

被災からおよそ2か月後に始まった、長野のりんご農家によるクラウドファンディング「アップルライン復興プロジェクト」にも#CookForJapanとして協力。活動資金となる一口15000円を寄付してくれた方へのリターンとして、長野食材を使った3日間限りのコラボディナーチケットを提案したところ、高額にもかかわらず開始から5時間で売り切れになりました。およそ70名のうち、9割の方が県外から参加するなど、集客の高さが伺えます。

▲会見では協賛企業・プライムミートからコラボディナー食材として提供される「信州プレミアムビーフ」の試食も

▲2月3日の社団法人化の発表会見では、試食用の信州プレミアムビーフをステーキに仕上げるため、銀座『ティエリーマルクスジャパン』総料理長・小泉敦子シェフが駆けつけた

今後は、被災地食材を加工し販売することで、生産者自らがブランド価値を高めていく手助けをしたり、被災地農家訪問ツアーなどを企画したりしていくとのこと。応援の輪はさらに広がります。

メンバーのひとりである創作フレンチ料理店『Hitotsu』のオーナー、野田一寿シェフは、同じ志を持つ被災農家支援団体「チバベジ」とともに規格外の野菜の加工法を模索。日本酒やゆず、菊の花など、日本を代表する食材を使ったピクルスの商品化を進めています。

また、東京・神奈川に6店舗を展開するイタリアン『カステリーナ』グループの統括料理長・関口幸秀シェフは、自身が#被災地農家応援レシピとして発信した、りんごとマスタードを使ったスパイシーなジャム「モスタルダ」を、イタリア・ミラノで行われる長野食材のPRイベントでお土産として配ります。今後は商品化も考えているという関口シェフ。「りんごは日本では生食のイメージが強いが、料理人としては水分が少なめの加工用の方が使いやすい。値段が下がってしまいがちな加工用を正規の値段で買い取り、調理・販売する流れを作りたい」と意気込みを語りました。

編集者として参加する江六前一郎さんは、クラウドファンディングを通して、集まったレシピを一冊にまとめたレシピブックの制作に取り掛かります。その一環として1月に開催した、一般の方々と一緒に実際にレシピの料理を作って楽しむ「#被災地農家応援レシピを作る会」は、子どもから大人までが楽しめる盛況な内容に。食育にも通じるとして、3月の開催も決定しています。

▲2020年1月に開催された「#被災地農家応援レシピを作る会」の様子

神谷シェフは最後に、「大切なのは被災地のことを風化させないよう、農家の応援を続けること。生産者さんと消費者の方が楽しく作って食べ、みんながハッピーになれるようなことをして、結果的に生産者さんたちが助かるようなことをどんどん考えてやっていきたい」と決意を語りました。

近年、日本国内では災害が相次いでいます。「何かあったらすぐに動ける準備を整えておきたい」と話す#CookForJapanメンバーの皆さん。できる人ができることをやっていく姿勢はとても素晴らしく、また、楽しく取り組めるなら継続も出来そうです。

料理人やパティシエ、料理研究家の皆さんによる#被災地農家応援レシピ 投稿も続いています。ハッシュタグをつけてレシピを投稿すれば完了です。また、被災地食材を使ったメニューで被災地農家への寄付に充てる#CookForJapan賛同店も継続募集中。作って、食べて応援できる輪が広がっています。

written by

田窪 綾

調理師免許持ち、レストラン勤務経験ありのライターです。東京都内近郊を中心に、食と食に関わる方の取材執筆をしています。(Twitter:aso0035)

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